約 4,260,038 件
https://w.atwiki.jp/kizunabattle/pages/14.html
■ デビルについて デビルとはキズナバトルのデッキを構成する各カードのことです。 通常、クエストやガチャ、あるいはニューイヤーバトルなどのイベント報酬で獲得します。 まれに背景がキラキラのカードが手に入ることがあり、これらは攻撃力・防御力が1割増しになります。 デビルには以下が設定されており、キズナバトル時に効果を発揮します。 ■属性 各デビルには、「火」「水」「風」「土」「光」「闇」の6種の属性のどれかが設定されています。 属性には相性があり、キズナバトルで直接対する敵との相性で、ボーナスあるいはペナルティがつきます。 各相性を表にしてみました。 属性 概要 対火 対水 対風 対土 対光 対闇 火 土に強く、水に弱い -20% +20% -10% +10% 水 火に強く、風に弱い +20% -20% -10% +10% 風 水に強く、土に弱い +20% -20% -10% +10% 土 風に強く、火に弱い -20% +20% -10% +10% 光 闇に弱く、その他に強い +10% +10% +10% +10% -20% 闇 光に強く、その他に弱い -10% -10% -10% -10% +20% なお、デッキに同じ属性のデビルを3枚以上入れると、属性コンボとなりその属性のデビルの能力(攻撃力・防御力)にボーナスがつきます。 3枚で+5%、4枚で+7%、5枚で+10%です。 ■種族 「妖精」「魔剣士」「夢魔」「獣人」「天使」「堕天使」など15の種族があります。 それぞれのレア度ごとの枚数構成は以下のようになっています。 種族 枚数 N HN R HR SR SSR 備考 異神 4 2 1 1 英雄 4 2 1 1 剣精 7 2 2 2 1 獣人 10 2 2 3 2 1 女神 7 3 2 1 1 精霊 1 1 メルチー 堕天使 10 2 2 4 1 1 天使 10 1 3 2 2 1 1 魔王 5 2 1 2 魔神 5 2 2 1 魔戦士 19 2 1 4 2 1 魔闘士 4 2 1 1 夢魔 9 2 4 2 1 妖精 12 3 3 3 2 1 妖魔 6 1 2 2 1 ■ 攻撃力、防御力 攻撃力はこちらからバトルを仕掛けた時、あるいは練習試合のときに関係する数字です。 防御力はバトルを仕掛けられた時に効果を発揮します。 つまり、攻撃力の高いデビルは攻撃デッキ向き、防御力の高いデビルは防御デッキ向きです。 これらの能力は、強化によって向上します。 ■ レアリティ デビルにはレアリティがあり、出現率には差があります。 レア度によってその能力値には差があります。ノーマルにはデビルのスキルがありません。 レア度 限界MAX LV 限界MAX 能力合計 限界MAX 攻撃力 限界MAX 防御力 入手法 備考 ノーマル 130 8820~9270(推計) 3150~5850(推計) 2970~5670(推計) クエスト探索、友情pt召喚、銅の召喚石 スキルなし ハイノーマル 130 17640~18720(推計) 6570~10710(推計) 6930~11250(推計) 友情pt召喚、銅~金の召喚石 レア 140 26300~27900 10800~16400 9900~16200 プラチナガチャ(70%)、銅~金の召喚石 メルチー除く ハイレア 140 35200~37200 14800~21600 13600~22100 プラチナガチャ(25%)、銅~金の召喚石、イベント報酬 Sレア 150 43700~46200 20400~26100 18100~24400 プラチナガチャ(4.5%)、金の召喚石、イベント報酬 SSレア 150(推計) 52500~54500 22500~31800 20700~31900 プラチナガチャ(0.5%) レア(メルチー) 1 2 1 1 イベント報酬 ■ スキル HN以上のデビルには、それぞれスキルが備わっています。(メルチーを除く) 強化によりスキルレベルが上がると、発動率が1%づつ向上します。効果値も向上するようです。 基本的に、レアリティが高いほど効果が高くなります。(+の数値はスキルレベル Lv1時) レア度 自分の攻/防 敵属性の攻/防 自属性の攻/防 全属性の攻/防 (光属性のみ) ハイノーマル 小アップ(+5%) 小ダウン(-5%) 極小アップ - レア 中アップ(+8%) 中ダウン(-8%) 小アップ(+5%) 極小ダウン ハイレア 大アップ (+11%) 大ダウン(-11%) 中アップ(+8%) 小ダウン Sレア - 特大ダウン 大アップ - SSレア - 極大ダウン(-20%) 特大アップ 大アップ / 大ダウン
https://w.atwiki.jp/captain-rainbow/pages/29.html
デビル 1.おっさんのドライバーを取り戻す おっさんのノーウォッシュズボンをタオにかがせる。 おっさんのドライバーを取り戻すため、リップのパックンにヨーヨーで攻撃する。 2.コゥアを探し出す まずギッチョマンに話しかけている必要がある。 掲示板の奥にある黄色の土管から「島ウラ」へ行き、コゥアを調べるとイベント。 デビルが自宅に戻るのを待って話しかけると、「パイをもってこい」と言われる。 ひかりに作ってもらったパイをデビルに渡し、ひかりを連れてくると◎がつく。 ひかり以外の住人を連れて行くと、デビルの日記にいろいろ書かれる。 以下、ひかり以外にパイイベントに連れて来られる人物 マッポ リップ オッサン タオ 鷹丸 (怪我をしたミミンの治療が済んでから) 3.召喚 ◎がついた後、デビルが家にいるときに話しかけると、召喚のため女人の鏡を3枚持ってくるよう頼まれる。 ひかり、リップ、トレイシーの手鏡を渡せば成功。デビルの母が出現し、キラリンがもらえる。 キャサリンの手鏡を渡すと失敗になるが、デビルの父が出現する。 4.イタズラに付き合う 上記のイベントをこなした後、イタズラをしてくるよう指示される。 イタズラをするとキラリン入手、複数回可能。 メディアジャック→ ジなポスターを掲示板に貼る ストップエコ→ マッポの風車を止める 庭をあらす→ リップが庭にいないうちにすべての花を散らす その他.逮捕される 夜(パイイベントクリア後)マッポに話しかけると、デビルの家に罠を仕掛けて来るよう依頼される。 関連マッポ パイのイベントのときにひかり以外のキャラでも◎はつきますか? -- ファンタ (2008-11-22 23 09 50) 無理です -- 名無しさん (2008-12-11 18 42 42) トレイシーの手鏡は夜2メモリ辺りで取れたです -- 名無し (2009-01-18 17 51 24) ひかりの手鏡はヨーヨーまたはアタックで -- 名無しさん (2009-01-18 17 53 13) マッポおくっちゃたから逮捕はできない? -- 名無しさん (2010-04-05 12 51 14) ひかりは、紙芝居の前後は呼んでも断られます。 -- 名無しさん (2010-07-25 10 28 47) ミミン治療前でも鷹丸をパイイベントに連れて来ることができました -- 名無しさん (2012-02-15 11 32 28) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/spacefishermen/pages/29.html
ランクS ランクA ランクB ランクC ランクD ランクE ガラクタ系 ミニム系 シェル系 アニマル系 スピーダー系 ビースト系 ヌシ No. 名 前 系統・ランク レーダー 通 称 レベル 攻 撃 エリア移動 パワー スピード タフネス エレキ耐性 全 長 獲得FP 基本売却額 ドロップアイテム 生 息 地 083 ドクウニ デビル系・E ドクウニ Lv.3 なし なし 360pw 12km 120ap 50% 1.0~4.0m 1,210pts. 30P$ 惑星ユグドラ 1 2 3 4 5 084 ドクマリモ デビル系・E ドクマリ Lv.3 なし なし 360pw 16km 120ap 50% 1.0~4.0m 1,260pts. 30P$ デビルコイコイ 惑星ユグドラ 1 2 3 4 5 088 デンチクラゲ デビル系・D デンチクラゲ Lv.3 なし なし 450pw 75km 126ap 50% 2.0~8.0m 80pts. 60P$ エレキ大中小 惑星エントラス 1 2 3 4 5 惑星ピラミス 2 3 4 惑星クレイタン 1 2 3 5 6 惑星ストーマ 1 2 3 4 5 惑星ロボタニア 2 089 みたまジャクシ デビル系・D みたまジャクシ Lv.11 なし なし 440pw 3km 100ap 50% 4.0~16.0m 1,310pts. 120P$ 惑星ユグドラ 1 2 3 093 アパッチピラニア デビル系・D アパッチ Lv.5 なし なし 750pw 75km 210ap 0% 6.5~26.0m 220pts. 240P$ デカポンD 惑星キャニオス 2 5 6 086 かいぞくクラゲ デビル系・C かいぞく Lv.12 なし なし 1,800pw 20km 750ap 70% 5.0~20.0m 1,360pts. 360P$ デビルコイコイ 惑星ユグドラ 1 2 091 ニンジャウオ デビル系・C ニンジャ Lv.8 なし なし 2,240pw 327km 180ap 20% 6.0~24.0m 450pts. 360P$ アステロイド 1 2 3 4 094 ジェロニア デビル系・C ジェロニア Lv.6 なし なし 1,020pw 170km 350ap 20% 7.5~30.0m 490pts. 720P$ 惑星アクアリア 1 2 3 087 キャプテンクラゲ デビル系・B キャプテン Lv.9 なし なし 1,260pw 140km 450ap 30% 7.5~30.0m 640pts. 960P$ アステロイド 1 2 090 みたまガエル デビル系・B $ ★ みたまガエル Lv.12 なし なし 480pw 3km 100ap 50% 4.0~16.0m 1,250pts. 1,500P$ 惑星ユグドラ 2 3 4 5 092 ニンジャハンゾウウオ デビル系・B ハンゾウ Lv.8 なし なし 2,320pw 338km 300ap 20% 9.0~36.0m 610pts. 960P$ アステロイド 3 095 ブレードシャーク デビル系・B ブレード Lv.13 あり あり 1,950pw 125km 600ap 50% 15.0~60.0m 1,600pts. 960P$ 惑星ボンボーン 1 3 5 6 085 デビルきんぎょ デビル系・A ★ デビル Lv.11 なし なし 770pw 9km 600ap 70% 1.5~6.0m 1,480pts. 900P$ 惑星ユグドラ 1 2 3 4 5 097 シーデビル デビル系・A $ ★ シーデビル Lv.14 あり なし 3,080pw 440km 800ap 80% 45.0~180.0m 2,200pts. 2,300P$ パワーゲイン 惑星ロボタニア 1 2 3 4 096 スーパー大王イカ デビル系・S $$ ★★ 大王イカ Lv.13 あり なし 1,430pw 147km 600ap 80% 50.0~200.0m 2,450pts. 4,500P$ デビルコイコイ 彗星クリスター 1 2 3 ランクS ランクA ランクB ランクC ランクD ランクE ガラクタ系 ミニム系 シェル系 アニマル系 スピーダー系 ビースト系 ヌシ
https://w.atwiki.jp/anotherxxxalice/pages/27.html
登録タグ #基本用語 #システム 別表記、略称等 悪魔 概要 実体化することでバトル時に様々な追加効果が発動できる。 バトル時に使える魔法や戦術のようなものであり、メニュー内「デビル」から設定可能。 一説によると、大別すれば元々島に存在していたデビルと、かつて人間だったデビルとが存在するようだ。かつて人間だったデビルは、魂の救済を願ってこの島に辿り着いたとされているが、人間だった頃の記憶を失っている者もいるという。 また、島のシステムに大きく寄与しているデビルもおり、彼らはアナザーとの関係においては一線を引いているかに見える。 デビルたちに関しては、様々な情報が錯綜しており、デビルたちは本当のことだけを話すのを禁じられている、との情報もあることから、総括するような定義は困難だ。 ただ、どのデビルも、アナザーの身体を満たしているハーモニクスを求めている。それだけは、おそらくはこれからも変わらない性質ではないだろうか。 ~公式用語集より~ 公式用語集の通り、総括した説明は難しい。 アナザー×アリスにおいてやはり重要な要素の一つであり。魔女や使い魔の次に、もしくはそれを上回ってアナザーと会話する機会が多くなるキャラクター達であり、バトルにおいては必須な要素であり、ストーリー上においても大きな役割を果たす。 解説 システムにおいては、バトルでの最重要要素。 アナザーのステータスを上昇・減少させる、ステータス準拠のダメージを与える、相手の行動やデビルを封じる等のメジャーな物から、相手のデビルテーブルを変化させる、所持ソウルストーンがバトル敗北時に割れないようになる等特殊なものまで、効果は様々。 効果的な組み合わせの定石等もあるので、困ったらウィッカの先輩に相談してみよう。 ストーリー上では、恐らく多くのアナザーが最も課金をつぎ込む先となる。 聖戦を代表とする会話イベントで会話相手になるのは主にデビルなのだが、この時に彼ら彼女らと親密な仲になることが出来る。詳しくは、聖戦の項目を参照されたし。 また、デビルは皆、真の能力を持っており、これについて交渉するのも、主に聖戦でとなる。こちらも詳しくは該当項目を参照のこと。 魔女とのお茶会は、如何せん会話が多数対一で、おでかけに誘うのも難しく特別な関係になるのはかなり難易度が高い。が、デビルとは基本的に一対一で会話出来るし、アナザー店舗へデートに誘ったり、秘境探索に繰り出したりと自由度が高い。友達にもなれるし、恋人にもなれるし、なんなら結婚も出来る。 ……ハーモニクスさえあればね!!
https://w.atwiki.jp/storytellermirror/pages/1203.html
デビル メイ クライ 4(Part2/2) ページ容量上限の都合で2分割されています。 2009/10/26にWiki直接投稿 教団本部に入ってすぐ、生粋の魔界の悪魔である「アサルト」と悪魔をベースにアグナスが造り出した「天使」である 「アルトアンジェロ」「ビアンコアンジェロ」が戦うムービーが挿入され、両者が敵対している事がわかる。 本部内の渡り廊下。跳ね橋を下ろそうと装置を操作するがこれも魔の力の影響か、 橋自体に巨大な樹木が絡みついていて役をなさない。 仕方なく他の道を探して後戻ったネロは、はびこった大木により壁が大きく崩れ落ちた、とある一室にやってきた。 焦りに呼吸を弾ませながらぐるりを見渡し、ふと頭上の「それ」に気付いて息を呑む。 鳥籠にも似た奇妙な装置。目を閉じたキリエが揺らぐ赤い光に捉えられるようにして浮いている。駆け寄ろうとしたネロの前に、耳障りな羽音と共にアグナスが現れた。 「やっと来たか……」 「キリエに何を!」 アグナスは睨みつけるネロの視線から隠すように、キリエの前に剣を掲げて挑発する。 「自分で確かめてみたらいい。私を倒せたらの話ではあるがね」 忌々しげに舌打ちをし、 「お前は殺す。キリエは守る。それだけだ!」 端的な言葉を吐き捨てて、ネロは開いた右手をひときわ激しく光らせた。 「貴様……!貴様ッ!」 辛うじて宙に浮きつつ、腹を押さえたアグナスが、怨嗟の声を振り絞る。 「殺す!殺してやる!」 喚きながら突きつける剣に、 「来いよ。首をスッ飛ばしてやる」 今度はネロが両手を広げて挑発を返した。 度を失った叫びと共に、アグナスは剣を振りかぶり突進してこようとしたが、 その進路を猛スピードで飛ぶ何者かに遮られ、慌てて急ブレーキをかける。 「何者か」……いや、「何者かたち」……それは一群の「天使」だった。 彼らはしばらく辺りを目まぐるしく飛び回っていたが、ほどなく一斉にネロに向かって殺到してくる。 四方八方から次々と飛び掛ってくるのを或いは剣で弾き飛ばし、或いは槍を捕まえて投げ飛ばすが、 数と機動力の差のせいで防戦一方に追い込まれてしまう。 幾つもの翼が風を切る音と、剣戟の音が響く中、アグナスは傍らに生まれた光、その中から現れた鎧姿に恭しく頭を垂れた。 「教皇……」 「もう良い、アグナス。お前は降臨の準備をせよ」 老人のシルエットとは似ても似つかないが、翼を具えた豪壮な姿の鎧は確かに教皇の声でそう命じ、アグナスは従順に応じてその場を飛び去って行った。 「教皇」は眼下で荒れ狂うネロを一瞥すると頭上をゆっくり振り仰ぐ。そこにはキリエがいまだ気を失ったまま、「鳥籠」の中に浮かんでいる。 滑空してきた「天使」の槍を跳ね返し、ネロはハッとして中空を見やった。 他のものとはデザインのやや異なる鎧を纏った、四枚羽根の「天使」がキリエを抱え、連れ去ろうとしていた。 援護の為か、更にも増して激しくなった「天使」たちの攻撃を片っ端から捌きとめ、突進してきた二体の槍を両腋に挟んで投げ飛ばし、駆け出した所で剣を弾き飛ばされるがかえりみもしないで跳躍する。 「彼女に触るな!」 二体同時に飛び掛ってきた「天使」が一瞬で吹き飛ばされた。 青白く光る右手を、宙を遠ざかるキリエに向かってあらん限り、一杯に伸ばす。 「キリエーッ!」 「ネ……ロ……」 喉も割れんばかりのネロの雄叫びが届いたのだろうか、 目を閉じたままのキリエが無意識の下から、囁くようないらえを返した。 しかし、彼がその存在を呪いながらも同時に少なからず頼みにもしていたであろう悪魔の腕は、 先刻のようにやはり肝心なところで彼を裏切った。 彼に出来たのは、辛うじて、その胸に下がっていたペンダントを掴み取る事だけ。次の瞬間には、急降下してきた一体の「天使」によって地上に叩き落され、床に磔にされてしまう。 「その力、やはりスパーダの血か……」 鎧の下でもがくネロを見下ろし、教皇はそう呟いたが、すぐに踵を返し、飛び去っていく。直後、その後詰をするかのように二体の「天使」が宙を滑り、襲い掛かってきた。 が、最早遠くなるキリエの姿しか映していないその両目が赤く輝くや否や、その身を刺し貫いた二体の槍もものかは、右腕の一振りで三体すべてが吹き飛ばされて壁に叩きつけられ、ガラクタと化す。 よろめきながら、ネロはなおも数歩を走ったが、ぽっかりと空いた壁の穴の向こうには、もう誰の姿も見えなかった。 荒い息をつきながら、左手の中に残されたものを見下ろす。 光る掌の上の、小さなペンダント。 がっくりと膝を突き、何度も拳を床に叩きつけるネロの獣のような叫びは、やがてかすかなすすり泣きへとかわっていった。 教団本部内の一室、つい先刻教皇が「蘇った」部屋を横切ろうとしたネロは、はっと息を飲んで足を止める。 「遅かったな」 あの赤いコートの男が寄りかかっていた柱から身を起こし、床に突きたてていた大剣を背負うところだった。 「今さら……何の用だ?」ネロは歯軋りせんばかりの剣幕で「こっちは急いでるんだ」と男を乱暴につきのけ先へ進もうとしたが、その肩を「そろそろ―――」と背後から男がつかんだ。 途端、ぎろりと相手を睨みつけ、つかんだ手を払いのけざまにネロは男に殴りかかったが、男はそれを難なくかわし、今度はネロの腕をつかんで「鬼ごっこはヤメだ」上から覗き込むようにしつつ言う。 と、戒められたネロの右腕がこめられた力で輝きだすのを見て取るや、男はぱっと手を放し、独り相撲を取らされたネロは、自分の力のあおりを食らって背中から壁に突っ込んでしまった。 「その刀を返せ」壁に開いた大穴に、のしのし歩み寄りながら男が言う。 「何の話だ……」という言葉とは裏腹に、ネロの体から光の波動が湧き出して、次いで放たれた一陣の衝撃が崩壊で立ち込めた土埃を吹き払った。 顔を庇っていた手を下ろして男が低い息を漏らす。 彼と対峙したネロの背にはオーラが造り出した異形の影が佇んでいた。 しかしそれを目にしても男は特に慌てるでもなく、 「俺の兄貴の物でね。返すなら―――」ひょいと背中に手をやり、大剣を抜き放つ。 「見逃してやるよ、坊や」 「“坊や”か……」と鼻をこするや「我ながら甘く見られたもんだ!」ネロは刀を腰だめに構え、ひと息に振り切った。 目前に迫った居合いによる衝撃波を男は宙に飛び上がってかわし、そのままちょんと天蓋の上に腰掛ける。 背後で崩れ落ちる石柱を見やり、感嘆めいた声を上げてからこちらを見下ろし、「忠告だ」と人差し指でみずからの胸をこつんと叩いた。「年長者は敬え」 もちろんネロがそれに従うわけもなく、彼は男を無視してそのまま駆け去ろうとしたが、進行方向に男が飛び降りてきて道を塞がれ、忌々しげな息をつく。 大剣を肩に担いでそれを眺める男のまなざしから、ふと笑みが消えた。 激しい剣閃の応酬が続く。 4合、5合、6合目についにネロのがむしゃらな剣が男の大剣を宙に跳ね上げた。 チャンスとばかりにネロは刀を胸元に引きつけ、渾身の突きを放ったが、喉元にその切っ先が届く寸前、男がするりとその攻撃をかわしざま、ネロの後頭部をぽんと叩いて押し出した。 結果勢いを狂わされたネロは足をもつれさせて無様に床に転がり、男は落ちてきた大剣を見事にキャッチして、悪ガキのような笑い声を上げた。 往生際悪く上半身だけ跳ね起きて、歩み寄る相手にヤケクソまがいの一撃を浴びせようとしたが、首の真横に剣をつきたてられて、そこでようやっと観念したネロは床に大の字になった。 「頭は冷えたか?」彼と同じく荒い息をつきながら、それでもにやにや笑って男が聞いてくる。 ネロが顔を背けると「何だよ、文句あるか?」となおも聞くので「殺す気はないって顔だな(英語だと「最初っから俺で遊んでたんだろ」という)」右腕を踏みつけた男の足を睨みつけてネロが応えると、男はネロの右腕から足を上げ、床から剣を抜いて身を引いた。 「その刀は、人と魔を分かつ剣でね。俺が持つのがスジなのさ」ふらつきながら床から身を起こすネロに言い聞かせるようにそう言って「家族の形見だしな」と付け加え、男はとんとん、と胸を叩いて見せたが、 「必要なんだ……」 手にした刀に眼を落とし、低い声で囁くネロを見ると、彼は小さく頭を振って息をついた。 「なら、持ってけ」 あっさりとなされた提案に、ネロはきょとんとして男を見返したが、「頭も冷えただろ。行きな」 男はそれ以上何を説明するでなく、ただ親指で出口の方を指す。 暫しの無言ののち、ネロは右手の刀を握り締め、歩き出した。 すれ違う二人の間に、ふと一陣の風が吹く。 「おい!」 その時、遠ざかるネロに背を向けたまま、男が声をかけた。 「名前は?」問われて「ネロだ。あんたはダンテだろ」と答えると「悪くない名前だ……」ネロは呟き、歩み去っていった。 「お前もな」 振り返り、男……ダンテがそう返す。 そのまま小さくなる背中を見送っていたダンテの視界に、突然白い影が割って入った。 扇情的な切れ込みの入った教団服に褐色の肌を包んだ銀髪の美女。 教皇に言ったとおり、グロリアが彼のもとに現れたのだ。 両者の間に張り詰めた空気が流れる……かと思いきや。 沈黙もつかの間、突如ダンテが噴き出し、膝を打って笑い始めた。 「似合ってるじゃないか」 言われた方も、「それはどうも」 肩をすくめてあっけらかんと応じると、ひょいと腕を伸ばして何かを剥ぎ取るような動作を見せる。 するとエキゾチックな銀髪美女は姿を消し、以前の彼女とはまるで正反対の……銀のボブヘアは腰までのブロンドに、褐色の肌は抜けるような白に、白い団服は黒いチューブトップと黒皮のパンツに変わった……美女が現れた。 彼が笑い出したのも当然、そしてグロリアが魔剣スパーダを教団にもたらせたのも当然のこと、彼女の正体こそダンテの相棒、女悪魔のトリッシュだったのである。 「……行かせていいの?」 「あんな顔されたらな」 愛剣「リベリオン」を床に突きたて、そう答えるダンテにトリッシュは歩み寄り、彼の肩に手を置いて、 「大事になっても知らないわよ」とその顔を見上げたが、 「その時はその時だろ。俺がケツを拭くさ」 剣を背に戻しながら彼女の相棒は頼もしいというか行き当たりばったりというかないらえを返し、トリッシュは無言でなんとも言いがたい視線を向けるのだった。 「これは……」 教団本部、最上階。そこに安置された二本の角に後光のような輪を戴く巨大な石像を見上げて呟きを漏らしたのもつかの間、ネロはやおら銃口をその頭部に向けた。 「美しい姿だろう?」 両手を広げ、教皇は問いかけたが、 「俺の趣味とは合わないね」すげないネロの答えに「それは残念だ」左手を振った。 それに応じて石像の額にはめ込まれた青い宝玉の中から現れたものを見て、ネロの目が驚きに見開かれる。「キリエ……」呟き、銃を下ろしてしまうネロに教皇が問いかける。 神の中で彼女と溶け合い、一つになって永遠の愛を証明したくはないか、と。 「××××してな!」 ネロはただそう返して歯噛みする教皇はそれきり無視し、キリエにひたむきな眼を向ける。 「今助ける。信じてくれ」 彼女もまたじっとネロを見つめ返したが、小さく頷いたかのように見えた瞬間、その体は石像の中に引き戻されていった。 「交渉は決裂か。未完成とは言え、この神の力の強大さを思い知れ」と教皇は叫び、彼と神という名の巨像とを相手取った戦いが幕を開けた。 吹き飛ばされつつも何とか体勢を立て直し、石像の額に降り立った教皇に、閻魔刀を振りかざしたネロが飛びかかる。が、すんでの所で教皇の足元の宝玉からキリエが再び現れて、それに怯んだネロは巨像に掴み取られてしまった。 「愛のために破れるか」とあざ笑いながらも、教皇はネロの持つスパーダの力を認めたが何故か「ダンテほどではなかろうがな」と付け加えた。 何とか逃れようとあがきながらも唐突に出てきたダンテの名を訝るネロに、本来石像の中にはダンテを取り込む予定だったと教皇は告げ、「だが結果が同じなら、容易な道を選べばいい」ネロに向けてその手を差し招くと、閻魔刀が石像をすり抜けて浮かび上がり、教皇の手の中に納まった。 「貴様の血とこの閻魔刀の力で、我らは望みどおりの楽園を築ける」 刀を掲げて勝ち誇る教皇の前に、その時ふいに白い影が舞い降りる。驚きに眼を見張る間もなく、彼は飛び降りてきたクレドの放った剣閃を受けてその場に崩れ落ちた。 逃げろと叫ぶクレドの声に、なんとかネロは右腕を引き抜いたが、同時に響いた苦鳴に愕然と眼を見開く。特に傷ついた様子もなく裏切りの理由を訊く教皇に串刺しにされつつも、クレドは彼の望む理想の世界のために何でもやってきたが、何も知らぬ妹までも利用した事だけは許せない、と途切れ途切れに糾弾する。 「愛か?家族への?愚か者め!」教皇は吐き捨てて刀を振り払い、「信ずるべきは、絶対的な力のみだ……!」必死で伸ばすネロの手を掠めて落ちていくクレドの姿を見送った。 クレドの、血に染まったその体は、しかし石畳の床に激突する寸前、何者かに抱きとめられて難を逃れる。 壁際にクレドを横たえるダンテを守るように進み出たトリッシュの正体を看破して、教皇は「貴様らにも予想外だっただろう、この小僧の体に流れる血はな!おかげで我らが神は完成する!」となおも嘲った。 が、ちらりと相棒と視線を交わして、ダンテが「坊やはまだやる気みたいだぜ?」溜息混じりにそう言ったのと同時に、ネロの伸ばした悪魔の腕が教皇を鷲づかみにして石像の胸部に叩きつけた。 やったかと思われた瞬間、しかし既に「神」と同化している教皇を「神」の体に叩きつけた所で意味はなく、「神」の体内を通ってネロの背後に現れた教皇がその右腕を像の拳に縫いとめた。 最早脱出は不可能と哄笑しながら教皇は刀を携えて再び「神」の中に姿を消し、ぐったりとうなだれるネロに、「坊や!ギブアップか?」とまるきり外野の口調でダンテが問いかける。 「もう、打つ手ナシでね……」ネロはそう返すのがやっとの事で、それきり顔を上げることもできない。 しかし「そりゃ大変だ」と肩をすくめたダンテが「死ぬのは勝手だが、刀は返せよ?」と薄情に指を突きつけると、「取りに来な……」とこの期に及んで憎まれ口を叩いた上に中指を突き立てつつ巨像の中に引き込まれ、「悪ガキめ……」ダンテは苦笑交じりに呟いた。 かすかな歌声と差し込む光に目を開けると、赤黒い、夕焼けのような空にネロはキリエと二人、浮かんでいた。 彼を目覚めさせた光は、キリエから放たれているようだった。 かすれる声でネロが呼びかけると夕闇が払われ、辺りは光に満たされる。 守れなかったと呟くネロに、キリエはただ微笑んで手を差し出す。 けれどもその手をとろうとした刹那、キリエの体は金色の粒子に変わって闇へと融けていった。 ありがとうと囁くキリエの声に、ネロは闇に捕らわれ、もがきながら叫び続ける。 「約束だ!ここから抜け出す!君と一緒に!」 だがその絶叫も、そして思わずあふれた涙も虚しく闇に飲まれ、かき消された。 あれは白昼夢だったのか、気がつくと現実の彼は強靭な肉の塊に捕えられていた。不気味な肉の檻……それは「神」の像の体内、その胸の青い宝玉の中に位置していた。 すると宝玉が鈍く明滅を始め、同時に不気味な地鳴りが辺りを包む。「神」が空中へ浮かび上がろうとしているのだ。 頭上遥かに舞い上がる「神」の背に出現した、奇妙な光る輪のような物体を指し「見ろよ!羽が生えた!」ダンテが呆れた嘆息のような笑い声を上げた。 「悪趣味なデザインね」切って捨てるトリッシュに首を振り、ダンテは背後にへたり込んだクレドに完成した「神」の行方を尋ねた。 何とか立ち上がろうとしながら果たせず、クレドは「世界の救済には混沌が必要だ」と答える。 彼らはこの街に眠る魔界への扉、地獄門を開こうとしているのだと。折れた閻魔刀、魔界を封印した鍵を復活させようとしていたのはその為だったのだ。 「人と悪魔を分かつ剣、か……」呟くダンテにクレドは喘鳴に濁る声で必死に訴える。 スパーダの息子の貴方ならば、神さえ殺せるかも知れない、と。 「期待されてるみたいね」トリッシュが目を向けるが、ダンテは「らしいな」と受け流すだけだ。 すると、「頼む、救ってやってくれ……」ようやっとのことで立ち上がったクレドがダンテの肩を掴んだ。 「彼らを……キリエと……ネロを……」だが、それが彼の最後の言葉だった。 倒れ込もうとするクレドをダンテが支えたが、その体は光に包まれ、無数の粒子になって飛び散った。 「分かったよ」しばしの後、ぽつりとダンテが呟いた。 「遺言じゃ仕方ねえ」やれやれとでも言いたげに腕を組むダンテに「私は住民を避難させる」言い置いてトリッシュがすたすたその場を去ろうとするので 「おい!そもそもお前が……」と難所を押し付けられた不満もあらわに言い募ろうとすると「じゃあ交代?」ぴしゃりと遮られてダンテは一瞬口ごもった。 結局は「いや……こっちがいい」 降参!とばかり、手を上げてダンテは大股に歩き出した。その背に彼の相棒が続く。 歩き去る彼らの後ろ、二人の背中を見送って、光の最後の一粒が蛍のように舞い上がり、闇に消えた。 「さあ、欲望のままに暴れるのだ」 地下の神殿らしき建物。宙に渡された石の通路を、誰に向けてか語りかけながらアグナスがゆっくりと進んでいく。 「喰らい尽くせ。この世界の崩壊の果てにこそ」 やがて石の通路は丸い台座で行き止まりになった。彼が、というより彼が携えた閻魔刀が近づくにのに合わせ床で不気味に脈打つ赤い魔方陣に向かってアグナスは刀を振りかぶり、 「神の支配する楽園の時代が―――訪れるであろう!」 叫ぶと、その中心に開いた「鍵穴」に向けて剣を突き刺した。 一瞬、辺りが白く輝き、そしてそれは一面の巨大な魔法の赤光に変わる。 「今こそ!審判の時!」 深紅に輝く閻魔刀を前に、アグナスは喉も割れんばかりの雄叫びを上げた。 大聖堂の前に避難していたフォルトゥナの市民たちが、巻き起こる地鳴りに不安そうに顔を上げる。見上げる目の先で、あの巨大な石版が不意に膨れ上がり、泥のような飛沫を……否、そう見える程の膨大な数の悪魔たちを吐き出した。 転げるように逃げ出した彼らを、悪魔たちが次々と屠っていく。 追い詰められ、震えるだけの無力な民たちを覆う悪魔の影。 と、その影を何者かが吹き飛ばした。 恐る恐る振り返れば、白い騎士が宙に翼を広げてこちらを見下ろしていた。 同じく街のあちこちで、騎士たちが悪魔を払い、人々を「救って」いく。 「恐れることはない!神は今、降り立った!我らを救うために!」 騎士たちを従えて宙を行く「神」の頭上で教皇が高らかに叫んでいる。 「感謝を捧げよ!賛歌を歌え!世界はまだ終わってはおらぬ!」 力強く腕を打ち振ると、「神」の頭の不完全な……まるで悪魔の角のようにも見える「輪」が稲光を放ち、輪の欠けた部分に生じた雷球から生じた電光が無数の悪魔たちをやすやすと打ち砕いた。 辺りに教皇の笑い声が響く。人々を「救う」、その気高い筈の所業とは裏腹な、下卑た笑い声が。 気のない拍手が辺りに響く。 「なかなか演技派だな、爺さん」 火に包まれた街とそこに降り立った「神」を遠く眺めながら、ダンテはまるで熱のこもらない口調でそう言うと、コートの裾を翻して歩き出した。 「魔剣教団?」 ピザをかじりながらダンテは古い知り合いを見上げた。 「そう。聞いた事は?」 だだっぴろい机の上に手をついて、ぴっちりした白いスーツに包まれた、豊かな胸元をさらしながら尋ねてくる。 「宗教には縁がない」 彼と同じ感想を抱いたのか、相棒は机の端に腰掛けて、彼と同じくピザをかじりつつ足をぶらぶら揺らすだけで、こちらのことを見もしない。 「フォルトゥナで信仰されているの。物好きしか知らないけどね」 「お前みたいな?」 「そういう事。スパーダの事は詳しい?」 まぜっかえすダンテに怒りもせずあっさり返すと、彼女は更にそう尋ねた。 「何でも知ってるってわけじゃない」 と、返してダンテは脇の相棒に目線をやったが、トリッシュはあいも変わらずピザをかじっているだけだ。サングラスの奥の眼……片側が青で、片側が赤い奇妙な眼でそれを睨んで、昔なじみはガンベルトに包まれた物騒なフトモモを揺らして歩き出した。 「スパーダはその街の領主だった。人々は彼が去った後も彼を崇めてる……神としてね」 「悪魔が神になったか」 お行儀悪く机の上に載っけていた足を床に降ろして、皮肉な口調でダンテが笑う。 聞いているのかいないのか、ピザを食べ終わったトリッシュは、こちらもまたお行儀悪くなおかつエロい音を立てながら指をしゃぶると、テーブルをぴょんと飛び降りた。 「話はここからよ。問題はその教団。悪魔を捕まえてるの。何度かは仕事を邪魔されたわ」 「動物園でも開くのか」 彼女は今度こそ苛立たしげにダンテの手からピザをひったくった。 「……まだあるわ。あなたが持ってるような―――魔具も集めてる」 ピザでこちらの事を指す彼女の手から 「じゃあ博物館だな」 と相変わらず茶化しながらそれをひったくり返そうとしたダンテは、ひょいと手を引っ込められて、 「……何だよ」 忌々しげに机を軽くたたいてまたその上に足を乗っけなおす。 突いていた両肘を机から離して、仁王立ちになった彼女が 「そんなものより―――はるかに凶悪な目的だとしたら?」 ピザを片手に言い放った所で何か思うところがあったのか、ダンテはようやく机から立ち上がった。 「……退屈しのぎにはなるだろうな。トリッシュ!」 呼びかけて、返事が、そういえば気配もないのに気がついて、眉をひそめて背後を振り返ったダンテはやれやれと首を振った。 背の壁にかけてあった父の形見の魔剣「スパーダ」が消えている。 刀掛けには鮮やかなルージュで「See You There(現地集合)」の文字。 「ややこしい話になってきた……」 そう言いつつも、密林の木漏れ日の下を行くダンテの口元には、楽しげな笑みが浮かんでいる。 密林の「門」の前までやって来たダンテ。 怪訝そうに背後の空を振り仰ぐと、蛇体をくねらせ、卵を射出しながらエキドナが泳いでいくのが見える。 息をつき、首を振ると出し抜けに駆け出した彼は、飛来する卵の着地点まで駆けつけると、それを次々と蹴り返す。 蹴り返された卵は宙で複雑に跳ね返り、最後に放ったオーバーヘッドキックの一撃でビーンボウルのように卵の群れを弾いて、全ての卵が龍態を解いて女怪の姿を現したエキドナの顔に次々ぶつかった。 「貴様、何者じゃ!」 怒り、声を上げるエキドナに「無視されるのは嫌いでね」とダンテは肩をすくめる。 「わらわの子と一体となり平穏な余生を送れば良いものを!」 叫んだエキドナが龍に身を変えて襲いかかったが、ダンテは手にした剣をひょいと背中に掲げただけ、次の瞬間その姿はエキドナの大きく開いた口の中に飲み込まれてしまった。口の間からはみ出した片足が力なくぶらりと揺れる、と見えたのも束の間、「そういう誘いなら……パスだな」易々と龍の大顎をこじ開けてダンテが再び姿を見せる。 弾みをつけて龍の口中から飛び出すと、睨みつけるエキドナにダンテは悠揚と剣を突きつけた。 「刺激があるから人生は楽しい。そうだろ?」 「わらわの森!わらわの子!」 体液を噴出しながら、苦しげにエキドナが喚いている。 しばしの間、ダンテは無言のままその悲鳴を聞いていたが、やおら銃を引き抜くと、容赦のない一撃を食らわせた。轟音と共に引き裂くような悲鳴を残してエキドナが四散する。 「黙ってた方が美人だな」 嘯いて銃をしまうと、彼は巨大な石門の基部へ足を向けた。台座の上で瞬く光に手を伸ばすと、それは独りでに宙を滑ってダンテの掌に納まった。 「まず一つ……」 呟くと、光が一層強くなり、それが収まったとき……ダンテの両手と両足、それに下顎は奇妙な「鎧」に覆われていた。紫の光の帯が脈打つ両の拳を握り締めると、軽い金属音がして更に刺状の肘当てが現れる。それらを眺めやった後、ダンテは門へと向き直った。しなやかな足捌きで石畳を踏みしめ、ゆるゆると両腕を泳がせて、指先を揃えた右の手をぴたりと巨大な石壁に突きつけた。 転瞬、伸ばした指を拳に変えて、その分開いた僅かな隙に、雷光のごとき拳打を叩き込む。途端、彼の体を中心に放射状に突風が吹き抜け、弾けた瓦礫が飛び散った。巨大な石門の表面に地から天へと亀裂が走り、一つ瞬きしたあとにはそれは幾つもの石の塊となり、雪崩を打って落ちてくる。するとダンテは身をかがめるや、拳を腰だめに構えて跳躍した。 掲げた拳から炎を吹き上げ、門の欠片を砕きつつぎゅりぎゅりと上昇し、途中からは身を反転させて幾つもの石塊を蹴り割って、頂点に到達したところで手刀を閃かせ、一際巨大な門の天頂部に当たる岩塊を叩き割り、着地する。 拳を握って力を溜めるダンテの背後、落ちてきた巨石が次々と重なっていく。石塊が落ちきり、見上げるほどの石の山になるのと同時に、ダンテは鼻の頭を親指でぴんと弾き、天高く飛び上がる。そうして紫の炎を纏い、放たれた手刀は巨石の山を、その断面を赤く溶けるほどに焼きながら真っ二つに叩き割った。 土埃、いや、焼かれた石の上げた蒸気だろうか。もうもうと上がる煙の中で 「あと二つ……」 反した拳を眺めながら呟いて、ダンテはその場を後にした。 ネロがバエルを倒したことにより止んだ筈の吹雪が、何故か再び猛然と荒れ狂っている。 フォルトゥナ城の中庭を横切りながらダンテはふと顔を顰めて鼻を摘んだが、上空から響いてくる嬌声に目を上げて、そこで淫らな踊りを繰り広げる女たちを見つけるや、そんなことは忘れたかのようなヤニ下がった表情になり、口笛を吹いた。 そうして光る裸身の女たちが絡み合い、腕を伸ばしてこちらを差し招くと、「ベイビーちゃん!」両手を広げて彼女たちの元へと駆け寄った。 「サイコーだ!」雪の上を滑り、近づいた彼を、待ってましたとばかりに宙から降りてきた女の一人が抱きしめようとするが、ひょいとかわしたダンテは仰向けのままバックスケーティングして、もう一人の女のお尻を下から覗き込んだ。エロ親父そのものの行動に、慌てたように彼女は距離をとり、しかしまたお互いに近づいてはかわし、かわされる。 やがてダンテは凍った地面に寝転がると、吹雪の中に舞う異様な女たちをニヤニヤと見物し始めた……が、その直後、水面を迫る鯱のように、その何倍もの大口をあいた大蛙が飛び掛ってきて、哀れダンテは一呑みに……と思いきや、難なく彼は中空に飛び上がってその顎を逃れた。 「わしに気づいとったんか!」 ネロを辟易とさせたのと同じ、汚らしい色の消化液を口から飛び散らせながら怒鳴る、バエルそっくりのこの化物の名は「ダゴン」。 ネロが閉じた筈のあの「門」の中をうじゃうじゃとこちらへ向かってきていた、バエルの「兄弟」の内の一匹である。ダンテはそれを知ってか知らずか 「体は隠れてたが、そのニオイがな……」と、いかにもわざとらしく顔の前で手を振って見せる。「ヒドイもんだ」 「ふざけた人間が!丸呑みにして消化したるわい!」 挑発に怒り狂ったダゴンは足を踏み鳴らし、雄叫びを上げた。悪臭を孕んだ颶風が吹きつけて、ダンテのコートが吹き上げられて裏返しになり、頭の上に被さってしまう。間抜けな空気をコートと共に払いのけ、「消化できるならな」不敵にダンテは笑うのだった。 べちゃんと地面に叩きつけられ、「まだ終わっとらんぞ!」往生際悪く向き直ろうとするダゴンの目に、飛びかかってくるダンテの姿が映る。 「わしの兄弟が……」捨て台詞は大剣に一刀のもとに断ち切られ、力尽きた大蛙は巨大な氷塊となって爆散した。氷霧の向こうに魔界への門、更にその足元の台座に輝く光が見える。 密林の門と同じく、光体はダンテが伸べた右腕に応えて宙を走り、手の中に納まった。が、光が消えるとそこにはおよそ武器とはとても思えない、大きめのアタッシェケースがぶら下がっている。中央に物騒というか悪趣味な髑髏のエンブレムがついていて、脈打つようにそこから光が走っている表面をこつこつと叩いたダンテは「なるほど」何に納得したんだか、「食べ放題ってわけだ」そうひとりごちるとそれを肩の上に担ぎ上げた。 たちこもる氷の霧が晴れていく。ぼんやりと踊る無数の赤い光、その下に蠢く、同じく無数の巨大な「何か」がその輪郭を鮮明にしていく。 気づけば中庭はバエルとダゴンの「兄弟」たちで溢れかえっていた。しかしダンテは無軌道に暴れ狂う化物蛙に慌てず騒がず、ただにやりと口の端を吊り上げて、高く掲げたカバンを地面に叩きつけた。するとそれは光を放ち、次の瞬間……何故か一基のガトリングガンがその場に姿を現した。大きすぎる標的を横一列になぎ払うと再びカバン、というか元カバンのガトリングガンが光りだし、ダンテがそれを担ぎ上げると、それはロケットランチャーに変形した。次いで景気よく放たれたロケット弾が群れの真ん中で馬鹿でかい爆炎を上げ、重たげな体が一斉に空を飛ぶ。ランチャーは三度光って三枚の羽を持つブーメランに、宙を走って全ての的を切り裂き、ダンテの手の中に納まった。 これで終わり……ではもちろん無い。カバンに戻ったそれを、歓声を上げながらブン回したダンテの背中で更にカバンが何だかすごい変形を始め、全方位砲撃台としか言いようが無いようなシロモノが組みあがった。いかにも楽しそうな顔でダンテが発射菅を押し込むと、べらぼうな数のミサイル弾が飛び出して、ムチャクチャな軌道で星空を駆け、的の全てに襲い掛かった。天高く上がる爆煙を前に、がっしと地面にカバンを置くダンテ。片足をカバンの背に乗っけてどうだとばかりに惨状を眺めている足元で、カバンの留め金がかちりと外れた。 いかにも普通のカバンのようにぱかんと開いたその中からは、絶対に普通のカバンは発しない、そして今までの変形の時とも違う、何やら怪しげな光が……。怪訝そうにダンテは顔を傾けてその中を覗き込んだが、一瞬の後、ばたんと足の先で蓋を閉じてしまった。 一体何を見たのだろうか。ちなみにこのカバンの形をした魔界兵器の名前はパンドラと言います。そしてこの後カバンを閉じた衝撃(?)が最後のトドメとなったのか、床に大穴が開いて階下に落とされたダンテは、同じく戦闘の衝撃で(?)排気機能が止まってしまい、毒ガスに満たされた構内を「やり過ぎた」とボヤきながらとんだ回り道を強いられることになるのですが、それはまた別のお話。 不気味な燐光を放ちながら宵の空に浮かぶ「神」を遠くに見上げ、ベリアルは忌々しげに呟いた。 「人間が神を気取るとは……愚かな事よ」 「同感だな」 と、思いもしないところから応えが返り、見下ろすと、他ならぬ彼の、燃え盛る尾の上にはたはたと手で顔を仰ぎつつ、平然とダンテが腰掛けている。 「貴様……!」 慌てたベリアルは尾を打ち振り、ダンテを宙に投げ出した。が、相手は慌てるどころか、ぎゅりぎゅりと回転して着地すると、 「早く気付けよ。コートが燃えただろ」 外套の裾を持ち上げてばさばさと払い、しれっとした顔である意味ボケともいえるツッコミを入れる始末だ。 「逆賊スパーダの息子が!同胞の仇を取らせてもらうぞ!」 地響きを立てて歩み寄るベリアルを、ダンテはただ腕組みをして泰然と待ち受けている…… 「これほどの力とは―――無念なり……!」 ぜいぜいと苦しげに肩を上下させるべリアルに、息一つ切らしていないダンテが指を突きつける。 「汚いケツ見せておうちに帰りな。許してやる」 しかしべリアルが勝者の情けを受け入れることはなかった。 「一度退いた身、二度は退かぬ!」 叫ぶなり、全身に炎を纏わせ、残された力を振り絞り突進してくる。 が、それもダンテの放った銃弾の前に火の粉となってあえなく散った。 べリアルの起こした最期の風に、朱の蛍が断末魔のように舞い、消えるのを眺めて 「ショボイな……ハデな花火を期待したんだが」 呟いたダンテは銃をしまい、巨大なモノリスの前へ歩を進めた。 台座の上に浮かぶ光球に手を伸ばすとその輝きは一際増し……それが収束した時、ダンテの背には奇妙な物体が納まっていた。 肩だけの鎧のような、金属で出来た外格だけの翼のような……「翼」にはそれぞれ幾本かの細剣が仕込まれているようだ。 ちらりと背を振り返ったダンテはふふんと笑い、いきなり天高くジャンプした。 「コイツを!」その両手には「翼」から抜き放った剣が赤く輝いている。 「突き刺す!」叫ぶと同時に剣は幾本にも分裂し、投げ放たれてモノリスに幾つもの穴を穿つ。 「力をこめて!角度を変え!刺す!」 不思議なことに、叫びつつ次々と剣を投げていのに、その背の剣が尽きることはない。 「さらに……もっと強く!ブチこんでやる!」 何故かフラメンコ調になったBGMに乗り、気取ったポーズをキメながら放っている剣の軌跡は、どうやら何かの図形を描いているらしい。気合いと共に放った締めの一撃がその中心に突き立ち、長いジャンプを終えて地面に着地したダンテは、フラメンコダンサーよろしく赤いバラを咥えている。 「最後に……」 パンパン、と両手を打ち鳴らすと、石板に刺さっていた全ての剣が破裂して、モノリスはハートの形になった。 「絶頂を迎えた後―――」 振り向きざまに投げたバラが、ハートの中央に残っていた剣の柄を叩いて 「君は自由だ」ハートは見事に真っ二つになった。 その間に遠く浮かぶ「神」の姿が覗く。 「意外と小さく見えるな」 相変わらず異様な後光を背負った巨体をそう評すと、右手を伸ばしてそれを握り潰す仕草をしてみせる。 「残るはあんただ、Mr.カミサマ」 宣言して、ダンテはぽんと手のひらの埃を払った。 「悲しいかな、悪魔如きでは―――君を止める事はできぬのか」 薄暗い室内、スポットライトに照らされてうずくまっていたアグナスがゆっくりと立ち上がる。 芝居がかった仕種で腕を伸ばすと……別の一角にライトが切り替わり 「呼んでは殺し―――呼んでは殺し。歪んでいるな」 足を乗せていた椅子をステージの端に蹴り滑らせてダンテが応えた。 「正気じゃない。それがお前たちの―――正義なのか!」 眩しいライトを浴びながら、馬鹿馬鹿しいほどの大仰な身振りでアグナスを糾弾する。 「人間とは―――まことに愚かな生き物だ。一度地獄を味わわねば神の存在を信じようとはしない」 それには答えず、どこからか取り出した骸骨を眺めてアグナスは嘆く。同時に、なんかモノローグ調にアグナスと骸骨のアップが画面に映り込んだ。 「なんと皮肉な話である事か……」 突然疾走った稲光と共に手の中の髑髏を握り潰した彼は、砕けた粉をふっと吹いた。 「そんな話に興味はない」 骨粉でできた煙幕の中、ステージに寝転がったダンテがわずらわしそうに手を振って、やおら立ち上がる。 「俺は―――」「アレを―――」「返して欲しいだけなんだ!」 あの、何だか今にも歌い出しそうなんですけど……というような身振りで訴えるダンテに 「閻魔刀だな!君が望んでやまぬ物は!」 悪魔に変身したアグナスが蛾に似た羽根を広げ、「私がここで守る閻魔刀だな!」手にした大剣を取り回して高々と掲げた。 「そうくるだろうと思っていたよ」 片方は確実にノリでやっているのだろうがもう片方はどうなのか……とにかくついにクラッカーさえもがうち鳴らされ、ベンチで「舞台」にスライドインしたダンテは、舞い散る紙吹雪の中で高笑いをあげると、突如腰の銃を抜き、天に向けてトリガーを引く。 轟音の次の瞬間には、彼は壁際のスパーダ像の上にいて、 「始めよう!天使と戦う事ができるとは―――素晴らしい幸運だ!」 相変わらずの芝居がかった身振りで軽いキスを投げた。 「なぜだ……これほど……力に、サ、サ、差がある!」 吹き飛ばされて、ベンチの上に尻で着地したアグナスは、変身の解けた我が身を見回し、上擦り声をあげた。 「お前が人間をやめたからさ」 そんな彼にちょいと指を突きつけ、ダンテが事も無げに答えたがアグナスには納得が行かない。 「お前も人間じゃない!なぜ私が負ける!」 「人間は弱いか?確かに肉体は弱いかもな」 円台の上をぶらぶらと歩きながらダンテがレクチャーよろしく語り始めたのを見て、アグナスは慌てて腰を探り、メモパッドとペンを取り出すと彼の側へと駆け寄った。 「だが悪魔にはない力がある」 「悪魔にはない……それは、ナ、何だ?研究の参考にしたい!教えてくれ!」 アグナスは背を向けたダンテになおも追いすがろうとしたが、その姿さえ見ずダンテは銃を抜き撃った。 アグナスの上げた小さな悲鳴と共にその手の帳面が弾き跳ばされ、無数の紙がひらひらと舞った。取り戻そうと宙を掴んで狼狽するアグナスの上に、ダンテの冷たい声が降ってくる。 「研究の続きはあの世でやりな」 どうにか一枚を捕まえて、掲げてみると、黒々と開いた穴の向こうから微塵の諧謔もない悪魔狩人の目がこちらを睨み下ろしていた。 「俺からの宿題だ」 再びの轟音でアグナスはまたも宙を舞い、ベンチの上に尻餅をつく。ぱたりと両腕がシートに落ちて、最後の息を吐いた顔の上に死者に掛ける布のように紙が舞い落ちた。 「そして残るは沈黙のみ」 一人として居ない観客に向け、カーテンコールに応える役者よろしくダンテは恭しく会釈すると、ハムレットの最期の台詞を口ずさみ、幕引き代わりの銃弾を天へと放った。 大聖堂の正面に鎮座する、最後の地獄門の前へとダンテはやって来た。腕には閻魔刀を携えている。聖堂の地下に突き立てられていたのを引き抜いて来たのだ。つまり目の前の巨大な石板には強大な悪魔を通す力は最早無い。しかしダンテは閻魔刀をモノリスへと掲げ、ひとりごちた。 「大した建築物なんだが、悪影響だからな」 そう、今だそれが悪魔を魔界から呼び寄せる厄介な装置であることには違いないのだ。 直後鞘走った鋭利無双の一撃が横凪ぎに巨石に吸い込まれる。 次いで幾筋もの剣線がその後を追って石面に閃き……鐘の音にも似た高らかな金属音と共にダンテが納刀すると、ひと呼吸の後にただ一本の線で両断された石板の上半分がずるずると滑り落ち、もうもうたる土煙を上げた。 ただの石塊と化した地獄門の残骸を眺めるダンテの背に、歩み寄る人影がある。 「取り戻した?」 「コイツはな」 尋ねたトリッシュに左手の閻魔刀を示すと 「残りは……」 彼女は呟くが、それきり言葉を切った。ダンテも特段無言のままだ。二人の視線の先、やっと収まった土煙の向こうには、依然として浮かび続ける「神」が居る。 「助けは必要?」 ややあって、トリッシュがダンテを振り返ったが、ダンテは相棒をちらりと見て 「いや、別にいい」首を振り、閻魔刀を肩に引っ掻けた。 「住民の避難を頼む」 「了解」 トリッシュは歩み去り、ダンテは「神」を眺め続けている。 大聖堂の尖塔の天辺にすとんと降り立った背中に 「地獄門を破壊するとはな」 声を掛けられ、ダンテは目も眩むような足場の上でいとも気安く振り返り、宙空に羽根を広げた「教皇」を見た。眼下には破壊された街、そして彼の周囲には彼に付き従う「天使」の「騎士」が無数に飛び交っている。 だが、ダンテの軽口が影を潜めることはない。 「眺めが良くなっただろ?さて―――そろそろ遊ぶか?」 「そのためにそこに登ったか。貴様では神に触れもせぬわ!」 「ちょっと違うな」 傲然と宣言する教皇にダンテは首筋をちょんちょんと指して見せた。 「見下ろされたくなかっただけだ」 「減らず口を!いつまでそんな態度が続くかな?」激昂する相手に「死ぬまでさ」けろっとして笑い、次の瞬間、無数の「天の騎士」達がダンテの元へと宙を走って殺到する。が、 彼らは全てダンテの踏み台と化した。抜きもしない閻魔刀ではたかれ、或いは槍を捕まれて引き寄せられ、投げつけた閻魔刀に叩き落とされ(教皇は流石に、というべきか、これを見事にかわしたが)愉しげな声を上げたダンテが宙で閻魔刀をキャッチして、逆の手で放ったリベリオンが「神」の石の体に突き立って……それは果たして瞬き一つの間もあっただろうか、それを足場にしてダンテが「神」の体に辿り着くまでに。 「おい、触ってやったぜ?」 にやにやしながら閻魔刀を持った手の甲でぽんと「神」の体を叩くダンテに 「へばり付いていろ、虫けらめ」 教皇は唸り、背を向けた……と思ったのも束の間、凄まじい勢いで突進をかけて剣閃を放った。 が、そこにダンテの姿は既にない。上か、下か……気配を探る背後の足場に降り立つ足音、振り返るより速く抜き射たれた銃弾が教皇の体を貫いた。だが…… ばらばらに弾け、地面へと落ちていくのは恐らくただの鎧の残骸だ。明らかに手応えが無さすぎる。 「本体は中か……」 呟いたダンテはやれやれと溜め息を吐き、正面の巨体を見上げた。 「まずはコイツの相手だな!」 宙を跳び、「神」の胸に着地したダンテは、そこに輝く青い宝珠に力の限り閻魔刀を突き立てた。 刀の割った傷口から光が漏れ、何らかの効き目があるかと思われたが、 「閻魔刀の力など、この神には―――通用せんわ!」 いい所で「神」が腕を伸ばしてきて掴まれそうになり、閻魔刀を残したまま宙へと逃げる。が、ダンテもただで転ぶ男ではない。 「外が駄目なら!」 腰の左右からエボニーとアイボリーを抜き放ち、両腕をクロスして構えると、息もつかせぬ連射を喰らわせる。迸った弾丸は、何と全てが閻魔刀の剣柄に一列に重なって命中した。先刻地獄門を破壊した時の、一ヶ所に加えた連閃にも勝る精密さだ。与えられた力により遂に閻魔刀は宝珠を砕き、その奥の、グロテスクな襞の合わせ目へ突き立った。 「中から壊すさ」 再び尖塔の上へ着地して、してやったりとばかりに顎を反らすダンテの前に、まるで赦しを乞うように「神」が倒れ込む。 「貴様……!何をした!」 顔を上げ、苦しげに喚く「神」……教皇の声を完全に黙殺し、ダンテは腕を拡げ、語りかけた。 「起きな、坊や。遊ぼうぜ」 ひととき、「襞」には何の変化もなかった。が…… 「ネロ!!」 一際強く、ダンテが呼び掛けるとそれは激しく蠢き始めた。まるで中から何者かが押し破ろうとしているかのように。そして、それに呼応するかのごとく、突き立った閻魔刀が妖しい光を放ち始める。 出し抜けに、襞の中から血飛沫を上げて異形の腕が姿を見せた。それは輝く掌でしっかりと閻魔刀の剣柄を掴み、肉の割れ目を一息に切り裂いた。 べしゃりと床に崩れ落ち、ふらつきながら半身を起こしたネロの耳に、「坊やの番だぜ」遠くこもったダンテの声が呼び掛ける。 「ヒーロー役はくれてやるよ、楽しみな」 それを聞いたネロは僅かの沈黙の後に軽く唇を噛み、「分かったよ……」呟くと、閻魔刀を地面に突き立て立ち上がった。握った刀に目をやって、力強くひと振りしたのち、歩きだす。 「俺が終わらせる!」 「そっちは任せる!神様の相手で忙しいんでな!」 軽い口調で言った途端に「神」の手がダンテを捕らえようと伸びてくる。その巨体に大ジャンプで飛びうつり、執拗に追ってくる腕を危ういところで次々にかわしていくダンテ。 「分かってる。ちゃんと働くさ」 割れた宝珠の向こうに行動を開始したネロを見送って 「行ってこい、坊や」 ダンテは笑い、呟いた。 「神」の体内最奥部。心臓に当たる臓器だろうか、巨大な球状の岩塊、その表面に開いた幾つもの穴の一つに捕らえられたキリエを見いだし、歩み寄ろうとするネロの行く手を 「貴様を利用することに固執して―――ダンテを野放しにし過ぎたか」 忌々しげに唸る教皇が遮った。 「知らねえよ。キリエを返せ!」 と吐き捨てるネロに教皇は今まで従ってきた者が何故逆らうと問う。 「いろいろムカついたけどな……お前はキリエを巻き込んだ!」 刃を向けるネロを教皇は嘲笑う。 「それは何だ?愛か……?」 教皇に魔剣を突きつけられたキリエがそれでもネロに微笑みかけ、光の中に取り込まれた。 「黙ってろ!」 ネロは閻魔刀を一閃し、衝撃波が教皇を襲ったが難なく跳ね返されてしまう。 危ういところでそれをかわしたネロだが、教皇の姿が消えたことに気づく。 「終わらせるぞ、坊や!」 狼狽するネロを勇気づけるかのように遠くダンテの声が響いた。 「すぐに片付ける!」 「調子に乗るなよ、小僧!貴様を倒すなど造作ない事よ!」 応じて叫ぶネロの背後に「神」の体内から教皇が現れ、衝撃波がネロを襲う。 が、それは振り向きざまに放ったネロの剣閃によって押し止められ、双方の魔剣が生んだ剣波が両者の間で激しい爆発を起こした。 「魔剣スパーダ!何故、力を与えてくれぬ!何が欠けている!」 打ち負かされ、とどめの一撃を辛うじてかわした教皇が上ずった声で魔剣に呼び掛けた。 「お前らの教えだろうが」見苦しくあがくその背中にネロは指を突きつける。 「スパーダは人を愛した。その人を愛する心が―――お前にはない!」 断じられ、逆上した教皇がキリエに剣を向けたがもうネロは怯まなかった。 「今度こそ助ける。待っててくれ」 低く呼び掛け、歩きだす。 「動けばこの女が……!」 脅し文句が終わらぬうちに、その目前にネロは無造作に閻魔刀を投げた。 魔剣に目を奪われた教皇がはっと気づいたときには、既にネロの異形の腕が眼前に迫っていた。一瞬のロスは余りにも大きく、「神」の体内に逃げることも叶わぬまま、天井に叩きつけられる。 次の半瞬、ネロは反した腕で閻魔刀をかっさらってそれを囚われのキリエに向かって閃かせ、くるりと体を反転させた。その背に教皇が落ちてきて、逆手に握ったネロの閻魔刀に貫かれ、赤黒い血を吐き出す。 戒めを解かれて倒れ込むキリエをネロは抱き止め、教皇は絶叫と共に自らの傷口から放つ禍々しい光の中に消えていった。 「待たせたね……キリエ」 腕の中のキリエにネロが囁きかけると彼女は瞼を開き、彼に気づくと腕を伸ばしてその胸元に頬をすり寄せた。 同じくネロも彼女を抱き寄せて、二人は強く抱擁しあう。 「終わったか」 リベリオンを掲げて受け止めた「神」の拳が動きを止めたことに気づき、ダンテは衝撃で上がったもうもうたる土埃の中、溜め息混じりの苦笑を漏らした。 軽く勢いをつけて向きを反らしてやると、それは軽い地響きをたてて拳を地につき、ただの石像のように微動だにしなくなった。 まるで始めからそうしていたかのような石像、その額に埋め込まれた青い宝珠をダンテがじっと見上げていると、出し抜けにそれを突き破り、キリエを抱いたネロが飛び出してきた。 しゃらしゃらと舞い落ちる青硝子を踏んで歩くネロを、キリエは見上げ、彼の首筋にそっと頬を寄せる。 「遅刻だな」 それを腕組みし、ニヤニヤ顔で見ていたダンテが声をかけた。 「謝ればいいのか?」 キリエを降ろしながら相変わらず可愛いげのない言葉を反すのに 「待ってたって事さ」 事も無げに応えた背後で、その時俄に獰猛な唸り声が上がった。 振りあおぐと、力を失いただの石像と化したかと思われた「神」が突いた腕を支えに身を起こそうとしている。 「しぶとい爺さんだな」 先刻までは彫像然として無表情だったその面が、憎々しげに食いしばった歯を剥き出しにしている……まるで誰かが乗り移ったかのように……のを目にし、両の腰からエボニーとアイボリーを抜いて歩き出したダンテの行く手を、ネロがずいとスパーダを上げて遮った。 「俺の街だからな。最後は―――俺の手で」 それを聞き、 「それもそうだ」 低く笑ったダンテは白銀と漆黒の銃を腰に納め、ネロからスパーダを受け取って、空いた手を「神」に向け、煽るようにひょいと振った。 「やっちまいな」 「神」を睨み上げていたネロがふと振り向く。胸の前で指を絡め、心配そうに見つめているキリエに 「すぐ戻るよ」 呼び掛けると、彼女はちょっとうつむいたあと、小さく笑んで頷く。それに同じ微笑みを返して、ネロは再び前を向き、見送る二人を背に歩きだした。 「右手がこうなった時、神を呪ったよ」 異形の右腕を握り込むと、それは彼に呼応して妖しく輝きだす。彼の行く手、最早腰も立たないのかこちらにたどたどしく半身を転じようとしているのは真贋はとまれ、まさしくその「神」だ。 早朝の空に土埃を撒く巨体を睨み付け、ネロは両の手をぱんと打ちつけた。 「ブチ殺してやりたいと思った……実行するぜ!」 「そうさ―――」 ネロは異形の拳を握りしめ、四肢をついて総身のあちこちから土煙を上げる「神」の眼前へ高々と飛び上がった。 「この腕はお前をブチ殺すためにあるって事だ!」 気合いの声と共に拳を繰り出すと、具現化した魔力の巨大な掌が「神」へとまっしぐらに伸びて、その顔にがっちりと食らいつく。 「この一撃で―――消えろ!!!」 烈帛の雄叫びと共にネロは拳を握り込み、「神」の顔はぞぶりと喰いちぎられて砕け散った。 周囲に衝撃波が走り、無惨に顔面を抉り取られた「神」が、今度こそ完全に力を失い、倒れこむ。 舞い散る凄まじい粉塵の中、ネロはつかのま「神」を倒した右手を眺め、小さくガッツポーズをするのだった。 噴水の水は半分がた漏れでてしまい、石柱は崩れ落ちて廃墟寸前になった聖堂前の広場。 吹き抜ける朝風に髪をそよがせ、立つダンテの背に 「感謝してる」少し居心地悪そうにネロが声をかけた。 意外な言葉に、らしくないな、とダンテは苦笑する。 「反抗の方がお似合いだ」 だが、ネロがそれにいつもの小生意気な態度を返すことはなかった。 あるいはそれが、そうと認めた相手だけに見せる彼本来の性格なのかもしれない。 「かもしれないけど―――助けられたしな」 ネロはダンテをまっすぐに見て、穏やかに礼を言った。 「気にすんな。こっちもワケありだ」 するとダンテは鷹揚に笑ってうなずき、ネロの肩を軽く叩いて 「元気でな」 彼らしい、そっけないほどあっさりとした挨拶を最後にすたすたと歩き出す。 何か言いかけて、しかし結局ネロは無言で俯き、そのまま二人は別れ…… るかと思われたが、 「待てよ」ネロがダンテを呼び止めた。 「忘れ物だ」 振り返り、自分に向かって掲げられた閻魔刀を目にしたダンテは一瞬片眉を上げる悪戯っぽい笑みを見せたが、それはすぐに消え、何故か妙にまじめくさった表情になった。 「やるよ」 「ナニ?」 が、口調は以前似たような事を言った時とほとんど変わらず、あたかも余った飴でもくれてやるかのように軽いので、以前にも増してネロは面食らい、さっき閻魔刀を差し出す前にちょっと惜しげな顔をしたことも忘れて、大切なんだろ?と訊き返す。 「何か問題でもあるか?俺がそうしたいんだ」 眉を寄せるネロは気付いているだろうか。 教皇が言った「スパーダの血族」の意味を。「兄の物」「家族の形見」と言ったそれをダンテがネロに託すわけを。 (英語なら、更に「お前を信頼してるからだよ」的なことを言います) 「お前も好きにするといい」 とまれ、ダンテはそう言い残すなり再び踵を返した。 「ダンテ!」 遠ざかる背中にネロが呼びかける。 「また会えるか?」 さっき口にできなかった問いだろうか。その返事は背を向けたまま、揃えた二指をちょい、と振っただけ。そのまま彼は大股に歩み去っていった。 自分と同じ銀髪の、自分より少し背の高い影が格子の上がった門の向こうに消えるまでを見届けて、ネロは右手の閻魔刀に視線を向けた。 恐らくは、彼自身にとってもそうと気づかぬ形見である刀が輝き、異形の腕に吸い込まれると、 「これで……終わったの?」 気遣わしげな囁きが背中にかかった。 「たぶんね。たぶん……」 悲しそうに辺りの惨状を見回しているキリエに従って、同じように見回しながら返すいらえの言葉尻はあいまいな呟きになった。 悪魔たちはもう現われないのだろうか? ほんとうにこれで終わりにできたのだろうか? 「街がボロボロ……」 「そうだな」 長い、余りにも長い一日の間に余りにもたくさんのものが壊れ去ってしまった。 溜息のようなネロの同意に、再びキリエが問いかける。 しかし今度の問いは微笑みと共に、 「でも……私はまだ生きてるのね?」 囁く声はむしろ力強ささえ感じさせた。 「ああ」嘆息を微笑に変え、「君も、俺も」頷いたネロは歩み寄りかけてふと右手に視線を落とした。 「キリエ。俺が悪魔でも―――人間じゃなくても―――平気なのか?」 異様な光を放つ、人のものではありえない右手を胸に抱え、ネロは小さな声で問いかける。 彼ががためらい、開けた一人分の距離。それをキリエは躊躇することなく詰め、ゼロにした。 「ネロはネロだから」 異形の手をもどかしげに引き寄せて、細い両手で包み込み、優しく胸に抱く。 「私が大好きな―――誰よりも人間らしい人だから」 その言葉にネロは曇らせていた顔に笑みを取り戻し、キリエの首筋にそっと腕を回した。 不思議そうに瞬きしていたキリエが視線を落とすと、胸の上には幾たびの受難にあったあのペンダントがやっと本来の持ち主のもとに帰って朝日に輝いていた。 二人は笑みを交し合い、見つめ合う瞳はやがて真剣な色を帯びる。 どちらからともなくそのまぶたが閉じられて、ネロはキリエに頬を寄せ、その唇を奪……う直前、やおらブルーローズを真横に向けてブッ放した。 「そんな気はしてたさ」 きょとんとしているキリエを尻目に、溜息をついて周囲を睨みつける。 今しがた門扉に叩きつけてやったのを除いても、十匹以上の悪魔が恋人達をからかうように輪になって、下卑た声を上げながら踊り狂っている。 やはりあれで終わりではなかった。 悪魔はもう現われないなんてことはなく、これからも奴らとの戦いは続くのだろう。 人間が諦めず、生きて戦い抜く限り。 「キスはお預けだ」 背後のキリエを振り返ると、 「いいの」 彼女ははにかんだ笑みを見せて胸元のペンダントをそっと握り締めた。 「……待ってる」 こころなしか、なんだか幸せそうだ。 「ありがとう」 ネロは銃を持った拳で鼻をこすり、歩き出した。 「さて……」 彼に向け、悪魔たちが一斉に宙を飛び、殺到してくる。 左手のブルーローズを牽制に、ネロは異形の右手を引き絞った。 「遊ぼうか!」 「助かったわ。私の仕事も安泰」 やってきた昔なじみはそう言いながら、銀色のアタッシュケースをデスクの上に滑らせた。 が、ダンテは相変わらず机をオットマン代わりにするお行儀の悪い格好でグラビア雑誌を読みふけり、そちらに視線を遣しもしない。 代わってうきうきとした足取りでやってきたトリッシュがアタッシュを引き寄せて開いたが、中には丸められた(……つまり、丸められるだけの厚さしかない)ドル札の筒が一本きり。 「それにしてはちっぽけな報酬ね。“誠意”って知ってる?」 重さで気付いたのだろう、引き寄せた瞬間から加速度的に雲行きが怪しくなっていったトリッシュが、紙筒をためつすがめつしながら皮肉ると、 「あら?スパーダを持ち出して、話を混乱させたのは誰?」 負けじと挑戦的な笑みを浮かべた昔なじみが、煽る気満々のシナを作って相手を睨み上げる。 しばし恐るべき女二人の恐るべき視線がばちばちと火花を散らし、そののち二人は申し合わせたように標的を変えた。剣呑な二対の流し目を向けられたダンテは一瞬らしくもなく目を白黒させた後、おもむろに雑誌を目元に引き上げ熱視線を遮ろうとしたが、トリッシュがそれを取り上げぴしゃりと卓上に叩きつける。 「おい、今いいトコなんだ!」 抗議もものかは、据わった視線を相棒に縫い付けたまま 「ダンテの意見は?」 トリッシュは尋ねたが、どうやら半分人間のクセに(というか半分人間だからなのか)ダンテは悪魔のトリッシュよりも金銭に執着がないらしい。 「貰えるモノは貰う。だろ?」 絶対使い方間違ってるセリフをしゃあしゃあとのたまい、彼は再び雑誌の世界に没入し始めてしまった。 ハア!?とか言い出しそうなトリッシュを尻目に 「じゃあ―――商談成立ね」 にっこり笑って宣言した古なじみが踵を返し、トリッシュがやれやれとでもいいたげな視線を涼しい顔のダンテにぶつけていたその時、ダンテの足に蹴り落とされることなくデスクの端に乗っかっていた電話が、アンティークな外見にふさわしい呼び出し音で鳴りだした。 「“デビルメイクライ”」 歌うように応じたトリッシュは、一拍の後、何故か戸口に向かった足を止めてこちらを見ている昔なじみに眉を上げてから、傍らの相棒に目をやった。 「合言葉アリの客よ。すぐ近く。どうする?」 彼女の表情がなんとも言えずニンマリしているのは何故だろうか、いうまでもない。 ダンテはやおら雑誌をぴしゃっと閉じて机に投げ、立ち上がった。 「決まってる!」 真っ赤なコートの裾を勢いよくはらって、机上に放り出していた白銀と漆黒の銃をかっさらい、長剣を背中に引っ担ぐ。 左手でエボニーをスイングし、右手でアイボリーをくるくる回しながら歩く横顔は鼻歌でも歌いだしそうな薄い笑みを浮かべていて、さっきまでとは大違いだ。 「私も行くわ」 その行く手を塞いだ古なじみが言うと 「好きにしろ。タダ働きだがな」 陽気に両手を広げ、さっきのトリッシュみたいに節回しをつけながら歌ってその脇を戸口へと向かう。 「他に趣味がないのよ。貴方もでしょ?」 背に担いだ物騒なブレード付きのランチャーを揺らして昔なじみが振り向くと、 「まあね」 トリッシュが答え、彼女に肩を並べた。 「行くか」 ダンテが勢いよく扉を蹴破り、三人は景気づけの花火とばかりに銃を乱射するのだった。 「Com’on Babes, Let’s Rock!!」
https://w.atwiki.jp/storytellermirror/pages/1202.html
デビル メイ クライ 4(Part1/2) ページ容量上限の都合で2分割されています。 要約 part35-570、part36-395 詳細なストーリー part35-562~569、part36-388~394 以降、2008/05/31~2009/4/3にWikiに直接投稿 悪魔でありながら魔から人間を護った魔剣士スパーダ。 彼を「神」として崇める「魔剣教団」の大祭の日、謎の男(プレイヤーには既知だが正体はスパーダの息子ダンテ)が現れ、演説中の教皇を殺害してしまう。 騎士団長クレドに命じられ、教団騎士ネロ(何故か右腕だけ悪魔パワー保有。でもみんなにはヒミツ)は男を追う。 道中何故か続々現れる巨大な悪魔を片端からブッ倒すものの片っ端から逃げられ(or新手が現れ)微妙に消化不良になりつつも先を急ぐが、途中教団員アグナスにより自ら召還した悪魔から人々を護ることで信仰を集めるという教団の自作自演救世主計画を明かされる。 更に教皇をはじめ教団員の大部分が帰天と称した悪魔との融合を果たしていたのだった。 隙を突かれてピンチになるネロだが、何故か不思議パワー(スパーダの血族なのらしい)で研究材料らしい謎の日本刀(ダンテの兄の形見閻魔刀)を腕に取り込みアグナスの魔の手から脱出。 その後教団本部でクレド(勿論悪魔と融合済)ともバトルになり、悪魔パワーで勝った所をクレドの妹で幼馴染のキリエに見られてしまう。(アグナスがネロを動揺させるために連れて来た) キリエを人質に取られたネロは既に復活していた教皇に挑むが召還された神(という名のでかい石像。勿論こいつも悪魔)の中に「神」完全復活のための礎として閻魔刀(もともと魔界と人間界を分けるための封印の鍵だった)ごと捕らえられてしまう。 ネロを救おうとして返り討ちにあい、虫の息のクレド(妹を利用されたことに憤り裏切った)に頼まれたこともあり、これまでちょこちょこネロに絡んできてたダンテがネロとプレイアブルキャラをバトンタッチ。本格的に事態の収拾へ動き出す。 (つってもネロが逃がした巨大悪魔を片っ端から倒して召還の鍵になってた魔具に戻し、奴らが出てきた魔界の門(魔具が鍵?)を閉じる(壊す)だけ。あとアグナスもついでに倒した) 最大の門を開く鍵になってた閻魔刀を取り返したダンテがそれを「神」体内のネロにパス。 ネロは「神」体内で教皇をブチのめして先に捕らえられてたキリエと共に脱出。 ダンテとネロによって外と内からボコられてボロボロ状態の「神」を、ネロが灼熱ゴッドフィンガーでトドメ刺してエンド。 ダンテはネロに閻魔刀預けて帰った。ネロはキリエとチューしようとするのを悪魔に邪魔されエンドロールでボコりまくる。 裏エンド(エンドロールで規定時間キリエ護りきったら発生) 事務所に帰り雑誌読んでくつろいでるダンテの前で今回の依頼者であるレディと相棒のトリッシュが依頼料の事で険悪に。 辟易としている所で「合言葉」の電話がかかってきて、ダンテ(とトリッシュとレディ)は嬉々として新たな悪魔狩りに向かうのだった。 562 :DMC4:2008/03/04(火) 10 38 08 ID SEvVVZ/50 夕暮れに沈む裏路地を、濃紺のコートの裾を翻してまっしぐらに駆ける影がある。 辺りには家路を急ぐ人影もなく、ただ宵風に吹き散らされた紙くずが寂しげに舞っているばかりだ。 暮れなずむ街並の向こうには、夕日を浴びた聖堂の尖塔が白々と光っていた。 パイプオルガンの荘厳な音色が薄暗い聖堂のうちに満ちていく。 舞台の上にスポットライトが降り注ぎ、修道女を連想させる慎ましげなデザインのドレスに身を包んだ女性を照らし出す。 金の冠に飾られた頭をゆっくりともたげ、満場の聴衆を見渡すと、 女性はいまだあどけなさの残る瞳を祈るように静かに閉じて、大きく一つ息を吸った。 伸びやかな歌声が篝火の下、目深にフードを被った人の群れを俯瞰して流れ出す。 駆けどおしに駆けてきたコートの若者の足が唐突に止まる。 その行く手に異形の者たちが現れて、道一杯に立ち塞がっていたからだった。 怯える事もなく、背を向けることもなく、若者はむしろ射すくめるように悪魔たちを睨みつけると、 銀の髪を流星のように煌めかせ、敵に向かって一直線に駆け出した。 明るい栗色の髪を揺らし、腕に掛けた黒いショールをそよがせて、訥々と、語りかけるように彼女は歌い続ける。 首に引っ掛けたヘッドフォンを構いつけもせず跳び蹴りで数匹をまとめて吹き飛ばし、 同じく数匹を左腕一本でまとめて殴り倒し、振り下ろされた剣を左手で受け止めてそいつごと振り回し、 奪った剣を左手にたずさえて更に次々と敵を屠っていく。 使っているのは左手だけだ。右手は怪我をしているのだろうか、ギプスで固められ、包帯によって吊られていた。 間奏の間、聴席を見渡していた女性が眉をふと曇らせる。 満員の座席の中、彼女の視線の先の席だけが空っぽのままだ。 563 :DMC4:2008/03/04(火) 10 38 35 ID SEvVVZ/50 壁を走り、飛び石渡りに悪魔たちを蹴りつけながら若者は剣を振るう。 曲芸というにはあまりに人間離れした動きで宙を駆け、地に着くまでに何匹もの悪魔が塵に返った。 「賛美歌」を歌う彼女の背後を巨大な像が見下ろしている。 「神像」であるはずのその石像は、しかし奇妙なことに悪魔のような角を生やしているのだった。 壁に地に、叩きつけられて爆散する敵を省みる事もなくその脇をすり抜け、若者は猛烈な勢いで駆けていく。 その背を見送る裏路地からは異形の影は一掃されて、再び寂然とした静けさだけが横たわっていた。 透き通ったソプラノの余韻が高天井に消え、入れ替わりに穏やかな拍手が聖堂を満たした。 一旦はそれに笑顔で応えたものの、すぐに再び気遣わしげな表情に戻ってしまった彼女は 辺りを見回し、とある一角に目を留めた所で再び眉を開く。 そこに居たのは彼女の幼馴染。 肩を背もたれに引っ掛けるような、いささか不遜な態度で席についてはいるが、 彼女の晴れ舞台を見るために随分急いで走ってきてくれたのだろう、 息を切らした様子で気だるそうにこちらを眺めている。 それを証拠に彼女の視線にかち合うと、彼は肩をゆすり上げながら皮肉げな、 にもかかわらずどこか温かみのある微笑を寄越し、 そこではじめて彼女の頬に気恥ずかしげながらも嬉しげな、花のような笑みが浮かんだのだった。 沈みかけた夕日は更に熟し、尖塔を赤々と染めている。 冷たさを増した宵風に、その残照よりもなお赤い、血の色をしたコートを翻す影がある。 煤けたビルの立ち並ぶ裏通り。 そのうちの一つの屋上に陣取って、彼は泰然と聖堂を眺めている。 落日を跳ね返して輝く髪は銀、背には不釣合いなほどに長大な、抜き身の剣が光っている……。 564 :DMC4:2008/03/04(火) 10 39 20 ID SEvVVZ/50 「今より2000年前―――魔剣士スパーダは悪魔でありながら、我ら人間のために剣を取ってくださった―――」 彼を迎える盛大な拍手が収まると、白を基調にした豪奢な僧衣に身を包み、 同じく豪奢な赤みがかった金の飾りのついた白い僧帽を戴いた老齢の男はしわがれた、 けれども朗々とした声で語りだした。 悪魔スパーダを讃える言葉、けれどもそれはこの場においてなんら異常なものではない。 老僧の背後に佇む巨像が悪魔の角を生やしているのもむべなるかな、 聖堂を埋めている人々が崇めているのは他でもない、この像の元となった魔剣士スパーダ、 2000年前、人の情に目覚めて魔帝の蹂躙と戦い、人間を救った悪魔なのだった。 満座の信者たちは一心に、長々と続く老僧の説教に耳を傾けている ……たった一人、遅刻してこの場に現れたあの若者を除いては。 背もたれに腕を引っ掛けた、でかい態度はそのままで、あっちを見たりこっちを見たり、 片胡坐を組んだ足をその心情を表すかのようにふらふらと苛立たしげに揺らしてみたり溜息を吐いたり。 コートの腕に教団のシンボルを赤く縫い取ってある所からすれば、 彼もこの教団で何らかの役についている者には違いなかろうに、 あるいはそれが見間違いではないのかと思えてくるほどの不信心ぶりである。 聖堂の壁際に居並ぶ、恐らく聖騎士達だろう、腰に剣を携えた一団の先頭に立つ、 あごひげをたくわえた壮年の男……恐らく彼らの中の最上位にある者なのだろう、 彼だけがフードを被っておらず、暗い栗色の総髪をむき出しにしている……が苦虫を噛み潰した 白眼を寄越したが、若者はそれに気づいているのやら居ないのやら、 挙句の果てにはヘッドフォンから盛大に音漏れをさせながら足を組み替え、 迷惑顔の隣席の信者を睨み返して目を逸らさせたりする始末だ。 が、だからといってまさか尊師の説教の最中に怒鳴り散らして注意するわけにもいくまい。 壮年の男は自らに「自分は何も見なかった」とでも言い聞かせるかのように、 険しい顔を前方に振り向け、老僧の説教へと意識を戻した。 565 :DMC4:2008/03/04(火) 10 44 36 ID /KKUBqvh0 そんな若者の所へ歩み寄ってくる者がいる。 儀式用の冠とショールを脱いだ、あの歌姫役の女性だ。 しかしその姿に気づくや、先刻彼女に向けた笑みはどこへやら、 若者はしかめっ面のままむっつりとそっぽを向いてしまった。 ご丁寧にさっきまでは首筋に引っ掛けていただけだったヘッドフォンを ボリュームを上げさえして耳元に押し当て「何も聞きませんよ」と言わんばかりだ。 彼女は戸惑って視線を落とす。 と、その目の先、彼の隣、ちょうど彼女が座れるくらいに空いた端の座席の上に、奇妙なものを発見した。 青いリボンで飾られた、細長い青い小箱だ。 彼の態度の理由……目を合わさないのではなくて、合わせられない……に気づいた彼女は ぱっと顔を輝かせ、彼からのプレゼントを大事そうに胸に抱いて、 それで更に横を……もうほとんど真横を向いてしまった彼の傍らに、そっと腰を下ろす。 すると、それをちらりと尻目にした若者は、彼女のドレスを汚さないためだろうか、 さりげなく、組んでいた足を床に戻した。 説教は正に最高潮を迎えていた。 「どんな困難が我らを襲おうとも、神が必ず救ってくださると信じて、祈るのだ……」 呼びかけ、彼らの作法なのだろう、独特な形に手を組んで頭を垂れた老僧に倣い、 信者たちが次々と同じく手を組み頭を垂れる。 穏やかなパイプオルガンが神聖な雰囲気をいや増し、例の若者もこの時ばかりは ……と思いきや案の定、気味の悪い物でも見るように片眉を上げて周囲に首をめぐらすと、 忌々しげな息を吐いてヘッドフォンを頭から引っぺがし、やおらむくりと立ち上がった。 「ネロ……どうしたの?」 驚いた女性が顔を上げ、囁き声で問いかけてくるが、 ネロと呼ばれた若者はその問いを押し戻すように顎を突き出して「帰るのさ」と囁き返す。 「お祈りが……」 こちらはまっとうに信心深いらしい女性が早口で引きとめようとしたが、うんざりと目を閉じたネロは 「眠たくなるだけだ」 不信心者全開ないらえもそこそこに、さっさと席を立ち、歩き出してしまった。 ちらりと説教台のほうに目をやったものの、仕方なく女性もその後を追う。 が、彼はほんの数歩を歩いただけで立ち止まってしまった。 気遣わしげな女性の視線を背に受けて、しかしネロはギプスで吊った己の右手を当惑した風に見下ろしている。 それもそのはず、その背に隠れて彼女からは見えないが、まるで「何かに反応するかのように」 包帯の内側からじわりじわりと青い光が脈打ちながら漏れ出していたのだった。 彼は続いてその「何か」に糸で引かれたかのように視線を移動させ、はっとして背後を振り仰いだ。 その背後、説教台の、ちょうど真上を。 566 :DMC4:2008/03/04(火) 10 48 32 ID /KKUBqvh0 できの悪い雨さながらに、大小まばらに砕かれたステンドグラスが降り注いだ。 深紅のコートを翼のごとくひらめかせ、何者かが飛び降りてくる。 常人ならば重傷必至の高さだというのに躊躇いも戸惑いもない動作。 重い着地音、しかし彼は自らが常人でないことをその着地によって証明した。 すべてがゆっくりと動く時の中、ゆるゆると男が頭を上げて、 銀髪の隙間から銀に近い青の目が相手を睨む。 驚きと恐怖と困惑と、老僧はそれを表情にするくらいしか出来ない。 後は僅かに身を引けただけ、その彼に向かって……男が一瞬で銃を突きつけ、引鉄を引いた。 何の躊躇いもなく、戸惑いもなかった。 轟音、マズルフラッシュ。薬莢が跳ね、澄んだ音を立てる。 騎士団長が息を呑む。 今更のように信者たちが祈りから覚め、顔を上げる。 男が説教台の上に立ち上がり、こちらを向こうとしていた。 無表情にすがめた目、色の薄い、感情の感じ取れない、目。 その肌には何かを投げつけられたように赤い色が……いや、違う。投げつけたのは男自身だ。 水溜りに石を投げつければ投げ付けた者が水を浴びるのは当然のこと。 男がしたのはそういうことだ。 老僧という、血と肉の水溜りに、銃弾という名の石を投げつけ、結果、男の顔にはベッタリと、 血糊という名の泥水が張り付いていた。 血まみれの顔を、男が僅かに歪める。笑ったようには、とても見えない顔だった。 だが、周囲の人間にはそれだけで十分な効果があった。 転がるがごとく、そして実際に何人もが転びながら悲鳴を上げ、逃げ出す。 「教皇!」 一喝するように叫ぶや、騎士団長が剣を抜く。 彼の声に弾かれて、騎士たちが次々と、流れるように剣を抜いた。 パニックの奔流の中で、ただネロだけが突き立てられた杭さながらに動かなかった。 怯える幼馴染を背後に、訝しげな視線を男とギプスの間に往復させている。 殺到してくる騎士達を男は首を傾けて見守っていたが、 彼らが間合いの内に入るが早いか出し抜けに背の大剣に手を掛け、襲い掛かった。 挨拶代わりの説教台からの跳び蹴りを皮切りに、剣闘劇の幕が開く。 567 :DMC4:2008/03/04(火) 10 51 26 ID /KKUBqvh0 何らの比喩もない、それは正に、劇というのに相応しかった。 不意を突こうと突くまいと、騎士たちの行動は抵抗の真似事でしかなく、 まるで示し合わせた台本でもあるかのように虐殺されることしかできなかったのだ。 ただ驚くだけで殺された、先刻の教皇とほんの少しの違いもあったかどうか。 前から加えた攻撃が体ごと弾き飛ばされるのは当然のこと、 後ろから斬りかかった剣ですら男はあっさりと受け止めて、 蹴飛ばす先にはちゃっかりと巻き添えを見込んでいる。 男に蹴倒された騎士の胸から、潰れるような苦鳴とともに血がしぶくのを見て、 ここでネロがついに行動を起こした。 だがそれは騎士たちに対する加勢ではない。それは彼にとってごくごく自然な決断、自明の理だった。 当然の事、説教の最中に「眠くなるから帰る」などという男がそれと天秤に掛けられて、 教団への愛だの忠誠心だのの方を取るわけは無いのだ。 「それ」つまりは、悪魔を蹴倒してでもその歌を聴きに、そしてプレゼントを贈りに来る相手。 要するに今現在彼の背後で震えている幼馴染。 彼女の指に自らのそれを絡め、ネロはその手を引いて走り出した。 急に引っ張られたせいで彼女の指から小箱が零れ落ち、逃げ惑う信者たちの一人に踏み潰される。 取りに戻ろうと身を捻るが、ネロがそれを腕で押し止め、 彼女は後ろ髪を引かれる様子ながらもやむなく彼に背を押されて出口へ向かった。 「くそ……!」 部下たちの築いた刃の盾の影。倒れている教皇の枕元に跪いた騎士団長の喉から絶望の呻きが漏れる。 男は難なく扱ってはいたが、あれだけの大口径の銃で真正面から頭部を撃たれては、 どんな名医でも手のつけようがない。 彼が呻吟する間にも、男は彼の部下たちを次々と屠っていく。 剣圧によろめいた肩を捕まえて腹に剣を突き立て、引き抜くのも面倒だといわんばかり、 そいつをハンマー代わりに前後の敵を叩き潰し、仕上げにぐるんと、 それこそ悪趣味なハンマー投げそこのけに一回転させて なぎ払った周囲の敵ごと天井近くまで吹き飛ばす。 こうまで子ども扱いにあしらえるのなら、相手が煩い小蝿程度にしか見えぬだろうに、 彼はこの場をさっさと逃げ出して、その相手をする手間を惜しむようなことはしなかった。 一匹たりとも逃がさんとでも言うつもりか、まるで見せ付けるかのようにわざわざ残酷なやり方で 男は騎士達をしらみ潰しに鏖殺していく。 一発の銃声から始まった狂乱は爆発的に膨れ上がったが、悲鳴の主達が或いは命からがらに逃げ去り、 或いはその命ごと簒奪者に握り潰されて消え去るに従って収束していった。 残っているのは逃げおおせた者達の絶叫の余韻と、僅かな逃げ損ないの立てる上擦った靴音のみ。 護衛者たちが根こそぎ平らげられたのにも気づかない騎士団長の背後に、 相手をなくして退屈したのか、大剣の峰でトントンと首筋を叩きながら男が現れた。 ああ、まだ肝心のが一人残っていたか。 そんな顔で刀を下げると、動かぬ教皇の躯を未だ抱きかかえて呆然としている無防備な背中に近づいていく。 568 :DMC4:2008/03/04(火) 10 55 56 ID /KKUBqvh0 ネロに導かれ、出口へ向かっていた女性がそれに気がついた。 脱出する直前振り返ったのは、どうしてもその安否が気になったからだろう。何故なら彼は――― 「クレド兄さん!」 全体重を掛けてネロの手を振り払い、走り寄る。 「キリエ!」 慌てた様子でネロが手を伸ばすが、間に合わない。 その細腕で何が出来るというのか、それでも彼女は兄を救おうと必死で走ったが、 その努力がかなう事はなかった。 倒れていた聖堂騎士の一人が、最後の力を振り絞って男の背後から斬りかかったのだ。 当然の如く騎士はあっさりと返り討ちに合い、吹き飛ばされた彼にキリエはまともにぶつかってしまった。 手ひどく床に全身を打ち付けて、しかしなおも起き上がろうと上げた懸命に顔にうっすらと影が差す。 今更ながら感じる痛みと恐怖に震えながら見上げると、男がこちらを見下ろしている。 剣を向けてはいないものの、その、無表情なまなざし。 それだけでキリエは竦みあがり、悲鳴を上げることさえままならない。 けれど、彼女が男に突き殺されるようなことにはならなかった。 傍らから上がった獰猛な雄たけびに、ハッと上げた男の顔。 その正中線ド真ん中にネロは一足飛びに駆け寄ったダッシュの勢いを殺さぬまま、渾身のドロップキックを食らわせる。 それはごくごく当然の結果、まったく判りきった自明の理だった……彼にとっては。 自分が属していた組織が壊滅の危機にあってさえ、まったく構いつけようとせずに さっさと連れて逃げようとした相手が、天秤の向こう側に乗っかってしまったのだ。 どっちを……つまり逃げるか戦うか……を選ぶかは、いや、選ぶまでもない、 彼の天秤はどちらの皿にキリエという錘が乗るか次第であるのだから、とっくに決定された事項だった。 569 :DMC4:2008/03/04(火) 10 56 50 ID /KKUBqvh0 着地した途端に銃を抜き、引鉄を引く。 ワンアクションで二発の弾が発射され、吹っ飛んだ男の心臓を正確に狙ったが、 相手は寸での所で長剣を翻し、二発とも叩き落した。 そのままスパーダ像の頭部に剣を刺し、それを足がかりに着地した男は、 しかし再びその柄を抜いて前方に突き出した。 それで飛び掛ってきたネロの蹴りを受け止めるためだった。 次の瞬間、スパーダ像はなお深く額を剣で穿たれ、 男とネロはそれぞれがそれぞれの銃を抜いて両肘の上に別れて睨み合っていた。 ……男はそれぞれにピアノのエンブレムをつけた銀と黒の二色の二丁拳銃を。 ネロは青い薔薇の意匠を施した二連筒の銃を。 「ネロ!」 ようやっと立ち上がりながら、キリエが悲鳴じみた声を上げた。 「キリエ!」 何も言わせないと拒絶するように、ネロが厳しい声を今にも泣きそうな彼女の言葉尻におっ被せる。 その声色を読み取ったかのごとく、クレドが駆け寄ろうとするキリエを背中で押しとどめた。 「クレドと逃げろ!」 その間にも、男は値踏みするかのような視線を睨み上げる騎士団長と、 この新たな跳ねっ返りの敵に交互に向けている。 「応援を呼ぶ!死ぬなよ!」 このさっきまでの状況を見ていれば死ぬまいと思っていれば死なずに済むとは到底思えず、 従ってそれは無茶な注文にしか聞こえないのだが、 剣を掲げたクレドのその叫びは、或いは彼のネロに対する信頼の証かもしれなかった。 教皇を担ぎ上げた生き残りの騎士達と、クレドに押し出されるように駆けていったキリエの姿が見えなくなると、 「期待せずに待つさ」 ネロは呟き、頭を一つぶるんと振って、ヘッドフォンを放り捨てた。 388 :DMC4:2008/03/09(日) 08 49 46 ID 2qo49zkV0 書き手&まとめ人のみなさんおっつーです まだ埋まってないみたいなので埋めいっときます。ノベライズでごめんね(´A`)ノシ 季節はずれの蝉に似た、耳障りな喚きが虚空に消えるのを待つこともなく、ネロは出し抜けに発砲した。 眉間に迫った弾丸をふっ、と身を沈めて難なくかわした相手へ即座に銃口を下げて更に一発。 だが砕かれた石像の欠片が跳ねたのみ、男は猛禽のように両腕を広げ、とうに宙へと逃れている。 気付くやそれを追って跳躍したネロは、両足をあぎとのごとく大きく広げ、がっちりと敵を捕まえた。 向けてきた左腕を右脚で挟んで黒銃の矛先を避け、間髪入れずに伸ばされた右腕を 左足で絡め取って銀銃の火線を逸らさせる。 相手の胸板の上に胡坐をかいたような姿勢から今度はこちらの番とばかりにネロのブルーローズが火を噴いたが、 男は喉を反らして鼻差でかわし、固められた腕を逆手に取って、それを支点に巴投げのようにネロを投げ飛ばした。 が、「うわっ」と一旦は驚きの声を上げたものの、それで引き下がるようなネロではない。 投げの反動で広がった男のコートの裾を引っつかみ、生じた遠心力を上乗せして男を投げ返す。 きりもみ状に身を捻り、つい数刻前と同じようにスパーダ像の頭部に着地した男が、数刻前と同じようにはっと顔を上げる。 ロケット弾の勢いでネロが男の頭上に落下してこようとしていた。 しかし、その攻撃もまた男に逆手に取られることとなる。 ひょいと身を引くと同時に彼は再び宙へ飛んだ。ネロが跳ね飛ばした彼の剣を捕らえるためだ。 衝撃に澄んだ音をたてて鳴く獲物を手にするや、それを振りかぶって稲妻のごとく落ちかかる。 仰ぎ見て、ネロは咄嗟に銃を盾にするが、それで受け止めきれる衝撃ではない。 前のめりに足を踏み外し、スパーダ像とそれが杖にした巨大な魔剣の両面に激しく総身を打ちつけながら落ちていく。 伸ばした足と腰を突っかい棒に、背中全体をブレーキにして何とか像の脛辺りで落下を食い止め、 腹いせまがいに頭上に向かって発砲するが、勿論そんな闇雲な攻撃が効果を生む訳も無く、 男はあっさりそれをかわした。 すると像の頭上から魔剣の柄尻に組んだ拳へと、止まり木の間を渡るように ふわりと移動した相手を見たネロの喉から、遠吠えにも似た叫びが漏れる。 一旦腰を落として肩を沈み込ませ、壁に押し付けて彼は全力で「伸び」をする。 何たる怪力か、次の瞬間には魔剣を模した鉄塊が甲高い悲鳴を上げ、支えきれずに像の拳が轟音を立てて砕けた。 巨大な刀の先端で長剣を肩に担ぎ、悠然と待ち受ける男を目がけ、ネロは傾いていく刃の坂を駆け上がる。 けれどもネロが眼前に迫っても何故か男はもう銃を抜かなかった。 だからと言って剣を構えることもない。相変わらず何の苦もなく男が鼻先に放たれた銃弾を避け、 続く銃底での攻撃も避けて、二人はお互いの靴底を蹴りつけて左右に跳んだ。 耳を聾するような響きと共に、モニュメントの剣が観客席へともんどりうってダイブする。 着地したネロは男に銃を向けたが、照星の向こうの相手はやはりのんびりと剣を担いだままで、 殺気らしい殺気も見せない。 「余裕たっぷりだな」 そう言われて薄い笑いさえ浮かべた男に、ネロは低く吐き捨てた。 「ムカつく野郎だ」 389 :DMC4:2008/03/09(日) 08 52 15 ID 2qo49zkV0 ブルーローズの弾倉をスイングアウトして排莢したネロは、リローダーを放り投げ、 身を翻しながら宙に踊った六発の弾丸すべてを拾い、再装填する。 隙を極力殺すためのアクションだった筈だが、銃口を向けた先から標的の姿が消えていた。 構えを解く訳にもいかず、手をとりあぐねてそのまま僅かに乱れた呼吸を抑えつけつつ 気配を窺っていると、後ろからこつりこつりと靴音が響く。 挑発のつもりか、あるいは本気でそう感じているのか。 物珍しげな素振りで男が聖堂の装飾を見回していた。 「銃だけじゃ無理か……」 呟き、ブルーローズをくるりと回して仕舞い込むと、ネロは背後の床に刺さった長剣を蹴りつけた。 男の犠牲となった教団騎士のいずれかが残したものだろう、回転して落ちてきたそいつを掴み、 叩きつけるようにしてもう一度足元に突き刺すと、剣柄に仕込まれたグリップを捻る。 すると長剣はバイクのエキゾースト音そっくりの唸りをあげ、赤い光を発しながら身震いをした。 推進力を与えられたことにより破壊力を増す、教団特製の機械仕掛けの剣だ。 「その剣、飾りじゃないんだろ?」 こちらは掛け値なしの挑発に、振り向いた男は今はじめて気づいたかのように 「ん、これか?」とでもいうような視線を肩から下ろした長剣 ……剣の背に角を持った髑髏の飾りが刻まれている……に向けると、 おもむろにその剣先をこつんと床に当て、くいくいっ、と小さくひねって見せた。 大仰な挑発よりさりげないおちょくりの方が腹が立つ、 それを実証するかのような怒り心頭に発した雄叫びを上げて、ネロはまっしぐらに駆け出して行った。 けれど、怒りに任せた攻撃は長くは続かなかった。 加えて元より片手が封じられた状態で全力が発揮できる訳がなかったのだ。 ネロに合わせてくれたつもりか、男もまたほとんど片手のみで剣を振るってはいたが、 それにしたって元々体格差があり、バランス移動の点でも水を開けられている。 一合、一合、剣を合わせるごとに力の差が開く。 とうとう受けきれなくなり、背後に飛んで勢いを逃がそうとしたが、追いつかれて更に高い位置からの斬撃に襲われる。 これは何とか受けたものの膝をつき、必死に顔を上げたそこには既に、大きく剣を振りかぶった相手の姿があった。 辛うじてこれも受けたが最早その場しのぎにしかならなかった。 よろめき、たたらを踏んでついには圧倒的な力でもって剣を跳ね飛ばされてしまう。 きりり、と大剣を取り回して脇に引き付け、男はあくまで冷酷に、とどめの一撃を繰り出した。 390 :DMC4:2008/03/09(日) 08 56 53 ID 2qo49zkV0 無慈悲な刺突は、あやまたず丸腰の相手に迫ったが、 ここで一体何の悪足掻きか、ネロはその喉元を切り裂かんとする切先の前にギプスに包まれた右腕を突き出した。 カツッ、と硬い音がする。 だがそれはギプスの音ではない。 そんなものは何の意味もなく男の剣に突き通され、続いて生じた 周囲の座席全てが吹っ飛ぶような衝撃波によって跡形もなく消え去っている。 「……どういう仕掛けになってんだ?」 これまで終始無言を貫いていた男が事ここに至って初めて興味深げな声を漏らした。 「喋れるのかよ……」 荒い息を吐きながら、ネロは盾にした右腕からゆっくりと顔を上げる。 露になったその腕には、押し付けられた剣先を受け止めている事以上に異様な点があった。 まるで堅固な鎧さながらの赤と青の甲殻に覆われていて、殻の隙間からは眩いばかりの光が溢れ出している。 あのギプスは傷口を庇う為ではなく、この人ならぬ異形の右腕を隠すためのものだったのだ。 「だが、種明かしは―――してやれないな!」 小さな稲光すら発している右手の感覚を確かめるかのようにごくりと一度開閉させ、ネロは勢いよく腕を振り払った。 それだけで壁際にまで飛ばされた男は、 「まさかお前も……」 けれど何故か楽しげに鼻で笑って振り返ったが、その言葉を途中で途切れさせる。 本当にどういう仕掛けなのか、腕から生じた巨大なオーラの手で巨大な剣を掴んだネロが、 馬鹿力に物を言わせて……というレベルで済むのかどうか……それを投げつけようとしていた。 次の瞬間、必殺を期して飛来した鉄の固まりを男がすいっと上体を逸らすだけでかわし、 おかげで背後のスパーダ像の片膝に大穴が開いた。 惨状をかえりみて、しかしさすがに呆れ顔で再度振り向いた相手に見せ付けるように ネロはパンパンと掌の埃を払い、軽く肩を回した。「人が来る前に終わらせてやる!」 391 :DMC4:2008/03/09(日) 08 59 08 ID 2qo49zkV0 ばちんと小さくスパークが走り、男が彼の剣を受け止めたネロの右手に目をやった。 が、何をする間もなくネロが身を捻り、男は空に円を描いて投げ飛ばされる。 散乱していた長椅子が男の尻を受け止めて、背後の他の椅子達を掃除しながら滑っていったが、 それが山になって勢いが消えると、何事もなかったかのように椅子に座って脚を組み、 片肘をその上に乗っけてこちらをニヤニヤと眺めやる男の姿がある。 「まだやるか?」 欠伸さえ漏らしそうな様子で背もたれに寄っかかると、 「来いよ、遊んでやる」 床に突いていた剣を持ち上げ、肩で息をするネロをちょいと指して見せた。 「タフだな……」 毒づきつつ男に背を向け、床に突き立っていた剣を抜いて、そいつでとんと肩を叩いたネロの目に剣呑な光が宿る。 「じゃあ―――」 言いかけて、みなまで言わずに出し抜けに振り向くや、傍らの長椅子を男に向かって蹴りつける。 無論そんなフェイントが通じる訳もない。 男はそれを踏み台にして、スプリットした椅子の山を尻目に高々と跳ね、 だが、そこには鏡合わせに跳躍したネロがいる。 空中で一合、着地してすたすた数歩を歩き、振り返った男は更ににやりと唇の端を吊り上げた。 新たに組みあがった椅子の山、その頂上に剣を担いで腰掛けて、危ういバランスを取りながらネロが言う。 「徹底的に叩くまでの事だ」 「そりゃ楽しみだ」 出来るものならやってみろ、そう言わんばかりに男は腕が広げ、 ネロは親指で鼻の頭を弾いて鼻を鳴らすと足元を蹴って飛び降りた。 雄叫びと共に、渾身の力で持って叩きつけられたネロの拳を、男は剣をかざして受け止めたが、 異形の腕が与えた力か、両腕で支えているにも関わらず、あっという間に押し負けて弾き飛ばされる。 吹き飛びながらもそちらへ顔を振り向けたのは見事としか言いようがないが、 相手を殴り飛ばすのと同時に人知を越えた速さでダッシュして追いついてきたネロが その足を引っつかんで引き寄せ、逆の手で剣を持った右手を捕まえた。 とっさに左手で顔をかばったけれど、庇い切れずに強烈なストレートを顔面に食らい、 巻き添えを食らった石の床が背中で粉々に砕ける。 跳ね飛んだ男の剣がきりきりと空を舞い、床に突き立った。 ネロはそのまま男の髪を掴んで馬乗りになり、狂犬のような連打をその顔に見舞わせる。 何の考えあってのことか、男はされるがまま相手の攻撃を受け続けたが、 投げ出された腕が衝撃に跳ねるつど、赤い稲妻を孕んで姿を変える。 それは形こそ違うものの、ネロと同じく人の姿をしていない……。 392 :DMC4:2008/03/09(日) 09 06 00 ID 2qo49zkV0 が、ネロはそれに気づかない。殴るだけ殴ると、その手で頭を掴んで床の上を引き回し、思い切りよくブン投げた。 スパーダ像に叩きつけられた相手が落下を始めるより早く、 追い討ちに投げつけられた男の剣がその胸板を突き通し、男は標本のように石像の上に縫いとめられる。 剣を投げつけた姿勢のままで喘ぎながら見守っているネロの耳に浅い溜息のような残鳴を残し、 男はがくりと首を垂れ、動かなくなった。 反動でぶらぶら揺れる死体の腕をしばらく睨みつけていたネロは、やがて上がった息を抑えつつ、 散々手こずらされた相手に忌々しげに背中を向けたが、やれやれと肩を回すのもものかは 「やるな……」 低く響いた声にぎくりとして背後を振り返ることとなった。 凝然と見守る瞳の前で、死んだはずの男がゆっくりと顔を上げる。 「ちょっとお前の力を―――」 囁くように言いながら肘で石像の壁を押し、「甘く見てた」押し出すように吐き捨てて、 自らを縫いとめた剣をそこから引き抜く。 戒めを解き、すとんと像の足元に着地した男に 「人間じゃない……」 ネロが低い声で呟くと、男は自嘲じみた息を漏らし、 「お互いサマだろ。お前も―――」 おもむろに胸から生えた愛剣を両の手で挟み、力をこめた。 「俺も―――」 像から脱出した時よりも大量の血がしぶいたが、痛がる素振りも見せずに更にぐい、ぐいと前に向かって力をかける。 そうしてとうとう引っこ抜いた剣の先でかつんと床を叩いた男は、 けれどやはり多少はダメージがあったのか、息を弾ませながら凄みを増した笑みを刷き、何故か周囲を見渡して…… 「―――こいつらも」 妙な言葉を口にした。 393 :DMC4:2008/03/09(日) 09 08 29 ID 2qo49zkV0 眉を寄せ、そちらにやったネロの視線が、とある聖堂騎士の死体の上に止まる。 転がった兜の脇に横たわる死体……その皮膚は黒く干からび、突き出した乱杭歯を持ち、 見開いた目は異様な光を宿していて……どう見ても人間には見えない。 「お前は少し違うみたいだがな」 投げかけられた声に慌てて振り向くがそこに男の姿はなく、 顔を上げ、ステンドグラスが割れた天窓の枠に腰掛けているのを発見する。 「何の事だ?」 イラつきも露に突きつけた指を 「そのうち分かるさ」 と、はぐらかし、足を振って反動をつけると男は立ち上がった。 「俺は……仕事があるんでね」 腰を軽く払って埃を落とし、去ろうとするのに 「おい!」叫んでネロは発砲するが、当然弾丸が跳ね上げた土埃の向こうに男は居ない ……と思いきや、ひょいと天窓の端っこから顔を覗かせる。 「アバヨ、坊や」 わざわざそれだけを言いに戻ってきたのか、最後まで舐めた態度で指を振ると、今度こそ男は姿を消した。 それと前後して、今更現れた応援の騎士たちがばたばたと聖堂に駆け込んでくる。 先刻の「人が来る前に―――」という言葉通り、それは彼だけの秘密なのだろう。 安否を問うつもりか、こちらに駆け寄ってきた騎士から庇う風にしてネロは右手を押さえ、 脳裏で男の言葉を反芻しているかのようにもう一度、誰もいない天窓を睨みつけるのだった。 394 :DMC4:2008/03/09(日) 09 11 58 ID 2qo49zkV0 あちこちに散らばる瓦礫、前面が削り取られ、価値のないがらくたと化したスパーダ像…… 廃墟同然になった聖堂を苦い顔で見回し、クレドが歩いていく。 教壇の紋章が刻まれた、彼女の身長ほどもある何かのケースを、 余程重いのだろう、うんうん言いつつ体全体を使い、キリエが一生懸命運んでいる。 歩み寄ってきたネロがその肩に手を置き、 「持ってきたのか」 荷物を受け取りながら優しく尋ねかけた。右手は肘まで捲り上げていたコートの袖を下ろし、目立たないようにしている。 「兄さんに頼まれたから……」 キリエのいらえにクレドはちらりと背後を見やるものの、結局振り返ることはせずに観察に専念している。 「助かるよ。これで仕事が楽になる」 左手一本でネロは勢い良くケースをひっくり返すと床に寝かせ、蓋を開いて何やらごそごそやりだした。 キリエは少しの間、それを見ていたが、ふと辺りを見渡し……何かを見つけたらしい、とある一角に向かって歩いていく。 床できらりと光るもの……踏み潰されるのをそのままに逃げざるを得なかった、あの青い小箱の中身だ。 眉をひそめて座り込み、両手に取ったそれが無傷のままだと気づいたキリエの頬にうれしげな笑みが浮かぶ。 珊瑚色の細長い石に絡んだ一対の金の羽、そしてその上にもう一対、広げた金の羽があしらわれたペンダントだ。 「フォルトゥナ城か……」 膝を突いて、ネロは「それ」を床に突き立てる。 「目撃者がいる」「殺人鬼が観光名所めぐりとはね」 応えたクレドに愉快そうに返し、グリップを捻って唸り声を上げさせた。 赤いグリップ、いばらの意匠が施された赤い増幅器。特別に強化されたネロだけの剣、「レッドクイーン」だ。 「真剣にやれ!」 掣肘する物がなくなって、当然クレドは怒鳴り声も荒々しくネロを叱りつけた。 しかし蛙の面に何とやら、ネロは剣を担いで得意げな目線を寄越すだけだったが、 「逃がすなよ」 クレドはそれを更に押さえつけるような低声で念を押す。 「分かってるさ」と、すくめたその肩に「無理をしないようにね」気遣わしげな声がかけられた。 「それが仕事なんだ」 やや厳しくした顔で振り返ったネロは、僅かな驚きと共に目を見張った。 はにかんで逸らし、でもその後にまっすぐ見上げてくるキリエの目。 その胸元には混乱の中に無くした筈だったあのペンダントが光っている。 それで彼の表情は和らいだが、すぐに取り繕うようにまじめくさった顔になり、 けれど幾分落とした声色で「非常事態だしな」と付け加えた。 それでも心配そうな様子のキリエの脇を、 「私は本部に戻る」 足早に通り過ぎながらそう言い置いたクレドの姿が出口へと消える前。 不気味な地鳴りが辺りに響き、思わず動きを止めた一同の上に、細かな砂が降ってきた。 聖堂を出たネロたちは助けを呼ぶ声に足を止めた。 クレドが剣を抜き、ネロはキリエを背後に庇う。 見守る三対の瞳の前に、噴水の影からフード姿の男がふらふらとよろめきながら姿を現した。 が、数歩も行かずに崩れ落ちる背後に悪魔が現れ、鎌の手を振り上げる。 それ以上見ていられず思わずネロの背に顔を埋めてしまうキリエ。 必死で手を伸ばすがその背に突き刺さった刃が容赦なく犠牲者を引き寄せ、 次の瞬間彼は死体となって無造作に放り投げられた。 それを皮切りに、とうに逃げ出していたはずの信者たちが悲鳴とともに 噴水の向こうから次々と、湧き出すように現れる。 彼らを追い立てるのは悪魔の群れ。 門の上から、通路の奥から、刃の腕を振るうたび次々と血煙が上がった。 「ヤツの仕業か」 「……そうかもしれん」 唸るかの如きネロの声に低く応じて、クレドが用心深く後ずさる。 しゃくりあげるように呑む息を背中に聴き、ちらりと振り返ってそこにつらそうに目を伏せるキリエを見とめたネロは 「クレド。キリエを頼む」 唇を引き結んで前に出た。 「ここは俺が」 背中に手をやり、レッドクイーンの剣柄を捻る。 赤く光り、震える剣を携えて、彼はだっとばかりに飛び出した。 たちまち何匹もの悪魔がその剣閃の下で無に還る。 住民は本部に避難させる、何かあればお前も、と逃げ惑う信者達を導きながらクレドが叫んだ。 兄に促され、キリエもまた信者を連れてその場を離れようとしたが、 広場を埋めたむくろの中に立ちすくみ、泣きじゃくる子供を見て足を止める。 彼女とほぼ時を同じくして無力な獲物に目を留める悪魔達。 ためらいは無かった。彼女は駆け出し、生ける盾となって飛びかかる刃の下に身をさらす。 少年を抱きしめ、硬く目を閉じた彼女の上にしかし悪魔達の攻撃が届くことは無かった。 「行け!早く!」 一陣の剣風だけで敵を吹き飛ばしたネロが、叱責するような厳しい声をキリエの背に投げる。 その声に背を押され、少年を庇いつつ小走りに駆けて行くキリエを、 ネロは僅かに微笑んで見送っていたが、くるりと悪魔達を振り返るとその笑みは、まったく違うものへと質を変えた。 「焦るなよ……」 不敵に笑いながら呟いて、コートの袖をまくり上げ、隠されていた右腕をあらわにする。 戦いのゴングとばかり、手始めに彼の背後にいた悪魔が魔の右腕に引っつかまれ、 そのままぐるんぐるんと振り回されて、軌線上の敵を巻き込んで吹っ飛ばしたすえに門の要石に叩きつけられた。 きょとんと見上げる悪魔の上に崩れた石材がなだれを打って落ちかかり、逃げ去った人間達の元へ続く道を塞ぐ。 地面に叩きつけられる一匹の悪魔、その衝撃で別の二匹までがもろともに天高く舞った。 彼らが地上に落ちる前、背中の剣を抜いたネロはそれに地面で火花を上げさせ、次いで凶悪な螺旋を描いて振りいた。 一匹、二匹は両断されたが三匹目からは刃に引っかかり、しかしまったく構いつけずになおも数匹を巻き込んで、 レッドクイーンのスロットルを捻る。 高まる力のままに輝きを増し、刃は巻き込んだ全ての悪魔をひき潰して奔馬のようにいなないた。 コートの裾を翻して滑走したネロは、その勢いを止める事無く大剣を振るい続けた。 敵を突き刺し、アクセルを開く。 獲物を断ち割りしな石畳を穿って赤い満月を描いた剣、それを担いだネロの頭上を 飛びかかった悪魔の影が覆ったが、彼は入れ違いに飛び上がって斬激を避けると、 背後の別の一匹の上に着地して、その背中を貫き通しざまに再びスロットルを捻った。 行き場を探して荒れ狂う剣の力が推進力となり、悪魔をボードにしたスケーターは その仲間を猛烈な勢いで撥ねつつ土煙を上げて滑り出す。 噴水広場を通り抜けると靴底でブレーキを掛け、スピンした勢いを借りてそこに居た敵を引き抜いた剣で打ち上げる。 二匹の悪魔にブチ当たられた衝撃で、上がっていた格子が落ちてその下に居た間抜けな一匹を押し潰し、 残ったもう一つの道も塞がれた。 背に剣を担ぎ、掲げた悪魔の右腕を開いて閉じて、ネロは低く鼻を鳴らす。 「お仕置きの時間だ」 「アレから悪魔が湧いてるのか」 呟く視線の先にはちょっとしたビルほどもある奇妙な石の板、 廃棄された採石場の奥に屹立するそれを眺めていたネロを、その時不気味な地鳴りが襲う。 震源は……目前の崖上にそびえ立つ、巨大な石版。 その表面にぽつぽつと朱に輝く光がともった。見守るうちに光点はその数を増し、光同士がじわじわと繋がる。 光はその内部に生じた熱によるもの、恐らく只の石ではあるまい、 その石版の表面をふつふつと、辺りの空気が歪むほどに焼き溶かし……次の瞬間噴出した爆炎とともに 馬鹿でかい何かが飛び出して、放置され、廃墟となった飯場の真ん中で地響きを立てた。 竜に似た四足獣の下半身に獣人の上半身をくっつけたバケモノが一つ雄叫びを上げただけで、 周囲に熱風が走り、かつて作業員達の宿舎だった物だろうか、立ち並んだ空き家が次々と火を吹き、燃え上がった。 「久しぶりの人間界よ……」 ごろごろとした声で言いながら化物はこちらへ向かってのしのしと歩みを進めたが、 立ち上る熱気に鼻先をはたはた仰いでいたネロもまた、迫る巨体に向かって恐れ気もなく歩き始める。 そのまま両者はお互いの事を気にかける様子もなく歩み続け……すれ違った。 直後、ネロが愛剣を抜いてかつんと地面に打ち付けるや、刃を寝かせて横薙ぎに払い抜く。 途端一陣の飄風が生じ、瞬く間に炎を吹き散らした。 「面白い真似をする」 歩みを止めた化物が、暫くの間をおいてゆっくりと振り向く。 「熱いのは苦手なもんでね」 しれっとして答えたネロに向かい、地面を鳴らして歩み寄りつつ 「二千年前の人間界には―――貴様のような者はおらなんだ」 化物は感嘆したらしき声を投げたが 「長生きな爺さんだ」 続いて返った恐れを知らぬ減らず口に激高し、 「黙れ!」 と喚くが速いか、灼熱に輝くその剣をネロめがけて突き降ろした。 ……が、生意気な虫けらを両断しようとしたその刺突は、ネロの剣の切っ先によって食い止められ、微動だにしない。 どころか次の瞬間、ぐらぐらと煮え立つ剣は弾き返され、化物は大きく腕を泳がせることとなった。 怒りのためか、屈辱か。 「思い知れ!このべリアルの力!我こそは炎獄の覇者ぞ!」 薄く笑って剣を収めたネロに向かい、化物が割鐘の響くような雄たけびで名乗りを上げると、 その背にまとった炎が翼のように一際激しく吹き上がった。 弾き飛ばされ、地面を削って着地したべリアルが驚きの声を上げる。 「その腕!人間ではないのか!」 「俺に聞くな。こっちも迷惑してんだ」 掲げた腕を返し返しに眺めつつ、勝者にしては苦い声でネロがぼやいた。 「ヤツ以外にもこのような者が……」 それにも増して苦い声で唸るべリアルに 「誰の事だ?」 ネロは腕から目を上げ尋ねたが、相手は答えず、 「力を蓄えねばならぬ!」 一声叫ぶとダメージのためか薄暗く明度を落としていた全身の炎を再び燃え立たせ、 次の瞬間には火炎の竜巻と化して舞い上がった。 殺到する熱気に咄嗟に顔を覆ったネロがハッとして振り向き「おい!」と声をかけたが、 「炎獄の覇者」は崖の上のバカでかいモノリスに激突するように吸い込まれ、 現れたときと同じく唐突に逃げ去ってしまった。 残されたネロは忌々しげに息をつくと、飯場が残らず崩れ落ち、 燃え残った熾火がちらちらと瞬くのみの荒地と化した周囲を見渡すのだった。 廃坑を抜けると岩だらけの山道には横殴りの雪が吹き付けていた。 白く染まった道を抜ける頃には雪は小降りになり、満月の下、天を突く巨城の威容がネロを迎える。 崖にかかった巨大な橋を渡りかけたその時、つんざくような叫びがネロの耳を打ち、城壁の上から何かが飛び出してきた。一瞬でブルーローズを取り出し、ぴたりと狙いをつけたネロはしかし、「……あん?」怪訝そうな唸りとともに首をかしげて銃口を上げる。 宙に舞っているのは「スケアクロウ」、道化に似た低級の悪魔。 だがその腰をがっちりと足で挟み込み、共に天高く飛ぶ人影がある。 大鳥のように優雅に腕を広げた姿ともあいまって、それはまるでペアのバレエダンサーのようだった。 が、人影は直ぐにくるりと身を丸め、両者はくるくると回転しながら地上に向かってまっしぐらに落ちてくる。 垂直落下に移った所で人影が悪魔の両手両足を逆様に固め、雪煙を跳ね上げて橋上の鉄格子に叩きつけた。 煙の幕が晴れた向こうに見えたのは、浅黒い肌をもつエキゾチックな風貌の美女である。 その周囲に次々と、何匹もの魔族が降ってくるが、彼女はいまだ扇情的な体勢で悪魔の上に馬乗りになったままだ。 と、正面の奴がその腕についた刃を振りかぶるや、美女はベンチ代わりにしていた悪魔を盾にかえ、 ふわりと背後に飛び上がる。 仲間の手にかかった哀れな悪魔を置き去りに、バック宙を繰り返しながら 次々と振り下ろされる無数の刃をいともやすやすと避けていき、最後に逆立ちのまま大開脚をして (超ミニスカに超スリットが入ったエロエロコスチュームなのだが、 素晴らしく都合よく伸びるミラクル布地のおかげで股間は見えない) 股の上に振り下ろされた凶刃をハイヒールではっしと白刃取りし、捻り倒すと 太腿まであるロングブーツの中から両刃の短刀を引き抜いて突き刺し、跳ね上がり、蹴り倒し、 悪魔達を次々と切り裂いていく。 レースのついたスリットのドアップ&下着がチラ見える色っぽいドロップキックをぶちかました背後で エモノを振りかぶった敵に気付いた美女は、すかさず片足を前に残したまま後ろ蹴りを放ったが、 二匹の悪魔の間に長い足で橋をかけた彼女に向かって悪魔の群れが一斉に飛び掛った。 しかし美女はあらあら、とでも言うような低い声を漏らしただけで、 次の瞬間には風車のように回転する両足が宙に浮いた敵たちを一匹残らずなぎ払っていた。 一匹を足蹴に、もう一匹に踵落としを見舞いつつ地上に降りた所に柳腰を両断するかのような横薙ぎの一撃、 けれども彼女はハスキーな笑い声さえ上げながら仰向けに反り返り、その鼻先を通り過ぎる刃は 大きく開いた白い教団服の襟元から覗く豊かな胸を魅力的に揺らしはしても傷一つさえつけることなく、 銀のボブヘアには一筋の乱れさえない。 武器を振り切った相手が向き直るより早く、美女は右手の短刀を背中越しに投げ上げて左手に持ち替え、 無防備な胴体に剣閃の往復を受けた悪魔はずだ袋でできた体中のあちこちから黒い霧を噴出して爆散した。 最後の一匹の喉首を切り裂いた姿勢を保ったまま、薄く笑う美女の背後に影が飛ぶ。 見逃していた「本当の最後の一匹」、だが彼女がそちらに顔を振り向けたまま何をするまでもなく、 雄叫びは銃声とともに即座に悲鳴に変わり、悪魔は汚らしい液体をブチまけて消え去った。 美女がゆっくりと姿勢を起こす。 視線の向こうでは薄い白煙を上げるブルーローズを掲げ、ネロがかすかに唇を歪めている。 けれどその暗い笑みは向き直った美女の「ありがとう」という声を受けるとたちまちの内になりを潜めた。 銃を持ったままの左手で鼻先をこすり、 モデルのように腰をくねらせる蠱惑的な足取りで歩み寄ってくる彼女に胡乱げな目を投げる。 「見ない顔だな。教団の人間か?」 「新入りなの。グロリアよ」 美女は言って腕を差し出し、ウインクしたが勿論ネロがその手を愛想よく握るなんて事はなく、 彼は無言のままふいっ、と顔を背けてしまった。 けれど彼女は特に気分を害した様子も無く、 「貴方はネロね。噂どおり」 どころか寧ろ面白がっている風に背けた顔を覗き込むように回り込んだ。 「悪い噂だろ」 と、ネロがそれに更にそっぽを向くと、「扱いにくい はみだし者 」 またまたその先に回りこむ。 「それで?悪魔はどこから?」 イライラとなおも背を向けたネロが話を逸らすつもりかそう尋ねると、 「さあ……殺してもキリがないのは確かね」 きりり、きりりとかすかな音を立てながら片手の先で弄んでいたナイフを畳み、グロリアはひょいとしゃがみこんだ。 気配に振り返ったネロが見下ろすと、わざとのように足を大きく開いてブーツの中に武器をしまい、 股の付け根をするりと撫でる彼女の指の、妙にしなやかな動きが眼に入る。 今度は決まり悪そうに目を逸らしたネロに艶然と微笑んでグロリアは立ち上がった。 「調査は任せるよ。俺は別任務だから」 言って歩き出したネロに「私は他の場所に援護に行くの」 そう返し、どういうつもりかグロリアは彼の背中をじっと見たまましゃなりしゃなりと後ずさっていった。 そうして何気ないしぐさでひょいと足を振りあげ、振り下ろす。 再び動き出そうとしていた悪魔が無慈悲に踏みにじるヒールの下でびくりともがき、断末魔代わりの黒い息を吐き出した。 「貴方に神のご加護を」 そうしてしなを作るようにして笑うと、グロリアは橋の向こうに去っていく。 首だけ振り向けてそれを見ていたネロは白い息とともに皮肉な呟きを吐き捨てた。 「 神 だとさ……」 壁一面に書架が並んだ図書室。 机の上ばかりか手すりの上にまで棚から取り出された本が積み上げられ、溢れた何冊かが床の上に散乱している。 「殺人犯がお勉強か……?」 銃の筒先でページを捲りつつひとりごちていたネロは、背後の気配に険しい顔で素早く銃口を振り向けたが、 予想に違い、そこに居たのは教団員だろうか、白い鎧を纏った騎士だった。 「危うく撃つところだ」 銃を携帯している人間の背後に無言で立つという、うかつな行動に厳しい声を投げたものの、 相手は答えず、ただ何かを窺うようなしぐさを見せた。 兜の奥の視線から異形の右腕を隠し、銃をしまって彼に背を向けたネロは気付かない。 「悪魔どもを追ってきたのか?」 その質問に答えるかのように相手がバイザーの上にしるされた紋章の上に無機質な緑光を瞬かせたのを。 「無口だな」 いまだ口を開かぬ相手がゆっくりと歩み寄ってくるのを肩越しに見やり 「……嫌いなタイプだ」 誰だかにむけて毒づくと、ネロは再び(今度はちゃんと手を使って)書物のページを捲りだす。 その背中に向けて、白い騎士は静かに槍を掲げると、ばねが弾けるように突き刺した。 「冗談だろ?」 ランプの光を受けて鈍く輝く穂先を本の間に挟みこみ、ネロは騎士を睨みつけたが あいにくと相手は冗談で済ます気はないらしく、続く攻撃から身を躱す間に地球儀が弾け、 書籍を満載した机が真っ二つになる。 「本気でヤる気か?来いよ!」 雑すぎる紙吹雪を浴びながらネロは抜き放ったレッドクイーンを唸らせる。 羽根のように紙切れを撒き散らして白騎士は槍を取り回し、緑の「瞳」を輝かせた。 槍を取り落とし、崩れ落ちた鎧の頭部から兜が外れて転がっていく。 爪先にぶつかって止まったそれにしゃがみこみ、ネロは騎士の「死体」に目を向けた。 「空っぽ、か……」 呟くや、無数の光がその内部から飛び出して、鎧ごと跡形も無く消え去った。 掴んだ兜に目を落とすとこれもまた白光の粒子を残して無に変わる。 「……鎧が取り憑かれた?」 手を払って立ち上がり、ネロは低く溜息をついた。 「嫌な予感がする……」 フォルトゥナ城の中庭は奔流のような猛吹雪に包まれていた。 温暖だった街中の様子からするとかなり異様だが、それにも増して異様な光景が目の前で繰り広げられていた。 紫の光を割れ目から漏らす巨大な石の板が鎮座した大荒れの雪舞台、 その上を淫猥な笑みを響かせながらふわりふわりと宙に舞うのは二人の乙女。 燐光を放つ裸身を絡ませてはこちらに向かって手招きを繰り返していた。 「吹雪は奴らのせいか……」 けれども呟いたネロの目に惑わされた様子はこれっぽっちもない。 が、「二匹の女怪」に彼が飛び掛って幾らもしないうち。 吹雪に濁る闇の中から異様な重量を持った「何か」が飛び出してきて、バックリ開いた大口の中にネロを飲み込もうとする。 「それが本体かよ……」 大きく飛びさがって丸呑みを逃れたネロが苦笑して突きつける指の先で、 「クソッタレがッ!殺し損なうとはのう!」 ずらりと鋭い牙の並んだ口をぱくぱくさせつつ白い化物が赤く光る目を細めた。 背中にしょった氷塊の中からは長い触角が二本突き出ていて、 その先端には女が二人……いや、女の姿をした疑似餌が二つ、くっついている。 「まいったな……カエルは苦手だ」 辟易とした声を上げたネロに 「ボケがッ!誰がカエルじゃと!?」 サイズは兎も角、姿はどう見ても少々ファンタジーがかったヒキガエルにしか見えない化物……バエルが怒鳴りつけると、 吹き付ける風と一緒におぞましい色をした粘液が大口の中から飛び出して、 「早く片付けないと気分悪いな……」 珍しく弱りきった表情でネロは体のあちこちにへばりついた汚れをはたき落とした。 それに更に怒ったバエルは 「ブチ殺してやる、小僧ッ!」 喉の袋をいっぱいに膨らまして以前に倍する大声でわめき、ネロは耳を塞いでよろめいた。 前にも増して大量の粘液がばら撒かれ、吹雪が異様な色になる。 うんざりと唸ってネロは小さく首を振った。 吹っ飛ばされたバエルが、最後の力か飛ばしてきた触角をネロががっちりと掴み取る。 背負うようにして投げつけるとバエルは吊り上げられて半円を描き、反対側の地面に叩きつけられた。 そのまま雄叫びも荒々しくぐるんぐるんと振り回している途中で音を立てて触角が千切れ、 仰向けのままバエルは地面の上を滑っていった。 足首を掴まれた「女」が光になって右手に吸い込まれるのを眺めているネロに 未練がましくバエルが呪詛の言葉を投げる。 「こんなガキに……クソッ!畜生!勝ったと思って……」「思っちゃ悪いかよ」 光を残した右手を握り締め、ネロはひっくりかえったバエルを睨みつけた。 「オレの兄弟たちがカタキを……」 皆まで言わせず、ネロが宙へと飛び上がる。 悪魔の右腕が巨大なオーラの影を引いてバエルの眉間を殴りつけ、 バカでかいカエルはぎゅるぎゅると回転しながら再度ブッ飛ばされて壁にぶつかり、 雪煙を巻き上げて地面に落ちると動かなくなった。 「やれやれ、バッチィな……」 嫌悪の色も露に思いっきりバタバタと手を振っていたネロの動きがふと止まる。 「待てよ。 兄弟 だって?」 不吉な予感に目をやった先には無数の足音。 モノリスに浮かんだ光の中、何匹もの「兄弟達」が紫色に輝く通路を列をなしてやってくるのが見えた。 「マジかよ……カエルはもうたくさんだ!」 叫ぶやネロは、脱兎の勢いで駆け出した。 だらしなくたるんだバエルの腹をトランポリン代わりに飛び上がり、 今まさに 扉 の縁に足をかけようとしていた奴の鼻っ柱に一撃を叩き込む。 キューで突かれたビリヤードの玉さながらに連鎖してブッ飛ぶのを尻目に台座の脇に着地すると、 しつらえられた紋章の上に手をかざした。 スイッチが作動し、石版に灯る光が消える。 「悪いね、閉店だ」 悠然と言ってネロは片眉を上げた。 城の大広間、シャンデリアの上。 壁にかかった教皇の肖像画を見ていたネロはにやりと唇の端を吊り上げる。 次の瞬間、背中の大剣を抜き放って吊り具を一刀両断、補助の鎖だけになったシャンデリアは 絵姿に向かって振り子のように落ちかかり、壁を壊して絵の教皇を引き裂いた。 不信心者の罰当たりな行動は結果として彼に活路を開くこととなる。 絵の裏側には隠された道があり、そこには今までとがらりと雰囲気を変えた工場然とした施設が広がっていたのである。 王侯貴族のそれにも似た、豪奢な調度に囲まれた薄暗い部屋、その中央。 石の天蓋の下の石造りの祭壇……医療用のベッドのように枕の部分が斜めに高くなっているそこに、 教皇の死体が横たえられている。 クレドはその脇に立って無言で首を垂れているが、何故か先刻見せていた悲嘆と狼狽の色はまるでない。 あたかも何かを待っているかのような……と、「それ」は突然やってきた。死体の目がかっとばかりに開かれる。 漆黒の中に炯炯と光る赤い瞳孔、びくりと一つ大きく身体を跳ねさせたのを皮切りに、死体はびくびくともがき始めた。 歯を噛み鳴らし、首を振り、寝台をかきむしる。 クレドはハッとして顔を上げ、固唾を呑んで見守ってはいるものの、 やはり待っていたのはこれなのか、驚いた様子はなかった。 苦悶の末にひとつ雄叫びを上げるような吐息をついて、死体だったはずの教皇は寝台の上に脱力した身体を横たえた。 暫しの後、開いた目からは異様な光は消え去っていて、頬に浮かんでいた赤黒い血管も見えなくなっている。 「お目覚めで」 かけられた静かな声に 「クレドか……」 低い声で教皇が応じた。 「ダンテに関しては―――現在、私の部下が追跡中です」 「奴め…… 帰天 しておらねば命を落としておったわ」 口調だけを聞けばただの弱々しげな老人とそれを気遣う忠実な部下の会話。 だが内容からすればとてもそうとは思えないその会話に背後から割って入るものがあった。 「……教皇様!これはご機嫌うるわしく……」 クリップボードに止められた書類になにやら書き込みながら近づいてきた片眼鏡の男は、 老人の「目覚め」に気付くと恭しげに言いつつ寝台の脇に立とうとしたが、 それをクレドに肩で押しとめられて、厚い唇をひん曲げた。 「ネロとかいう小僧の件だが……」 筋肉質なガタイの癖に背を丸めた歩き方で枕元の方に回り込もうとするのを、 さり気なくクレドが更に妨げて寝台の上に手を置き 「何か問題でも?」 にこりともせずに尋ねるので 「馬鹿が!私の研究施設を、み、み―――み、見られたらどうする気だ!」 激した男はどもりながら喚き散らした。 「最優先はダンテの捕縛だ」 返すクレドは男の方を殆ど見もしない。 「貴様は、こ、こ、こ……!」「クレド」 なおも喚こうとした男の言葉を教皇が遮り 「なんなりと」クレドは即座にそれに応じた。 完全に両者に蔑ろにされた形だが、男は口を噤むしかない。 「皆を集めてくれ。安心させてやらねばなるまい」「御意」 一礼してクレドが身を翻す。 教皇の配下二人は非友好的な視線を交し合った後、一方は不愉快そうに襟元を寛げながら大股に部屋を出て行き、 もう一方は歯を剥き出してそれを見送ると何事か手元の紙に書き付けた。 「城の中」にしては奇妙な部屋にネロは足を踏み入れていた。 円周を描く壁の一面にはガラス窓があるが、それ以外は 床の中心に設えられたジェネレーターらしきものを中心にした、一つの装置のようだ。 辺りを見回しながら中ほどまで歩を進めたネロの腕が、急にその光を増す。 視線を上げるとガラスの向こうに続きの部屋があり、しゅうしゅうと蒸気を噴き出す設備が居並ぶ中に、 更におかしな物がある……青い光の中に浮かんだ、折れた日本刀。 どういう訳か、この腕はあの刀に反応しているようだった。 刀を睨み、光る右手を握り締めたネロの目に、ガラスの向こうの人影が映った。 「おや……来てしまったか。予測が当たったな」 「あんたは?」 スピーカー越しに語りかけてくるのに鼻を鳴らして問いを投げると、 姿勢の悪い巨漢はひとまとめにした長髪を揺らして慇懃に腰を折った。 「私の名はアグナス。仕事柄、人にはし、し、し―――知られていないがね」 けれどもネロがふてぶてしい態度でぶらぶらと歩きつつ 「教団の人間が、こんな場所で何してる?」 尋ねた途端、 「 こんな場所 ?口を慎め!」 アグナスは紳士の仮面をかなぐり捨てて指を突きつけた。 例によって例のごとく、それを受けたネロは彼の豹変をただ鼻で笑っただけだったが。 いかにも神経質そうな足取りでいらいらと歩き回りつつ、アグナスは手にしたクリップボードにペンを走らせた。 「噂通り……ナマイキな小僧だ。やはり、し、し、死んでもらうか」 その言葉尻を取って「ナマイキ」そのものの仕草でネロが顎を突き出す。 「どういう理屈だ?生意気だと、し、し、死刑?」 口真似に低く鼻を鳴らしてアグナスはペンを持った手をちょいと振った。 するとたちまち「装置」が稼動を開始する。 壁にあいたスリットが音を立て、剣の翼をもった化物を次々と吐き出し始めたのだ。 「驚いた」低く囁いて部屋中を飛び交う魔物に目を配り、ネロは背中の剣に手をやった。「悪魔とはね」 「恨むならクレドを恨め。貴様にダンテのツ、追跡を、命じた奴が悪いのだ」 「ダンテ?あの男の事か?」 のべつ幕なしに滑空しては切りかかって来る悪魔達を身を屈め、反らし、跳ね避けては弾き返して、 ぶつぶつと呟き続けるアグナスに唸り声を上げ、 「この場所は何だ?」 ネロは刀でぐるりを指したが 「答える必要はない。お前はここで、し、し―――死ぬのだ」 アグナスはいかつい顔にいやらしい笑みを浮かべてまた何やら書き付けている。 「死ぬかよ……!」 ネロは吐き捨て、鼻の先をこすって顎を反らした。 ガラスが砕かれ、アグナスが無様に床を転がる。 「ソ、ソ、ソレは悪魔の力!どうして!?」 レッドクイーンを肩にずかずかと近づいてくるネロから尻餅をついたまま必死で後ずさったが、 ようやく立ち上がった鼻先に剣を突きつけられて悲鳴を上げる。 「お互い様だろ?答えろ。ここで何をしてる」 しかし、ごくりと唾を呑んだ後、 「スバラシイ……!」 彼は恍惚と呟いた。 言われてつい自分の右手を見下ろしたネロが視線も戻さぬうちに 「サイコーだ!」 目玉を貼り付けるような中腰でさかさか擦り寄られて思わずずざっと飛びのく。 「人の話を聞けよ!」 横殴りにした刀身を小指を立てた両手で挟み取り 「知りたいなら―――教えてあげよう」 相手が引っぺがそうとしているのにびくともさせぬままでアグナスは早口に囁いた。 彼はぱっとすぐに手を放したけれど、 「数年前から私は悪魔を研究中だ」 ネロはなおも数歩を後ずさり、しつこく付いてくる彼から右腕を隠すように半身立ちになってその目の前に剣をつきたて、 それでようやくアグナスは足を止めた。 辟易とした様子のネロにアグナスは嬉々として語り続ける。 「悪魔の力を我らが物とし―――世界を楽園へと変えるために。教皇から直々に命じられてね」 「バカげてる。その教皇も死んで台無しだしな」 再度剣を突きつけてネロはアグナスをさがらせつつそう断じたが、彼は両の人差し指を立ててうっとりと首を振った。 「ああ……。教皇なら 天使 となり、復活されたよ」「 天使 ?」 唐突に出てきた馬鹿げた単語に低く笑い声を漏らすネロ。 「そしてモチロン……この私も 天使 だ」 それにアグナスは三流役者さながらの芝居がかった礼をとり、顔を上げた。 彼もまた笑っている……先ほどまでとは違う、妙な笑みだ。 眉を寄せたネロが振り向いたが、遅かった。 宙を駆けてきた悪魔……図書室に現れた白い騎士に串刺しにされ、 つい数時間前の因果応報の如く壁に縫いとめられてしまう。 槍は直ぐに抜かれたが、地面に落ちるいとまさえ許されず津波のように他の二体が押し寄せた。 「これは研究成果のひとつでね」 両手を槍で戒められ、ぐったりと頭を垂れるネロに向かって得意げなアグナスが 背後に浮かぶ羽根を持った騎士たちを見上げ、語りかける。 「見たまえ!この白く輝く美しい鎧を!どれほどの苦労があった事か。 ただ一つの鎧を動かすため―――無数の悪魔を捕らえ続けた。魔界から悪魔を召喚してね」 「 召喚 ?あの門はお前が……」 大げさな身振り手振りを交えて独演会を繰り広げているアグナスに、荒い息の下からネロが怒りに震える声を叩きつける。 「イエス!地獄門だ!オリジナルを元に私が設計した。出力には強力な魔具を使用―――動作良好だ」 アグナスは我が意を得たりとばかり鼻高々に頷いたけれど、 「分かるように喋れ……」 ネロは力なく呟いて首を振るだけだ。 語り甲斐のない聴衆にアグナスは歯を剥いたが、笑み交じりの息を漏らし、手を伸ばす。 無言の下知に答え、即座に先の鳥型の悪魔が滑るように空を飛んできて、一振りの剣に姿を変えると彼の手の中に納まった。 「ゆっくりと眠りたまえ」 一度貫かれた腹をもう一度深々と突き刺され、ネロは激痛に大きく跳ねて喉を逆流してきた血を吐き出した。 「私の次の研究材料は君に決めた。入念に調べるとしよう。特にその腕をね」 待ちきれないように指をわきわきさせながら告げたマッドサイエンティストそのものの台詞を わざわざ顔を上げて小さく笑ってから、「断る」ネロは口の中の血を相手の顔に吐きかけた。 その行為は当然の報復を誘い、アグナスは剣が刺さったままのネロの腹に殊更にその切っ先を捻り込んでから引っこ抜き、 「ツ、ツ、ツ―――連れて行け……!」 逆上の証左であるかのような声色で一語一語区切りながら命令を投げる。 視界一杯に迫ってくる白騎士たちの姿を最後に、ネロの意識は闇に落ちた。 ブラックアウトした世界の中で、叫び声が響いている。 逃げろと叫ぶ、彼の声。キリエの悲鳴は彼の名を呼んでいる。彼もまたキリエの名を叫んでいた。 喉が裂けそうな絶叫。それなのに、耳の奥底では鼓動の音が妙にゆっくり脈打っているのだった。 見開いた彼の目は真紅に染まっていた。 沸き起こる力の波動が地鳴りを起こし、右腕の光は全身を覆って噴き出して、 その源泉たる掌は眩いほどに輝きを増している。 弱弱しく浅かった呼吸は、手負いの獣のように荒く、激しい物に変わり、 それに呼応するように固定装置の光の中に浮き上がった刀が勝手に動き始めていた。 掌を大きく開いて上向かせる。 殺到する騎士たちはいまだ彼の元に辿り着いていない。 あの記憶は、瞬き一つの間しかない、文字通りほんの一瞬のものだったのだ。 二つに折れた刀が繋がるや否や回転しながらひとりでに飛んできて、開いた手の中に納まった。 次の一息で烈風が弾け、三体の騎士が吹き飛んだ。 纏めて飛ばされたアグナスは隣室の天井に激突したが、 地面に落ちてきた姿は既に語ったとおり人間ではなかった……ならば「天使」か、と言えばそれもまた素直に頷きかねるものである。 片方だけが赤い複眼、天使の輪……のように見えなくもない、金色の触角。 何に最も近いかと言ってしまえば人型をした蛾の化物だ。 一瞬にして砕け散った騎士たちの羽吹雪、ひらひらと舞い落ちるその向こうによろめきながら立ち尽くす人影がある。 魔の右手に携えた刀、紫の陽炎に包まれたそれを見て、もとアグナスの化物がくぐもった声を震わせた。 「なぜ……私にも修復できなかったのに!」 「あの日から俺の腕はこうなった」 悲鳴じみた疑問を構いつけもしない荒い息は異形の響きを帯びている。 「魂が叫ぶ。力を……! もっと力を……!」 背中には噴き出した魔の気が形作ったものだろうか、青く輝く光が、捻じ曲がった角を持つ異様な影を落としている。 「ナニ!?」 「悪魔に魂を売ったっていい。どうなろうと」 紅蓮の色に光る両目は果たして目の前の敵をはっきり捕らえているのかどうか。 「キリエを守れるなら……!」 兎も角酔漢じみたふらついた動作で下から上に振りぬいた剣閃はしかしとてつもない衝撃波を生み、 生み出されたかまいたちはアグナスの側を掠め、壁にぶつかるといきなり跳ね上がって天井に大穴を明けた。 炯炯と目を輝かせた彼と、炎に縁取られた天井の大穴と。 元アグナス……アンジェロアグナスはおたおたと見比べていたが、やがて 「あり得ない事だ……! アリエナイッ!」 喚くや、背中の甲羅?から甲虫じみた四枚羽を引き出して、大穴の向こうに飛び去っていった。 その様子を彼は荒い呼吸のままじっと見つめていたが、やがてかすかに咳き込むと俯き、目を閉じた。 異色のオーラを放っていた日本刀がそれで右手の中に吸い込まれ、背中の異形が消え去った。 途端スイッチが切れたように彼は膝から崩れ落ち、地面にがくりとへたり込む。 じんわりと残っていた両目の赤光も消え、それでも放心したようになっていたネロは、 次の一呼吸でハッとして、散々に切り裂かれた筈の傷口に手をやった……が、何も変わった様子はない……最初からそんなものは無かったかのように、切り裂かれる前と何も変わっていない。 胸元に押し当てた左手を凝視して息を呑み、輝く右腕をまじまじと見て、ネロは軽く膝小僧を打って笑い出した。 低い笑いはしかし直ぐに消え、唸り声にも似た溜息に変わる。 「本部に戻るか……アグナスの話―――クレドも知ってるはずだ」 まだバランスが危うい感じでゆっくりと立ち上がり、 激闘の余韻が色濃いかすかに割れた声でネロは押し出すように一人ごちた。 フォルトゥナ城の裏手にかかる機械仕掛けの巨大な橋、滝をせき止めることで姿を現すそれを渡り、滝の中の洞窟を抜けたときには夜が明けていた。 「森か……」 落ちる木漏れ日を浴び、響き渡る鳥の声を聞きながら歩みを進めたネロは、 崖の上から眼下の光景を見下ろす。そこに広がる緑は山一つ越えてきたというだけでは説明できない 異様さを持っていた。 「なんだこりゃ?」 それを代弁するかのような溜息交じりの呆れ声を耳にして、ネロは腰に手をやりつつ 慌てて後ろを振り向いた。けれど照星の先には風に揺れる草木があるばかり、 その更に背後で芝居がかった仕草で肩を竦める人影がある。 「“門”の影響か……」 相変わらず気配をつかませない、赤いコートの男は向けられた銃口にもやはりそ知らぬ顔で 一面の大森林を眺めやって鼻を鳴らした。 男の言葉通り、鬱蒼と茂る木々は中緯度地域のものではない。 ヤシやソテツのような、熱帯特有の植物だ。 「悪いな、後で遊んでやるよ」 くるりとネロを振り返り、片手を広げてそう言うと、男はトンと地を蹴った。 その背を受け止めるものは吹き上げる谷風以外何もないというのに、 心地よさげにさえしながら空に大の字になり、赤いコートをはためかせて小石のように落ちていく。 「何が目的だ……」 それでも崖っぷちに駆け寄って銃を向けたがやがて諦め、武器を腰に収めて低く呟いたネロもまた、 「迷いの森」へと足を踏み入れた。 「なぜ教えなかった!」 教皇への状況報告を終えて円卓の一隅に腰を下ろしたクレドを、 ずかずかと入室してきたアグナスが鼻息荒く問い詰める。 教皇の前である事をたしなめられても、その勢いは止まらない。何せ…… 「あの小僧は、あ、あ―――悪魔だぞ!」 それを馬鹿な、とあっさり切って捨てるクレド。 「知らぬフリか?貴様の部下だ!」 さりげなく逸らした視線の先に回り込まれ、クレドの眉間のシワがいつにも増して深くなる。 「閻魔刀を復活させた!貴様の!貴様の責任だぞ!こ、こ、この……!」「クレド」 片眼鏡の鎖を跳ね上げて尚も言い募ろうとしたアグナスを静かな声がさえぎった。 「何なりと」即座に背筋を伸ばして向き直ったクレドと対照的に、アグナスがおたおたと彼と教皇を結ぶ線上から身を引く。 「その小僧を捕らえよ」 人差し指を軽く立て、向けられた下知に「お望みならば」忠実な騎士は従うかと見えたが、 忠実とは言いがたいが部下であり、そして家族とも言える青年の身柄を差しだす事に 或いは逡巡があったのかも知れない。 「しかしダンテが……」「ダンテは、私が」 珍しく言い訳めいた事を口にした彼の言葉尻を肉感的な声がせき止める。 「頼まれてくれるか?」 「喜んで」 わざとのように豊かな胸を見せ付ける前屈みの姿勢で座っていた椅子から立ち上がったグロリアは 数歩進んだ所でこちらを振り返ると、「ご息災で何よりですわ」優雅な一礼をよこし、歩み去っていった。 「よろしいので?」クレドが尋ねると穏やかに教皇は応える。 「あの女が魔剣をもたらし―――神の完成に貢献したのは事実」 しかしそれでもクレドは懸念が晴れない様子だ。 その通り、円柱の影では彼曰くの「得体の知れぬ女」がいまだ彼らの様子を窺っていたが、 やがて立ち聞きをしていたにしては大胆な足取りでその場を立ち去った。 「問題があっても対処できる。素性の予想もついておるからな」 それを知ってか知らずか、薄い笑いを浮かべてそう談じた教皇は、円卓の上に置かれたクレドの手に自らの手を被せ、軽く叩いた。 「では……クレドよ。ネロと閻魔刀はお前に任せる」 「仰せのままに……」 ひと時の間、物思わしげに俯いたが直ぐにクレドは顔を上げると命令を実行するべく 大股に部屋を出て行った。 クレドが立ち去るが早いか、その背を睨みつけていたアグナスがゆっくりと教皇の耳元に顔を近づける。 「ネロはクレドの妹と親しいようです。うわ言で何度も名前を……」 ひそやかな囁きを受け、教皇は無言で片眉を跳ね上げた。 森の中、谷の上にかけられた橋を渡るネロに、巨大な蛇とも龍とも付かぬ生き物が襲い掛かる。 宙を泳ぐ大蛇は鉄板の橋を軽々と破壊しながら逃げるネロの背中に迫ったが、 すんでの所で橋を渡り終えた彼が渓谷へと続く細道に飛び込むと、天高く舞い上がって何処へともなく姿を消した。 密林の再奥部は苔むした奇妙な石柱に囲まれた広場になっており、入り口の丁度対面には割れ目から緑の光が覗く巨大な石版が聳え立っている。 放つ光の色こそ違えど、その機能は恐らく依然見たものと同じだろう。 石版を睨みつけながら広場の中ほどまで足を進めたネロの背後で、唐突に土煙と、木々のさんざめきが沸き起こり、密生した木立を割ってあの巨大な蛇が襲い掛かってくる。 咄嗟に身を避けたネロが椰子の木にも似た蛇の鱗を掴むと、大蛇は天に向けて跳ね上がった後急降下して、身をくねらせつつ猛烈な速さで樹間を縫って泳ぎだした。 振り落とそうとしてか時折茂みの中にまともに突っ込むのに耐えながら蛇の体を殴りつけるが, 一向に効果がない。通り過ぎる木の幹に顔を殴られ、あわや落下するかという刹那、 猫さながらに身を捻って蛇鱗を掴みなおし、危機を免れたネロは息をつく間もなく蛇の背に沿って 駆け出した。最初こそ少しふらついたものの、直ぐに体勢を立て直し、ハイスピードで迫ってくる枝々を次々飛び越え、文字通り蛇行しながら宙を行く蛇体をぐんぐん駆け上っていく。 急カーブを切ろうとした蛇が身を捩じらせて、丁度頭の前に来たその背に飛び移ると、ネロは大ジャンプして鎌首をもたげた横顔を殴りつけようとしたが、宙を飛来した「何か」が彼にぶつかり、叩き落とした。 「わらわの子を受け入れよ!」 女の声が叫んで、落下していく彼に向かい、更に数発が蛇の鱗の間からマシンガンの弾のように飛び出し、追いすがる。 落ちながら、それでもネロがブルーローズを掲げ、殺到する「わらわの子」 ……巨大なホオズキのような朱色の木の実……を撃ち割ると、地面を削って着地した彼の頭上で絶叫が響き、蛇の頭がばっくりと四つに割れた。 グロテスクな花にも見える赤い切り口の中央から雌しべのようにその身を生やしているのは、 長い触角を持った爬虫類めいた容貌の女だ。 「わらわの子を!貴様!」 叫ぶや、一直線に突っ込んできた女大蛇をかわし、ネロはツタに覆われた石の門柱の上に飛び乗った。 「ハタ迷惑な子造りだな」 勢い余って地面に大穴を開ける衝撃もなんのその、怒り心頭の様子で長い尾を打ち振る女怪……エキドナを更に激高させる言葉を投げる。 「侮辱する気か、小僧め!八つ裂きにしてくれる!」 当然の如く更に怒り狂ったエキドナはわめきたててネロをひと呑みにするべく飛び掛かり、彼は彼女を迎い撃つべく、木の葉を散らして門柱から飛び降りた。 緑光を放つ石版を背に、ネロは無言で腕を組み、荒れ果てた遺跡に立つ土埃を眺めている。 彼に敗れた女怪がその中から飛び出して脱兎の勢いで脇をすり抜け、石版の中に逃げ込もうとしたが、 「逃げる気かよ!」やおら閃いた悪魔の腕が蛇身の尾をがっちりと捕まえてそれを阻んだ。 「人間如きに……なんたる恥辱!」 金切り声で歯噛みして、エキドナはぎゅりぎゅりと身をよじり、たまらずネロは手を放してしまう。 燐光の飛沫を放って女悪魔は石版の中に消え、「逃げるなら出てくるなよ」ぼやいたネロは 地面に落ちた彼女の置き土産……彼女の「子」である赤い木の実を拾い上げる。 「おまけにポイ捨てか?」 石版に向かって突きつけた魔の腕がまたしても勝手にそれを取り込んで、ネロは低く溜息をついて身を翻した。 ジャングルを抜けると同時に魔力の影響も抜けたのか、騎士団の本拠地である海上に突き立った白亜の塔に続く道を行くネロに向かって吹き降ろす風には、黒ずんだ枯葉が踊っている。 白い柱が見下ろす長い階段を上りきり、円状の広場に差し掛かったところでふと足を止める。 奥の入り口からこちらに向かってクレドが大股に歩を進めていた。 いつもどおりの苦い顔。なのにネロはなぜだか我知らず拳を握り締めている。 「……怒ってるのか?」 右手を隠すように体勢を変えて、冗談めかして笑いかけてみる。 相手は無言のまま、返事もしない。目の前までやってきたところで小さく息を吐き、笑みを引っ込めたネロは強い口調で問いかける。 「教えてくれよ。教団の目的は?ダンテの正体は?」 返ってきたのは「お前が知る必要はない!」それにも増して激しい声と―――叩きつけられた抜き身の剣だった。 視線は完全に逸れていたが、鞘鳴りの音が彼に危機を知らせた。 だが相手は騎士団長を名乗るほどの男である。 兜割りに振り下ろされた一撃目は反射で避けられても、飛びのいた無防備な姿勢では即座に刃を寝かせた横薙ぎの二激目は躱せない。そして、次の瞬間。 血しぶきの代わりに火花が走り、肉が裂ける音の代わりに甲高く硬い音が響く。 剣を弾き返されてよろめき、「悪魔に憑かれたか……」憎憎しげに唸るクレドを睨み返しながら、 それでもネロは彼の前から異形の右腕をコートの背に隠した。 「あんたを傷付けたくない。キリエが悲しむ」 その名を口にするときだけ僅かに目を伏せるネロの、張り詰めた囁きに 「“傷付ける”?甘く見られたものだな」 息だけで笑ったクレドは向けていた剣を下ろす。 目を閉じて腕を開き、雄叫びと共に大きく一つ身じろぎをするとその体から金色の光が湧き出して 「あんたも……」ネロは愕然と呟いた。 赤く光る目、猛禽のような鈎爪をそなえた足。頭上に不完全な輪を描く一対の角。 宙に浮かんだクレドは片翼の羽根を広げ、盾と化したもう片翼をかざして誇らしげに叫ぶ。 「神に選ばれし者のみが―――人を超え、生まれ変わるのだ。天使としてな!」 「違う……それは、悪魔だ」 見上げるネロが一歩二歩と踏み出して、低い声を震わせた。 「騎士長として―――貴様を捕らえる。教皇の御為に!」 家族同然に暮らした者の声も最早届かないのか、一方的にそう断じて剣を突きつけてくる「悪魔」……アンジェロクレドを見つめるネロの顔が一瞬だけ悲しげに曇った。 最後の力を振り絞り、盾の片翼をかざして突っ込んできたクレドをネロは悪魔の腕で受け止める。 裂帛の気合と共に渾身の力をこめて振り払うと、吹き飛ばされたクレドが石畳の上に転がった。 悪魔の右腕がまた眩い光を放っている。 それを確かめようと腕をもたげかけたネロの耳朶を「まだだ!」荒い息の下から叫ぶ声が打って、彼ははっとしてそちらに目をやった。 肩を波打たせて這いつくばっていたクレドが立ち上がろうとしていた。 が、白い羽と鱗に覆われていたその体は人間の物に戻っている。 先刻の右腕の輝きは、クレドが宿した「帰天」の力を吸い取ったものだったらしい。 「まだ終わっていない!」 叫ぶやクレドは剣を振り上げ、駆け出すと、ネロに向かって振り下ろした。 しかし、しょせんは人間の力、しかも先刻までの戦いで疲れきった体である。 あっさりと受け止められてクレドは再び吹き飛ばされ、地面に大の字になった。 陰鬱な表情で右手を眺め、小さく首を振ってネロはゆっくりとクレドの元に歩み寄る。 「強い……」力尽きたクレドには上がった息を弾ませながら肘だけで後ずさることしか出来ない。 あぎとのように開かれた異形の腕、それをなすすべも無く睨むだけのクレドとネロの距離がしだいに縮まり、そして……唐突に、悲鳴が響いた。 弾かれたようにネロは背後を振り返る。 どうあってもここにいるはずのない人間。誰よりも、何よりもこの場にいて欲しくない人間がそこにいた。 「キリエ……」 キリエの視線が落ちる。驚きと悲しみに満ちた目が悪魔の右手を見つめている。 慌ててネロはそれを背中に隠した。 キリエの視線がネロの背後に移る。咎めるような視線を追って振り向くと、彼女の兄が立ち上がることさえできず満身創痍で呻いている。 「これは……違うんだ……」 息を詰まらせながらする言い訳は、何一つ効をなさないようだった。 「なぜ、こんな事を……」 胸の前に組んだ両手を握り締め、キリエは何度も首を振りながらネロから後ずさっていく。 まるで……まるで、彼が悪魔にでも変わったみたいに。 握り締めた彼女の両手は、彼があげたばかりのペンダントを包んでいるのに。 思い余って駈け寄ろうとしたとき、誰かが擦り寄るようにしてキリエの脇に寄り添った。 「私が言ったとおりだろう?」 アグナスは鼻で笑うと、射殺しそうな目で睨むネロを悪魔が変じた剣で指し、 「ネロは悪魔だ」キリエの耳元に顔を寄せて囁いた。 「クソ―――」 逆鱗に触れる真似をしたのは誰なのか。 悟った彼は声を荒げて掴みかかろうとしたが、アグナスは彼に剣を突きつけたままキリエの背中に隠れ、 「ネロ……」泣き出しそうなキリエの声が文字通り彼に対する盾になる。 「安心しろ。殺しはしない」 相変わらずその耳元で囁きつつキリエの肩に小指を立てた手を置いて「……今はな」アグナスはネロに向けていた剣を手元にひきつけた。 突然向けられた刃に息を呑むキリエを見て、ネロは奥歯を噛み締める。 ありありと殺気立った様子にアグナスが今更ながらの疑問を投げた。 「それにしても―――そんなにこの女が大事か?」 「彼女は関係ない!放せ!」「アグナス!」 「この女が大事」なのはネロだけではない。 やっとの事で立ち上がったクレドが足を引きずりながらやって来て 「何のつもりだ!これは私が賜った任務、下がれ」 当然の抗議を投げたが、アグナスは今までの溜飲を晴らすつもりか錦の御旗とばかりその言葉尻に 「これは教皇の御命令なのだ。貴様の妹を利用せよ、とね」 とおっかぶせた。 クレドが唖然として目を見開き、ネロは怒りに体を震わせる。 「何!?」 駆け寄ろうとしたクレドの腕をとっさにネロが掴んで止めたが、遅かった。 眩い光と衝撃波が放たれ、弾き飛ばされたクレドは床を滑り、 何とか耐えたネロが覆った腕を顔の前からのけた時、そこにアグナスはいなかった。 羽音に振り仰ぐと既に悪魔に身を変じたアンジェロアグナスが気を失ったキリエの襟首を掴んで中天に浮かんでいる。 「女を助けたいなら追って来い。急がねば命の保障はせんよ」 そう言い捨てて高笑いすると、アグナスは毒々しい燐粉を振りまいて飛び去った。 「教皇が―――キリエを……?」 ぼんやりと呟く声を背後に聞いてネロはコートの裾を翻して振り返った。 「奴はどこへ……本部か!?」 愕然と座り込んでいるクレドを引っ掴んで引きずり起し、噛みつかんばかりにして問いかける。 「たぶんな」 よろよろと起き上がり、クレドはふらつきながら後ずさる。 「ネロ。勝負は預ける。真相を確かめねば」 弱弱しい光が明滅して、クレドもまた悪魔に変わり、白い羽根を散らして飛んでいく。 その行先を見上げるネロの右の拳は、いつしか硬く握り締められていた
https://w.atwiki.jp/digdig2/pages/97.html
デビル SSR/悪魔/男/魔物 我が骨は刃、我が血は毒、この身を腐らせながら闇の底でお前を待つ。(デビル) セリフ「我が骨は刃、我が血は毒、この身を腐らせながら闇の底でお前を待つ。」(声:安元洋貴さん) 契約による強化 契約レベル 先攻 防御 回避 王者 戦力アップ、付加効果 +1 5 0 1 0 戦力+5% +5 9 2 4 1 戦力+25% +7 11 3 4 3 戦力+40%連撃が可能になり連撃率が10%アップ 宝具による強化(宝具:滅世の瞳) 宝具鍛造レベル 先攻 防御 回避 王者 +1 0 0 1 0 +3 4 0 1 1 +4 7 0 1 2 宝具強化レベル 戦力アップ 付加効果 +1 +6% +5 +30% 回避+1、王者+1 +7 +48% スキル「地獄の咆哮」発動後敵の防御を4下げる 所持スキル 暴走政策(個人技) 効果 発動条件 12%の確率で175%のクリティカルダメージ。回避不可 直前の敵の攻撃が命中したとき 先攻が5アップ 常時
https://w.atwiki.jp/storyteller/pages/1369.html
デビル メイ クライ 4(Part2/2) ページ容量上限の都合で2分割されています。 2009/10/26にWiki直接投稿 本部内の渡り廊下。跳ね橋を下ろそうと装置を操作するがこれも魔の力の影響か、 橋自体に巨大な樹木が絡みついていて役をなさない。 仕方なく他の道を探して後戻ったネロは、はびこった大木により壁が大きく崩れ落ちた、とある一室にやってきた。 焦りに呼吸を弾ませながらぐるりを見渡し、ふと頭上の「それ」に気付いて息を呑む。 鳥籠にも似た奇妙な装置。目を閉じたキリエが揺らぐ赤い光に捉えられるようにして浮いている。駆け寄ろうとしたネロの前に、耳障りな羽音と共にアグナスが現れた。 「やっと来たか……」 「キリエに何を!」 アグナスは睨みつけるネロの視線から隠すように、キリエの前に剣を掲げて挑発する。 「自分で確かめてみたらいい。私を倒せたらの話ではあるがね」 忌々しげに舌打ちをし、 「お前は殺す。キリエは守る。それだけだ!」 端的な言葉を吐き捨てて、ネロは開いた右手をひときわ激しく光らせた。 「貴様……!貴様ッ!」 辛うじて宙に浮きつつ、腹を押さえたアグナスが、怨嗟の声を振り絞る。 「殺す!殺してやる!」 喚きながら突きつける剣に、 「来いよ。首をスッ飛ばしてやる」 今度はネロが両手を広げて挑発を返した。 度を失った叫びと共に、アグナスは剣を振りかぶり突進してこようとしたが、 その進路を猛スピードで飛ぶ何者かに遮られ、慌てて急ブレーキをかける。 「何者か」……いや、「何者かたち」……それは一群の「天使」だった。 彼らはしばらく辺りを目まぐるしく飛び回っていたが、ほどなく一斉にネロに向かって殺到してくる。 四方八方から次々と飛び掛ってくるのを或いは剣で弾き飛ばし、或いは槍を捕まえて投げ飛ばすが、 数と機動力の差のせいで防戦一方に追い込まれてしまう。 幾つもの翼が風を切る音と、剣戟の音が響く中、アグナスは傍らに生まれた光、その中から現れた鎧姿に恭しく頭を垂れた。 「教皇……」 「もう良い、アグナス。お前は降臨の準備をせよ」 老人のシルエットとは似ても似つかないが、翼を具えた豪壮な姿の鎧は確かに教皇の声でそう命じ、アグナスは従順に応じてその場を飛び去って行った。 「教皇」は眼下で荒れ狂うネロを一瞥すると頭上をゆっくり振り仰ぐ。そこにはキリエがいまだ気を失ったまま、「鳥籠」の中に浮かんでいる。 滑空してきた「天使」の槍を跳ね返し、ネロはハッとして中空を見やった。 他のものとはデザインのやや異なる鎧を纏った、四枚羽根の「天使」がキリエを抱え、連れ去ろうとしていた。 援護の為か、更にも増して激しくなった「天使」たちの攻撃を片っ端から捌きとめ、突進してきた二体の槍を両腋に挟んで投げ飛ばし、駆け出した所で剣を弾き飛ばされるがかえりみもしないで跳躍する。 「彼女に触るな!」 二体同時に飛び掛ってきた「天使」が一瞬で吹き飛ばされた。 青白く光る右手を、宙を遠ざかるキリエに向かってあらん限り、一杯に伸ばす。 「キリエーッ!」 「ネ……ロ……」 喉も割れんばかりのネロの雄叫びが届いたのだろうか、 目を閉じたままのキリエが無意識の下から、囁くようないらえを返した。 しかし、彼がその存在を呪いながらも同時に少なからず頼みにもしていたであろう悪魔の腕は、 先刻のようにやはり肝心なところで彼を裏切った。 彼に出来たのは、辛うじて、その胸に下がっていたペンダントを掴み取る事だけ。次の瞬間には、急降下してきた一体の「天使」によって地上に叩き落され、床に磔にされてしまう。 「その力、やはりスパーダの血か……」 鎧の下でもがくネロを見下ろし、教皇はそう呟いたが、すぐに踵を返し、飛び去っていく。直後、その後詰をするかのように二体の「天使」が宙を滑り、襲い掛かってきた。 が、最早遠くなるキリエの姿しか映していないその両目が赤く輝くや否や、その身を刺し貫いた二体の槍もものかは、右腕の一振りで三体すべてが吹き飛ばされて壁に叩きつけられ、ガラクタと化す。 よろめきながら、ネロはなおも数歩を走ったが、ぽっかりと空いた壁の穴の向こうには、もう誰の姿も見えなかった。 荒い息をつきながら、左手の中に残されたものを見下ろす。 光る掌の上の、小さなペンダント。 がっくりと膝を突き、何度も拳を床に叩きつけるネロの獣のような叫びは、やがてかすかなすすり泣きへとかわっていった。 教団本部内の一室、つい先刻教皇が「蘇った」部屋を横切ろうとしたネロは、はっと息を飲んで足を止める。 「遅かったな」 あの赤いコートの男が寄りかかっていた柱から身を起こし、床に突きたてていた大剣を背負うところだった。 「今さら……何の用だ?」ネロは歯軋りせんばかりの剣幕で「こっちは急いでるんだ」と男を乱暴につきのけ先へ進もうとしたが、その肩を「そろそろ―――」と背後から男がつかんだ。 途端、ぎろりと相手を睨みつけ、つかんだ手を払いのけざまにネロは男に殴りかかったが、男はそれを難なくかわし、今度はネロの腕をつかんで「鬼ごっこはヤメだ」上から覗き込むようにしつつ言う。 と、戒められたネロの右腕がこめられた力で輝きだすのを見て取るや、男はぱっと手を放し、独り相撲を取らされたネロは、自分の力のあおりを食らって背中から壁に突っ込んでしまった。 「その刀を返せ」壁に開いた大穴に、のしのし歩み寄りながら男が言う。 「何の話だ……」という言葉とは裏腹に、ネロの体から光の波動が湧き出して、次いで放たれた一陣の衝撃が崩壊で立ち込めた土埃を吹き払った。 顔を庇っていた手を下ろして男が低い息を漏らす。 彼と対峙したネロの背にはオーラが造り出した異形の影が佇んでいた。 しかしそれを目にしても男は特に慌てるでもなく、 「俺の兄貴の物でね。返すなら―――」ひょいと背中に手をやり、大剣を抜き放つ。 「見逃してやるよ、坊や」 「“坊や”か……」と鼻をこするや「我ながら甘く見られたもんだ!」ネロは刀を腰だめに構え、ひと息に振り切った。 目前に迫った居合いによる衝撃波を男は宙に飛び上がってかわし、そのままちょんと天蓋の上に腰掛ける。 背後で崩れ落ちる石柱を見やり、感嘆めいた声を上げてからこちらを見下ろし、「忠告だ」と人差し指でみずからの胸をこつんと叩いた。「年長者は敬え」 もちろんネロがそれに従うわけもなく、彼は男を無視してそのまま駆け去ろうとしたが、進行方向に男が飛び降りてきて道を塞がれ、忌々しげな息をつく。 大剣を肩に担いでそれを眺める男のまなざしから、ふと笑みが消えた。 激しい剣閃の応酬が続く。 4合、5合、6合目についにネロのがむしゃらな剣が男の大剣を宙に跳ね上げた。 チャンスとばかりにネロは刀を胸元に引きつけ、渾身の突きを放ったが、喉元にその切っ先が届く寸前、男がするりとその攻撃をかわしざま、ネロの後頭部をぽんと叩いて押し出した。 結果勢いを狂わされたネロは足をもつれさせて無様に床に転がり、男は落ちてきた大剣を見事にキャッチして、悪ガキのような笑い声を上げた。 往生際悪く上半身だけ跳ね起きて、歩み寄る相手にヤケクソまがいの一撃を浴びせようとしたが、首の真横に剣をつきたてられて、そこでようやっと観念したネロは床に大の字になった。 「頭は冷えたか?」彼と同じく荒い息をつきながら、それでもにやにや笑って男が聞いてくる。 ネロが顔を背けると「何だよ、文句あるか?」となおも聞くので「殺す気はないって顔だな(英語だと「最初っから俺で遊んでたんだろ」という)」右腕を踏みつけた男の足を睨みつけてネロが応えると、男はネロの右腕から足を上げ、床から剣を抜いて身を引いた。 「その刀は、人と魔を分かつ剣でね。俺が持つのがスジなのさ」ふらつきながら床から身を起こすネロに言い聞かせるようにそう言って「家族の形見だしな」と付け加え、男はとんとん、と胸を叩いて見せたが、 「必要なんだ……」 手にした刀に眼を落とし、低い声で囁くネロを見ると、彼は小さく頭を振って息をついた。 「なら、持ってけ」 あっさりとなされた提案に、ネロはきょとんとして男を見返したが、「頭も冷えただろ。行きな」 男はそれ以上何を説明するでなく、ただ親指で出口の方を指す。 暫しの無言ののち、ネロは右手の刀を握り締め、歩き出した。 すれ違う二人の間に、ふと一陣の風が吹く。 「おい!」 その時、遠ざかるネロに背を向けたまま、男が声をかけた。 「名前は?」問われて「ネロだ。あんたはダンテだろ」と答えると「悪くない名前だ……」ネロは呟き、歩み去っていった。 「お前もな」 振り返り、男……ダンテがそう返す。 そのまま小さくなる背中を見送っていたダンテの視界に、突然白い影が割って入った。 扇情的な切れ込みの入った教団服に褐色の肌を包んだ銀髪の美女。 教皇に言ったとおり、グロリアが彼のもとに現れたのだ。 両者の間に張り詰めた空気が流れる……かと思いきや。 沈黙もつかの間、突如ダンテが噴き出し、膝を打って笑い始めた。 「似合ってるじゃないか」 言われた方も、「それはどうも」 肩をすくめてあっけらかんと応じると、ひょいと腕を伸ばして何かを剥ぎ取るような動作を見せる。 するとエキゾチックな銀髪美女は姿を消し、以前の彼女とはまるで正反対の……銀のボブヘアは腰までのブロンドに、褐色の肌は抜けるような白に、白い団服は黒いチューブトップと黒皮のパンツに変わった……美女が現れた。 彼が笑い出したのも当然、そしてグロリアが魔剣スパーダを教団にもたらせたのも当然のこと、彼女の正体こそダンテの相棒、女悪魔のトリッシュだったのである。 「……行かせていいの?」 「あんな顔されたらな」 愛剣「リベリオン」を床に突きたて、そう答えるダンテにトリッシュは歩み寄り、彼の肩に手を置いて、 「大事になっても知らないわよ」とその顔を見上げたが、 「その時はその時だろ。俺がケツを拭くさ」 剣を背に戻しながら彼女の相棒は頼もしいというか行き当たりばったりというかないらえを返し、トリッシュは無言でなんとも言いがたい視線を向けるのだった。 「これは……」 教団本部、最上階。そこに安置された二本の角に後光のような輪を戴く巨大な石像を見上げて呟きを漏らしたのもつかの間、ネロはやおら銃口をその頭部に向けた。 「美しい姿だろう?」 両手を広げ、教皇は問いかけたが、 「俺の趣味とは合わないね」すげないネロの答えに「それは残念だ」左手を振った。 それに応じて石像の額にはめ込まれた青い宝玉の中から現れたものを見て、ネロの目が驚きに見開かれる。「キリエ……」呟き、銃を下ろしてしまうネロに教皇が問いかける。 神の中で彼女と溶け合い、一つになって永遠の愛を証明したくはないか、と。 「××××してな!」 ネロはただそう返して歯噛みする教皇はそれきり無視し、キリエにひたむきな眼を向ける。 「今助ける。信じてくれ」 彼女もまたじっとネロを見つめ返したが、小さく頷いたかのように見えた瞬間、その体は石像の中に引き戻されていった。 「交渉は決裂か。未完成とは言え、この神の力の強大さを思い知れ」と教皇は叫び、彼と神という名の巨像とを相手取った戦いが幕を開けた。 吹き飛ばされつつも何とか体勢を立て直し、石像の額に降り立った教皇に、閻魔刀を振りかざしたネロが飛びかかる。が、すんでの所で教皇の足元の宝玉からキリエが再び現れて、それに怯んだネロは巨像に掴み取られてしまった。 「愛のために破れるか」とあざ笑いながらも、教皇はネロの持つスパーダの力を認めたが何故か「ダンテほどではなかろうがな」と付け加えた。 何とか逃れようとあがきながらも唐突に出てきたダンテの名を訝るネロに、本来石像の中にはダンテを取り込む予定だったと教皇は告げ、「だが結果が同じなら、容易な道を選べばいい」ネロに向けてその手を差し招くと、閻魔刀が石像をすり抜けて浮かび上がり、教皇の手の中に納まった。 「貴様の血とこの閻魔刀の力で、我らは望みどおりの楽園を築ける」 刀を掲げて勝ち誇る教皇の前に、その時ふいに白い影が舞い降りる。驚きに眼を見張る間もなく、彼は飛び降りてきたクレドの放った剣閃を受けてその場に崩れ落ちた。 逃げろと叫ぶクレドの声に、なんとかネロは右腕を引き抜いたが、同時に響いた苦鳴に愕然と眼を見開く。特に傷ついた様子もなく裏切りの理由を訊く教皇に串刺しにされつつも、クレドは彼の望む理想の世界のために何でもやってきたが、何も知らぬ妹までも利用した事だけは許せない、と途切れ途切れに糾弾する。 「愛か?家族への?愚か者め!」教皇は吐き捨てて刀を振り払い、「信ずるべきは、絶対的な力のみだ……!」必死で伸ばすネロの手を掠めて落ちていくクレドの姿を見送った。 クレドの、血に染まったその体は、しかし石畳の床に激突する寸前、何者かに抱きとめられて難を逃れる。 壁際にクレドを横たえるダンテを守るように進み出たトリッシュの正体を看破して、教皇は「貴様らにも予想外だっただろう、この小僧の体に流れる血はな!おかげで我らが神は完成する!」となおも嘲った。 が、ちらりと相棒と視線を交わして、ダンテが「坊やはまだやる気みたいだぜ?」溜息混じりにそう言ったのと同時に、ネロの伸ばした悪魔の腕が教皇を鷲づかみにして石像の胸部に叩きつけた。 やったかと思われた瞬間、しかし既に「神」と同化している教皇を「神」の体に叩きつけた所で意味はなく、「神」の体内を通ってネロの背後に現れた教皇がその右腕を像の拳に縫いとめた。 最早脱出は不可能と哄笑しながら教皇は刀を携えて再び「神」の中に姿を消し、ぐったりとうなだれるネロに、「坊や!ギブアップか?」とまるきり外野の口調でダンテが問いかける。 「もう、打つ手ナシでね……」ネロはそう返すのがやっとの事で、それきり顔を上げることもできない。 しかし「そりゃ大変だ」と肩をすくめたダンテが「死ぬのは勝手だが、刀は返せよ?」と薄情に指を突きつけると、「取りに来な……」とこの期に及んで憎まれ口を叩いた上に中指を突き立てつつ巨像の中に引き込まれ、「悪ガキめ……」ダンテは苦笑交じりに呟いた。 かすかな歌声と差し込む光に目を開けると、赤黒い、夕焼けのような空にネロはキリエと二人、浮かんでいた。 彼を目覚めさせた光は、キリエから放たれているようだった。 かすれる声でネロが呼びかけると夕闇が払われ、辺りは光に満たされる。 守れなかったと呟くネロに、キリエはただ微笑んで手を差し出す。 けれどもその手をとろうとした刹那、キリエの体は金色の粒子に変わって闇へと融けていった。 ありがとうと囁くキリエの声に、ネロは闇に捕らわれ、もがきながら叫び続ける。 「約束だ!ここから抜け出す!君と一緒に!」 だがその絶叫も、そして思わずあふれた涙も虚しく闇に飲まれ、かき消された。 あれは白昼夢だったのか、気がつくと現実の彼は強靭な肉の塊に捕えられていた。不気味な肉の檻……それは「神」の像の体内、その胸の青い宝玉の中に位置していた。 すると宝玉が鈍く明滅を始め、同時に不気味な地鳴りが辺りを包む。「神」が空中へ浮かび上がろうとしているのだ。 頭上遥かに舞い上がる「神」の背に出現した、奇妙な光る輪のような物体を指し「見ろよ!羽が生えた!」ダンテが呆れた嘆息のような笑い声を上げた。 「悪趣味なデザインね」切って捨てるトリッシュに首を振り、ダンテは背後にへたり込んだクレドに完成した「神」の行方を尋ねた。 何とか立ち上がろうとしながら果たせず、クレドは「世界の救済には混沌が必要だ」と答える。 彼らはこの街に眠る魔界への扉、地獄門を開こうとしているのだと。折れた閻魔刀、魔界を封印した鍵を復活させようとしていたのはその為だったのだ。 「人と悪魔を分かつ剣、か……」呟くダンテにクレドは喘鳴に濁る声で必死に訴える。 スパーダの息子の貴方ならば、神さえ殺せるかも知れない、と。 「期待されてるみたいね」トリッシュが目を向けるが、ダンテは「らしいな」と受け流すだけだ。 すると、「頼む、救ってやってくれ……」ようやっとのことで立ち上がったクレドがダンテの肩を掴んだ。 「彼らを……キリエと……ネロを……」だが、それが彼の最後の言葉だった。 倒れ込もうとするクレドをダンテが支えたが、その体は光に包まれ、無数の粒子になって飛び散った。 「分かったよ」しばしの後、ぽつりとダンテが呟いた。 「遺言じゃ仕方ねえ」やれやれとでも言いたげに腕を組むダンテに「私は住民を避難させる」言い置いてトリッシュがすたすたその場を去ろうとするので 「おい!そもそもお前が……」と難所を押し付けられた不満もあらわに言い募ろうとすると「じゃあ交代?」ぴしゃりと遮られてダンテは一瞬口ごもった。 結局は「いや……こっちがいい」 降参!とばかり、手を上げてダンテは大股に歩き出した。その背に彼の相棒が続く。 歩き去る彼らの後ろ、二人の背中を見送って、光の最後の一粒が蛍のように舞い上がり、闇に消えた。 「さあ、欲望のままに暴れるのだ」 地下の神殿らしき建物。宙に渡された石の通路を、誰に向けてか語りかけながらアグナスがゆっくりと進んでいく。 「喰らい尽くせ。この世界の崩壊の果てにこそ」 やがて石の通路は丸い台座で行き止まりになった。彼が、というより彼が携えた閻魔刀が近づくにのに合わせ床で不気味に脈打つ赤い魔方陣に向かってアグナスは刀を振りかぶり、 「神の支配する楽園の時代が―――訪れるであろう!」 叫ぶと、その中心に開いた「鍵穴」に向けて剣を突き刺した。 一瞬、辺りが白く輝き、そしてそれは一面の巨大な魔法の赤光に変わる。 「今こそ!審判の時!」 深紅に輝く閻魔刀を前に、アグナスは喉も割れんばかりの雄叫びを上げた。 大聖堂の前に避難していたフォルトゥナの市民たちが、巻き起こる地鳴りに不安そうに顔を上げる。見上げる目の先で、あの巨大な石版が不意に膨れ上がり、泥のような飛沫を……否、そう見える程の膨大な数の悪魔たちを吐き出した。 転げるように逃げ出した彼らを、悪魔たちが次々と屠っていく。 追い詰められ、震えるだけの無力な民たちを覆う悪魔の影。 と、その影を何者かが吹き飛ばした。 恐る恐る振り返れば、白い騎士が宙に翼を広げてこちらを見下ろしていた。 同じく街のあちこちで、騎士たちが悪魔を払い、人々を「救って」いく。 「恐れることはない!神は今、降り立った!我らを救うために!」 騎士たちを従えて宙を行く「神」の頭上で教皇が高らかに叫んでいる。 「感謝を捧げよ!賛歌を歌え!世界はまだ終わってはおらぬ!」 力強く腕を打ち振ると、「神」の頭の不完全な……まるで悪魔の角のようにも見える「輪」が稲光を放ち、輪の欠けた部分に生じた雷球から生じた電光が無数の悪魔たちをやすやすと打ち砕いた。 辺りに教皇の笑い声が響く。人々を「救う」、その気高い筈の所業とは裏腹な、下卑た笑い声が。 気のない拍手が辺りに響く。 「なかなか演技派だな、爺さん」 火に包まれた街とそこに降り立った「神」を遠く眺めながら、ダンテはまるで熱のこもらない口調でそう言うと、コートの裾を翻して歩き出した。 「魔剣教団?」 ピザをかじりながらダンテは古い知り合いを見上げた。 「そう。聞いた事は?」 だだっぴろい机の上に手をついて、ぴっちりした白いスーツに包まれた、豊かな胸元をさらしながら尋ねてくる。 「宗教には縁がない」 彼と同じ感想を抱いたのか、相棒は机の端に腰掛けて、彼と同じくピザをかじりつつ足をぶらぶら揺らすだけで、こちらのことを見もしない。 「フォルトゥナで信仰されているの。物好きしか知らないけどね」 「お前みたいな?」 「そういう事。スパーダの事は詳しい?」 まぜっかえすダンテに怒りもせずあっさり返すと、彼女は更にそう尋ねた。 「何でも知ってるってわけじゃない」 と、返してダンテは脇の相棒に目線をやったが、トリッシュはあいも変わらずピザをかじっているだけだ。サングラスの奥の眼……片側が青で、片側が赤い奇妙な眼でそれを睨んで、昔なじみはガンベルトに包まれた物騒なフトモモを揺らして歩き出した。 「スパーダはその街の領主だった。人々は彼が去った後も彼を崇めてる……神としてね」 「悪魔が神になったか」 お行儀悪く机の上に載っけていた足を床に降ろして、皮肉な口調でダンテが笑う。 聞いているのかいないのか、ピザを食べ終わったトリッシュは、こちらもまたお行儀悪くなおかつエロい音を立てながら指をしゃぶると、テーブルをぴょんと飛び降りた。 「話はここからよ。問題はその教団。悪魔を捕まえてるの。何度かは仕事を邪魔されたわ」 「動物園でも開くのか」 彼女は今度こそ苛立たしげにダンテの手からピザをひったくった。 「……まだあるわ。あなたが持ってるような―――魔具も集めてる」 ピザでこちらの事を指す彼女の手から 「じゃあ博物館だな」 と相変わらず茶化しながらそれをひったくり返そうとしたダンテは、ひょいと手を引っ込められて、 「……何だよ」 忌々しげに机を軽くたたいてまたその上に足を乗っけなおす。 突いていた両肘を机から離して、仁王立ちになった彼女が 「そんなものより―――はるかに凶悪な目的だとしたら?」 ピザを片手に言い放った所で何か思うところがあったのか、ダンテはようやく机から立ち上がった。 「……退屈しのぎにはなるだろうな。トリッシュ!」 呼びかけて、返事が、そういえば気配もないのに気がついて、眉をひそめて背後を振り返ったダンテはやれやれと首を振った。 背の壁にかけてあった父の形見の魔剣「スパーダ」が消えている。 刀掛けには鮮やかなルージュで「See You There(現地集合)」の文字。 「ややこしい話になってきた……」 そう言いつつも、密林の木漏れ日の下を行くダンテの口元には、楽しげな笑みが浮かんでいる。 密林の「門」の前までやって来たダンテ。 怪訝そうに背後の空を振り仰ぐと、蛇体をくねらせ、卵を射出しながらエキドナが泳いでいくのが見える。 息をつき、首を振ると出し抜けに駆け出した彼は、飛来する卵の着地点まで駆けつけると、それを次々と蹴り返す。 蹴り返された卵は宙で複雑に跳ね返り、最後に放ったオーバーヘッドキックの一撃でビーンボウルのように卵の群れを弾いて、全ての卵が龍態を解いて女怪の姿を現したエキドナの顔に次々ぶつかった。 「貴様、何者じゃ!」 怒り、声を上げるエキドナに「無視されるのは嫌いでね」とダンテは肩をすくめる。 「わらわの子と一体となり平穏な余生を送れば良いものを!」 叫んだエキドナが龍に身を変えて襲いかかったが、ダンテは手にした剣をひょいと背中に掲げただけ、次の瞬間その姿はエキドナの大きく開いた口の中に飲み込まれてしまった。口の間からはみ出した片足が力なくぶらりと揺れる、と見えたのも束の間、「そういう誘いなら……パスだな」易々と龍の大顎をこじ開けてダンテが再び姿を見せる。 弾みをつけて龍の口中から飛び出すと、睨みつけるエキドナにダンテは悠揚と剣を突きつけた。 「刺激があるから人生は楽しい。そうだろ?」 「わらわの森!わらわの子!」 体液を噴出しながら、苦しげにエキドナが喚いている。 しばしの間、ダンテは無言のままその悲鳴を聞いていたが、やおら銃を引き抜くと、容赦のない一撃を食らわせた。轟音と共に引き裂くような悲鳴を残してエキドナが四散する。 「黙ってた方が美人だな」 嘯いて銃をしまうと、彼は巨大な石門の基部へ足を向けた。台座の上で瞬く光に手を伸ばすと、それは独りでに宙を滑ってダンテの掌に納まった。 「まず一つ……」 呟くと、光が一層強くなり、それが収まったとき……ダンテの両手と両足、それに下顎は奇妙な「鎧」に覆われていた。紫の光の帯が脈打つ両の拳を握り締めると、軽い金属音がして更に刺状の肘当てが現れる。それらを眺めやった後、ダンテは門へと向き直った。しなやかな足捌きで石畳を踏みしめ、ゆるゆると両腕を泳がせて、指先を揃えた右の手をぴたりと巨大な石壁に突きつけた。 転瞬、伸ばした指を拳に変えて、その分開いた僅かな隙に、雷光のごとき拳打を叩き込む。途端、彼の体を中心に放射状に突風が吹き抜け、弾けた瓦礫が飛び散った。巨大な石門の表面に地から天へと亀裂が走り、一つ瞬きしたあとにはそれは幾つもの石の塊となり、雪崩を打って落ちてくる。するとダンテは身をかがめるや、拳を腰だめに構えて跳躍した。 掲げた拳から炎を吹き上げ、門の欠片を砕きつつぎゅりぎゅりと上昇し、途中からは身を反転させて幾つもの石塊を蹴り割って、頂点に到達したところで手刀を閃かせ、一際巨大な門の天頂部に当たる岩塊を叩き割り、着地する。 拳を握って力を溜めるダンテの背後、落ちてきた巨石が次々と重なっていく。石塊が落ちきり、見上げるほどの石の山になるのと同時に、ダンテは鼻の頭を親指でぴんと弾き、天高く飛び上がる。そうして紫の炎を纏い、放たれた手刀は巨石の山を、その断面を赤く溶けるほどに焼きながら真っ二つに叩き割った。 土埃、いや、焼かれた石の上げた蒸気だろうか。もうもうと上がる煙の中で 「あと二つ……」 反した拳を眺めながら呟いて、ダンテはその場を後にした。 ネロがバエルを倒したことにより止んだ筈の吹雪が、何故か再び猛然と荒れ狂っている。 フォルトゥナ城の中庭を横切りながらダンテはふと顔を顰めて鼻を摘んだが、上空から響いてくる嬌声に目を上げて、そこで淫らな踊りを繰り広げる女たちを見つけるや、そんなことは忘れたかのようなヤニ下がった表情になり、口笛を吹いた。 そうして光る裸身の女たちが絡み合い、腕を伸ばしてこちらを差し招くと、「ベイビーちゃん!」両手を広げて彼女たちの元へと駆け寄った。 「サイコーだ!」雪の上を滑り、近づいた彼を、待ってましたとばかりに宙から降りてきた女の一人が抱きしめようとするが、ひょいとかわしたダンテは仰向けのままバックスケーティングして、もう一人の女のお尻を下から覗き込んだ。エロ親父そのものの行動に、慌てたように彼女は距離をとり、しかしまたお互いに近づいてはかわし、かわされる。 やがてダンテは凍った地面に寝転がると、吹雪の中に舞う異様な女たちをニヤニヤと見物し始めた……が、その直後、水面を迫る鯱のように、その何倍もの大口をあいた大蛙が飛び掛ってきて、哀れダンテは一呑みに……と思いきや、難なく彼は中空に飛び上がってその顎を逃れた。 「わしに気づいとったんか!」 ネロを辟易とさせたのと同じ、汚らしい色の消化液を口から飛び散らせながら怒鳴る、バエルそっくりのこの化物の名は「ダゴン」。 ネロが閉じた筈のあの「門」の中をうじゃうじゃとこちらへ向かってきていた、バエルの「兄弟」の内の一匹である。ダンテはそれを知ってか知らずか 「体は隠れてたが、そのニオイがな……」と、いかにもわざとらしく顔の前で手を振って見せる。「ヒドイもんだ」 「ふざけた人間が!丸呑みにして消化したるわい!」 挑発に怒り狂ったダゴンは足を踏み鳴らし、雄叫びを上げた。悪臭を孕んだ颶風が吹きつけて、ダンテのコートが吹き上げられて裏返しになり、頭の上に被さってしまう。間抜けな空気をコートと共に払いのけ、「消化できるならな」不敵にダンテは笑うのだった。 べちゃんと地面に叩きつけられ、「まだ終わっとらんぞ!」往生際悪く向き直ろうとするダゴンの目に、飛びかかってくるダンテの姿が映る。 「わしの兄弟が……」捨て台詞は大剣に一刀のもとに断ち切られ、力尽きた大蛙は巨大な氷塊となって爆散した。氷霧の向こうに魔界への門、更にその足元の台座に輝く光が見える。 密林の門と同じく、光体はダンテが伸べた右腕に応えて宙を走り、手の中に納まった。が、光が消えるとそこにはおよそ武器とはとても思えない、大きめのアタッシェケースがぶら下がっている。中央に物騒というか悪趣味な髑髏のエンブレムがついていて、脈打つようにそこから光が走っている表面をこつこつと叩いたダンテは「なるほど」何に納得したんだか、「食べ放題ってわけだ」そうひとりごちるとそれを肩の上に担ぎ上げた。 たちこもる氷の霧が晴れていく。ぼんやりと踊る無数の赤い光、その下に蠢く、同じく無数の巨大な「何か」がその輪郭を鮮明にしていく。 気づけば中庭はバエルとダゴンの「兄弟」たちで溢れかえっていた。しかしダンテは無軌道に暴れ狂う化物蛙に慌てず騒がず、ただにやりと口の端を吊り上げて、高く掲げたカバンを地面に叩きつけた。するとそれは光を放ち、次の瞬間……何故か一基のガトリングガンがその場に姿を現した。大きすぎる標的を横一列になぎ払うと再びカバン、というか元カバンのガトリングガンが光りだし、ダンテがそれを担ぎ上げると、それはロケットランチャーに変形した。次いで景気よく放たれたロケット弾が群れの真ん中で馬鹿でかい爆炎を上げ、重たげな体が一斉に空を飛ぶ。ランチャーは三度光って三枚の羽を持つブーメランに、宙を走って全ての的を切り裂き、ダンテの手の中に納まった。 これで終わり……ではもちろん無い。カバンに戻ったそれを、歓声を上げながらブン回したダンテの背中で更にカバンが何だかすごい変形を始め、全方位砲撃台としか言いようが無いようなシロモノが組みあがった。いかにも楽しそうな顔でダンテが発射菅を押し込むと、べらぼうな数のミサイル弾が飛び出して、ムチャクチャな軌道で星空を駆け、的の全てに襲い掛かった。天高く上がる爆煙を前に、がっしと地面にカバンを置くダンテ。片足をカバンの背に乗っけてどうだとばかりに惨状を眺めている足元で、カバンの留め金がかちりと外れた。 いかにも普通のカバンのようにぱかんと開いたその中からは、絶対に普通のカバンは発しない、そして今までの変形の時とも違う、何やら怪しげな光が……。怪訝そうにダンテは顔を傾けてその中を覗き込んだが、一瞬の後、ばたんと足の先で蓋を閉じてしまった。 一体何を見たのだろうか。ちなみにこのカバンの形をした魔界兵器の名前はパンドラと言います。そしてこの後カバンを閉じた衝撃(?)が最後のトドメとなったのか、床に大穴が開いて階下に落とされたダンテは、同じく戦闘の衝撃で(?)排気機能が止まってしまい、毒ガスに満たされた構内を「やり過ぎた」とボヤきながらとんだ回り道を強いられることになるのですが、それはまた別のお話。 不気味な燐光を放ちながら宵の空に浮かぶ「神」を遠くに見上げ、ベリアルは忌々しげに呟いた。 「人間が神を気取るとは……愚かな事よ」 「同感だな」 と、思いもしないところから応えが返り、見下ろすと、他ならぬ彼の、燃え盛る尾の上にはたはたと手で顔を仰ぎつつ、平然とダンテが腰掛けている。 「貴様……!」 慌てたベリアルは尾を打ち振り、ダンテを宙に投げ出した。が、相手は慌てるどころか、ぎゅりぎゅりと回転して着地すると、 「早く気付けよ。コートが燃えただろ」 外套の裾を持ち上げてばさばさと払い、しれっとした顔である意味ボケともいえるツッコミを入れる始末だ。 「逆賊スパーダの息子が!同胞の仇を取らせてもらうぞ!」 地響きを立てて歩み寄るベリアルを、ダンテはただ腕組みをして泰然と待ち受けている…… 「これほどの力とは―――無念なり……!」 ぜいぜいと苦しげに肩を上下させるべリアルに、息一つ切らしていないダンテが指を突きつける。 「汚いケツ見せておうちに帰りな。許してやる」 しかしべリアルが勝者の情けを受け入れることはなかった。 「一度退いた身、二度は退かぬ!」 叫ぶなり、全身に炎を纏わせ、残された力を振り絞り突進してくる。 が、それもダンテの放った銃弾の前に火の粉となってあえなく散った。 べリアルの起こした最期の風に、朱の蛍が断末魔のように舞い、消えるのを眺めて 「ショボイな……ハデな花火を期待したんだが」 呟いたダンテは銃をしまい、巨大なモノリスの前へ歩を進めた。 台座の上に浮かぶ光球に手を伸ばすとその輝きは一際増し……それが収束した時、ダンテの背には奇妙な物体が納まっていた。 肩だけの鎧のような、金属で出来た外格だけの翼のような……「翼」にはそれぞれ幾本かの細剣が仕込まれているようだ。 ちらりと背を振り返ったダンテはふふんと笑い、いきなり天高くジャンプした。 「コイツを!」その両手には「翼」から抜き放った剣が赤く輝いている。 「突き刺す!」叫ぶと同時に剣は幾本にも分裂し、投げ放たれてモノリスに幾つもの穴を穿つ。 「力をこめて!角度を変え!刺す!」 不思議なことに、叫びつつ次々と剣を投げていのに、その背の剣が尽きることはない。 「さらに……もっと強く!ブチこんでやる!」 何故かフラメンコ調になったBGMに乗り、気取ったポーズをキメながら放っている剣の軌跡は、どうやら何かの図形を描いているらしい。気合いと共に放った締めの一撃がその中心に突き立ち、長いジャンプを終えて地面に着地したダンテは、フラメンコダンサーよろしく赤いバラを咥えている。 「最後に……」 パンパン、と両手を打ち鳴らすと、石板に刺さっていた全ての剣が破裂して、モノリスはハートの形になった。 「絶頂を迎えた後―――」 振り向きざまに投げたバラが、ハートの中央に残っていた剣の柄を叩いて 「君は自由だ」ハートは見事に真っ二つになった。 その間に遠く浮かぶ「神」の姿が覗く。 「意外と小さく見えるな」 相変わらず異様な後光を背負った巨体をそう評すと、右手を伸ばしてそれを握り潰す仕草をしてみせる。 「残るはあんただ、Mr.カミサマ」 宣言して、ダンテはぽんと手のひらの埃を払った。 「悲しいかな、悪魔如きでは―――君を止める事はできぬのか」 薄暗い室内、スポットライトに照らされてうずくまっていたアグナスがゆっくりと立ち上がる。 芝居がかった仕種で腕を伸ばすと……別の一角にライトが切り替わり 「呼んでは殺し―――呼んでは殺し。歪んでいるな」 足を乗せていた椅子をステージの端に蹴り滑らせてダンテが応えた。 「正気じゃない。それがお前たちの―――正義なのか!」 眩しいライトを浴びながら、馬鹿馬鹿しいほどの大仰な身振りでアグナスを糾弾する。 「人間とは―――まことに愚かな生き物だ。一度地獄を味わわねば神の存在を信じようとはしない」 それには答えず、どこからか取り出した骸骨を眺めてアグナスは嘆く。同時に、なんかモノローグ調にアグナスと骸骨のアップが画面に映り込んだ。 「なんと皮肉な話である事か……」 突然疾走った稲光と共に手の中の髑髏を握り潰した彼は、砕けた粉をふっと吹いた。 「そんな話に興味はない」 骨粉でできた煙幕の中、ステージに寝転がったダンテがわずらわしそうに手を振って、やおら立ち上がる。 「俺は―――」「アレを―――」「返して欲しいだけなんだ!」 あの、何だか今にも歌い出しそうなんですけど……というような身振りで訴えるダンテに 「閻魔刀だな!君が望んでやまぬ物は!」 悪魔に変身したアグナスが蛾に似た羽根を広げ、「私がここで守る閻魔刀だな!」手にした大剣を取り回して高々と掲げた。 「そうくるだろうと思っていたよ」 片方は確実にノリでやっているのだろうがもう片方はどうなのか……とにかくついにクラッカーさえもがうち鳴らされ、ベンチで「舞台」にスライドインしたダンテは、舞い散る紙吹雪の中で高笑いをあげると、突如腰の銃を抜き、天に向けてトリガーを引く。 轟音の次の瞬間には、彼は壁際のスパーダ像の上にいて、 「始めよう!天使と戦う事ができるとは―――素晴らしい幸運だ!」 相変わらずの芝居がかった身振りで軽いキスを投げた。 「なぜだ……これほど……力に、サ、サ、差がある!」 吹き飛ばされて、ベンチの上に尻で着地したアグナスは、変身の解けた我が身を見回し、上擦り声をあげた。 「お前が人間をやめたからさ」 そんな彼にちょいと指を突きつけ、ダンテが事も無げに答えたがアグナスには納得が行かない。 「お前も人間じゃない!なぜ私が負ける!」 「人間は弱いか?確かに肉体は弱いかもな」 円台の上をぶらぶらと歩きながらダンテがレクチャーよろしく語り始めたのを見て、アグナスは慌てて腰を探り、メモパッドとペンを取り出すと彼の側へと駆け寄った。 「だが悪魔にはない力がある」 「悪魔にはない……それは、ナ、何だ?研究の参考にしたい!教えてくれ!」 アグナスは背を向けたダンテになおも追いすがろうとしたが、その姿さえ見ずダンテは銃を抜き撃った。 アグナスの上げた小さな悲鳴と共にその手の帳面が弾き跳ばされ、無数の紙がひらひらと舞った。取り戻そうと宙を掴んで狼狽するアグナスの上に、ダンテの冷たい声が降ってくる。 「研究の続きはあの世でやりな」 どうにか一枚を捕まえて、掲げてみると、黒々と開いた穴の向こうから微塵の諧謔もない悪魔狩人の目がこちらを睨み下ろしていた。 「俺からの宿題だ」 再びの轟音でアグナスはまたも宙を舞い、ベンチの上に尻餅をつく。ぱたりと両腕がシートに落ちて、最後の息を吐いた顔の上に死者に掛ける布のように紙が舞い落ちた。 「そして残るは沈黙のみ」 一人として居ない観客に向け、カーテンコールに応える役者よろしくダンテは恭しく会釈すると、ハムレットの最期の台詞を口ずさみ、幕引き代わりの銃弾を天へと放った。 大聖堂の正面に鎮座する、最後の地獄門の前へとダンテはやって来た。腕には閻魔刀を携えている。聖堂の地下に突き立てられていたのを引き抜いて来たのだ。つまり目の前の巨大な石板には強大な悪魔を通す力は最早無い。しかしダンテは閻魔刀をモノリスへと掲げ、ひとりごちた。 「大した建築物なんだが、悪影響だからな」 そう、今だそれが悪魔を魔界から呼び寄せる厄介な装置であることには違いないのだ。 直後鞘走った鋭利無双の一撃が横凪ぎに巨石に吸い込まれる。 次いで幾筋もの剣線がその後を追って石面に閃き……鐘の音にも似た高らかな金属音と共にダンテが納刀すると、ひと呼吸の後にただ一本の線で両断された石板の上半分がずるずると滑り落ち、もうもうたる土煙を上げた。 ただの石塊と化した地獄門の残骸を眺めるダンテの背に、歩み寄る人影がある。 「取り戻した?」 「コイツはな」 尋ねたトリッシュに左手の閻魔刀を示すと 「残りは……」 彼女は呟くが、それきり言葉を切った。ダンテも特段無言のままだ。二人の視線の先、やっと収まった土煙の向こうには、依然として浮かび続ける「神」が居る。 「助けは必要?」 ややあって、トリッシュがダンテを振り返ったが、ダンテは相棒をちらりと見て 「いや、別にいい」首を振り、閻魔刀を肩に引っ掻けた。 「住民の避難を頼む」 「了解」 トリッシュは歩み去り、ダンテは「神」を眺め続けている。 大聖堂の尖塔の天辺にすとんと降り立った背中に 「地獄門を破壊するとはな」 声を掛けられ、ダンテは目も眩むような足場の上でいとも気安く振り返り、宙空に羽根を広げた「教皇」を見た。眼下には破壊された街、そして彼の周囲には彼に付き従う「天使」の「騎士」が無数に飛び交っている。 だが、ダンテの軽口が影を潜めることはない。 「眺めが良くなっただろ?さて―――そろそろ遊ぶか?」 「そのためにそこに登ったか。貴様では神に触れもせぬわ!」 「ちょっと違うな」 傲然と宣言する教皇にダンテは首筋をちょんちょんと指して見せた。 「見下ろされたくなかっただけだ」 「減らず口を!いつまでそんな態度が続くかな?」激昂する相手に「死ぬまでさ」けろっとして笑い、次の瞬間、無数の「天の騎士」達がダンテの元へと宙を走って殺到する。が、 彼らは全てダンテの踏み台と化した。抜きもしない閻魔刀ではたかれ、或いは槍を捕まれて引き寄せられ、投げつけた閻魔刀に叩き落とされ(教皇は流石に、というべきか、これを見事にかわしたが)愉しげな声を上げたダンテが宙で閻魔刀をキャッチして、逆の手で放ったリベリオンが「神」の石の体に突き立って……それは果たして瞬き一つの間もあっただろうか、それを足場にしてダンテが「神」の体に辿り着くまでに。 「おい、触ってやったぜ?」 にやにやしながら閻魔刀を持った手の甲でぽんと「神」の体を叩くダンテに 「へばり付いていろ、虫けらめ」 教皇は唸り、背を向けた……と思ったのも束の間、凄まじい勢いで突進をかけて剣閃を放った。 が、そこにダンテの姿は既にない。上か、下か……気配を探る背後の足場に降り立つ足音、振り返るより速く抜き射たれた銃弾が教皇の体を貫いた。だが…… ばらばらに弾け、地面へと落ちていくのは恐らくただの鎧の残骸だ。明らかに手応えが無さすぎる。 「本体は中か……」 呟いたダンテはやれやれと溜め息を吐き、正面の巨体を見上げた。 「まずはコイツの相手だな!」 宙を跳び、「神」の胸に着地したダンテは、そこに輝く青い宝珠に力の限り閻魔刀を突き立てた。 刀の割った傷口から光が漏れ、何らかの効き目があるかと思われたが、 「閻魔刀の力など、この神には―――通用せんわ!」 いい所で「神」が腕を伸ばしてきて掴まれそうになり、閻魔刀を残したまま宙へと逃げる。が、ダンテもただで転ぶ男ではない。 「外が駄目なら!」 腰の左右からエボニーとアイボリーを抜き放ち、両腕をクロスして構えると、息もつかせぬ連射を喰らわせる。迸った弾丸は、何と全てが閻魔刀の剣柄に一列に重なって命中した。先刻地獄門を破壊した時の、一ヶ所に加えた連閃にも勝る精密さだ。与えられた力により遂に閻魔刀は宝珠を砕き、その奥の、グロテスクな襞の合わせ目へ突き立った。 「中から壊すさ」 再び尖塔の上へ着地して、してやったりとばかりに顎を反らすダンテの前に、まるで赦しを乞うように「神」が倒れ込む。 「貴様……!何をした!」 顔を上げ、苦しげに喚く「神」……教皇の声を完全に黙殺し、ダンテは腕を拡げ、語りかけた。 「起きな、坊や。遊ぼうぜ」 ひととき、「襞」には何の変化もなかった。が…… 「ネロ!!」 一際強く、ダンテが呼び掛けるとそれは激しく蠢き始めた。まるで中から何者かが押し破ろうとしているかのように。そして、それに呼応するかのごとく、突き立った閻魔刀が妖しい光を放ち始める。 出し抜けに、襞の中から血飛沫を上げて異形の腕が姿を見せた。それは輝く掌でしっかりと閻魔刀の剣柄を掴み、肉の割れ目を一息に切り裂いた。 べしゃりと床に崩れ落ち、ふらつきながら半身を起こしたネロの耳に、「坊やの番だぜ」遠くこもったダンテの声が呼び掛ける。 「ヒーロー役はくれてやるよ、楽しみな」 それを聞いたネロは僅かの沈黙の後に軽く唇を噛み、「分かったよ……」呟くと、閻魔刀を地面に突き立て立ち上がった。握った刀に目をやって、力強くひと振りしたのち、歩きだす。 「俺が終わらせる!」 「そっちは任せる!神様の相手で忙しいんでな!」 軽い口調で言った途端に「神」の手がダンテを捕らえようと伸びてくる。その巨体に大ジャンプで飛びうつり、執拗に追ってくる腕を危ういところで次々にかわしていくダンテ。 「分かってる。ちゃんと働くさ」 割れた宝珠の向こうに行動を開始したネロを見送って 「行ってこい、坊や」 ダンテは笑い、呟いた。 「神」の体内最奥部。心臓に当たる臓器だろうか、巨大な球状の岩塊、その表面に開いた幾つもの穴の一つに捕らえられたキリエを見いだし、歩み寄ろうとするネロの行く手を 「貴様を利用することに固執して―――ダンテを野放しにし過ぎたか」 忌々しげに唸る教皇が遮った。 「知らねえよ。キリエを返せ!」 と吐き捨てるネロに教皇は今まで従ってきた者が何故逆らうと問う。 「いろいろムカついたけどな……お前はキリエを巻き込んだ!」 刃を向けるネロを教皇は嘲笑う。 「それは何だ?愛か……?」 教皇に魔剣を突きつけられたキリエがそれでもネロに微笑みかけ、光の中に取り込まれた。 「黙ってろ!」 ネロは閻魔刀を一閃し、衝撃波が教皇を襲ったが難なく跳ね返されてしまう。 危ういところでそれをかわしたネロだが、教皇の姿が消えたことに気づく。 「終わらせるぞ、坊や!」 狼狽するネロを勇気づけるかのように遠くダンテの声が響いた。 「すぐに片付ける!」 「調子に乗るなよ、小僧!貴様を倒すなど造作ない事よ!」 応じて叫ぶネロの背後に「神」の体内から教皇が現れ、衝撃波がネロを襲う。 が、それは振り向きざまに放ったネロの剣閃によって押し止められ、双方の魔剣が生んだ剣波が両者の間で激しい爆発を起こした。 「魔剣スパーダ!何故、力を与えてくれぬ!何が欠けている!」 打ち負かされ、とどめの一撃を辛うじてかわした教皇が上ずった声で魔剣に呼び掛けた。 「お前らの教えだろうが」見苦しくあがくその背中にネロは指を突きつける。 「スパーダは人を愛した。その人を愛する心が―――お前にはない!」 断じられ、逆上した教皇がキリエに剣を向けたがもうネロは怯まなかった。 「今度こそ助ける。待っててくれ」 低く呼び掛け、歩きだす。 「動けばこの女が……!」 脅し文句が終わらぬうちに、その目前にネロは無造作に閻魔刀を投げた。 魔剣に目を奪われた教皇がはっと気づいたときには、既にネロの異形の腕が眼前に迫っていた。一瞬のロスは余りにも大きく、「神」の体内に逃げることも叶わぬまま、天井に叩きつけられる。 次の半瞬、ネロは反した腕で閻魔刀をかっさらってそれを囚われのキリエに向かって閃かせ、くるりと体を反転させた。その背に教皇が落ちてきて、逆手に握ったネロの閻魔刀に貫かれ、赤黒い血を吐き出す。 戒めを解かれて倒れ込むキリエをネロは抱き止め、教皇は絶叫と共に自らの傷口から放つ禍々しい光の中に消えていった。 「待たせたね……キリエ」 腕の中のキリエにネロが囁きかけると彼女は瞼を開き、彼に気づくと腕を伸ばしてその胸元に頬をすり寄せた。 同じくネロも彼女を抱き寄せて、二人は強く抱擁しあう。 「終わったか」 リベリオンを掲げて受け止めた「神」の拳が動きを止めたことに気づき、ダンテは衝撃で上がったもうもうたる土埃の中、溜め息混じりの苦笑を漏らした。 軽く勢いをつけて向きを反らしてやると、それは軽い地響きをたてて拳を地につき、ただの石像のように微動だにしなくなった。 まるで始めからそうしていたかのような石像、その額に埋め込まれた青い宝珠をダンテがじっと見上げていると、出し抜けにそれを突き破り、キリエを抱いたネロが飛び出してきた。 しゃらしゃらと舞い落ちる青硝子を踏んで歩くネロを、キリエは見上げ、彼の首筋にそっと頬を寄せる。 「遅刻だな」 それを腕組みし、ニヤニヤ顔で見ていたダンテが声をかけた。 「謝ればいいのか?」 キリエを降ろしながら相変わらず可愛いげのない言葉を反すのに 「待ってたって事さ」 事も無げに応えた背後で、その時俄に獰猛な唸り声が上がった。 振りあおぐと、力を失いただの石像と化したかと思われた「神」が突いた腕を支えに身を起こそうとしている。 「しぶとい爺さんだな」 先刻までは彫像然として無表情だったその面が、憎々しげに食いしばった歯を剥き出しにしている……まるで誰かが乗り移ったかのように……のを目にし、両の腰からエボニーとアイボリーを抜いて歩き出したダンテの行く手を、ネロがずいとスパーダを上げて遮った。 「俺の街だからな。最後は―――俺の手で」 それを聞き、 「それもそうだ」 低く笑ったダンテは白銀と漆黒の銃を腰に納め、ネロからスパーダを受け取って、空いた手を「神」に向け、煽るようにひょいと振った。 「やっちまいな」 「神」を睨み上げていたネロがふと振り向く。胸の前で指を絡め、心配そうに見つめているキリエに 「すぐ戻るよ」 呼び掛けると、彼女はちょっとうつむいたあと、小さく笑んで頷く。それに同じ微笑みを返して、ネロは再び前を向き、見送る二人を背に歩きだした。 「右手がこうなった時、神を呪ったよ」 異形の右腕を握り込むと、それは彼に呼応して妖しく輝きだす。彼の行く手、最早腰も立たないのかこちらにたどたどしく半身を転じようとしているのは真贋はとまれ、まさしくその「神」だ。 早朝の空に土埃を撒く巨体を睨み付け、ネロは両の手をぱんと打ちつけた。 「ブチ殺してやりたいと思った……実行するぜ!」 「そうさ―――」 ネロは異形の拳を握りしめ、四肢をついて総身のあちこちから土煙を上げる「神」の眼前へ高々と飛び上がった。 「この腕はお前をブチ殺すためにあるって事だ!」 気合いの声と共に拳を繰り出すと、具現化した魔力の巨大な掌が「神」へとまっしぐらに伸びて、その顔にがっちりと食らいつく。 「この一撃で―――消えろ!!!」 烈帛の雄叫びと共にネロは拳を握り込み、「神」の顔はぞぶりと喰いちぎられて砕け散った。 周囲に衝撃波が走り、無惨に顔面を抉り取られた「神」が、今度こそ完全に力を失い、倒れこむ。 舞い散る凄まじい粉塵の中、ネロはつかのま「神」を倒した右手を眺め、小さくガッツポーズをするのだった。 噴水の水は半分がた漏れでてしまい、石柱は崩れ落ちて廃墟寸前になった聖堂前の広場。 吹き抜ける朝風に髪をそよがせ、立つダンテの背に 「感謝してる」少し居心地悪そうにネロが声をかけた。 意外な言葉に、らしくないな、とダンテは苦笑する。 「反抗の方がお似合いだ」 だが、ネロがそれにいつもの小生意気な態度を返すことはなかった。 あるいはそれが、そうと認めた相手だけに見せる彼本来の性格なのかもしれない。 「かもしれないけど―――助けられたしな」 ネロはダンテをまっすぐに見て、穏やかに礼を言った。 「気にすんな。こっちもワケありだ」 するとダンテは鷹揚に笑ってうなずき、ネロの肩を軽く叩いて 「元気でな」 彼らしい、そっけないほどあっさりとした挨拶を最後にすたすたと歩き出す。 何か言いかけて、しかし結局ネロは無言で俯き、そのまま二人は別れ…… るかと思われたが、 「待てよ」ネロがダンテを呼び止めた。 「忘れ物だ」 振り返り、自分に向かって掲げられた閻魔刀を目にしたダンテは一瞬片眉を上げる悪戯っぽい笑みを見せたが、それはすぐに消え、何故か妙にまじめくさった表情になった。 「やるよ」 「ナニ?」 が、口調は以前似たような事を言った時とほとんど変わらず、あたかも余った飴でもくれてやるかのように軽いので、以前にも増してネロは面食らい、さっき閻魔刀を差し出す前にちょっと惜しげな顔をしたことも忘れて、大切なんだろ?と訊き返す。 「何か問題でもあるか?俺がそうしたいんだ」 眉を寄せるネロは気付いているだろうか。 教皇が言った「スパーダの血族」の意味を。「兄の物」「家族の形見」と言ったそれをダンテがネロに託すわけを。 (英語なら、更に「お前を信頼してるからだよ」的なことを言います) 「お前も好きにするといい」 とまれ、ダンテはそう言い残すなり再び踵を返した。 「ダンテ!」 遠ざかる背中にネロが呼びかける。 「また会えるか?」 さっき口にできなかった問いだろうか。その返事は背を向けたまま、揃えた二指をちょい、と振っただけ。そのまま彼は大股に歩み去っていった。 自分と同じ銀髪の、自分より少し背の高い影が格子の上がった門の向こうに消えるまでを見届けて、ネロは右手の閻魔刀に視線を向けた。 恐らくは、彼自身にとってもそうと気づかぬ形見である刀が輝き、異形の腕に吸い込まれると、 「これで……終わったの?」 気遣わしげな囁きが背中にかかった。 「たぶんね。たぶん……」 悲しそうに辺りの惨状を見回しているキリエに従って、同じように見回しながら返すいらえの言葉尻はあいまいな呟きになった。 悪魔たちはもう現われないのだろうか? ほんとうにこれで終わりにできたのだろうか? 「街がボロボロ……」 「そうだな」 長い、余りにも長い一日の間に余りにもたくさんのものが壊れ去ってしまった。 溜息のようなネロの同意に、再びキリエが問いかける。 しかし今度の問いは微笑みと共に、 「でも……私はまだ生きてるのね?」 囁く声はむしろ力強ささえ感じさせた。 「ああ」嘆息を微笑に変え、「君も、俺も」頷いたネロは歩み寄りかけてふと右手に視線を落とした。 「キリエ。俺が悪魔でも―――人間じゃなくても―――平気なのか?」 異様な光を放つ、人のものではありえない右手を胸に抱え、ネロは小さな声で問いかける。 彼ががためらい、開けた一人分の距離。それをキリエは躊躇することなく詰め、ゼロにした。 「ネロはネロだから」 異形の手をもどかしげに引き寄せて、細い両手で包み込み、優しく胸に抱く。 「私が大好きな―――誰よりも人間らしい人だから」 その言葉にネロは曇らせていた顔に笑みを取り戻し、キリエの首筋にそっと腕を回した。 不思議そうに瞬きしていたキリエが視線を落とすと、胸の上には幾たびの受難にあったあのペンダントがやっと本来の持ち主のもとに帰って朝日に輝いていた。 二人は笑みを交し合い、見つめ合う瞳はやがて真剣な色を帯びる。 どちらからともなくそのまぶたが閉じられて、ネロはキリエに頬を寄せ、その唇を奪……う直前、やおらブルーローズを真横に向けてブッ放した。 「そんな気はしてたさ」 きょとんとしているキリエを尻目に、溜息をついて周囲を睨みつける。 今しがた門扉に叩きつけてやったのを除いても、十匹以上の悪魔が恋人達をからかうように輪になって、下卑た声を上げながら踊り狂っている。 やはりあれで終わりではなかった。 悪魔はもう現われないなんてことはなく、これからも奴らとの戦いは続くのだろう。 人間が諦めず、生きて戦い抜く限り。 「キスはお預けだ」 背後のキリエを振り返ると、 「いいの」 彼女ははにかんだ笑みを見せて胸元のペンダントをそっと握り締めた。 「……待ってる」 こころなしか、なんだか幸せそうだ。 「ありがとう」 ネロは銃を持った拳で鼻をこすり、歩き出した。 「さて……」 彼に向け、悪魔たちが一斉に宙を飛び、殺到してくる。 左手のブルーローズを牽制に、ネロは異形の右手を引き絞った。 「遊ぼうか!」 「助かったわ。私の仕事も安泰」 やってきた昔なじみはそう言いながら、銀色のアタッシュケースをデスクの上に滑らせた。 が、ダンテは相変わらず机をオットマン代わりにするお行儀の悪い格好でグラビア雑誌を読みふけり、そちらに視線を遣しもしない。 代わってうきうきとした足取りでやってきたトリッシュがアタッシュを引き寄せて開いたが、中には丸められた(……つまり、丸められるだけの厚さしかない)ドル札の筒が一本きり。 「それにしてはちっぽけな報酬ね。“誠意”って知ってる?」 重さで気付いたのだろう、引き寄せた瞬間から加速度的に雲行きが怪しくなっていったトリッシュが、紙筒をためつすがめつしながら皮肉ると、 「あら?スパーダを持ち出して、話を混乱させたのは誰?」 負けじと挑戦的な笑みを浮かべた昔なじみが、煽る気満々のシナを作って相手を睨み上げる。 しばし恐るべき女二人の恐るべき視線がばちばちと火花を散らし、そののち二人は申し合わせたように標的を変えた。剣呑な二対の流し目を向けられたダンテは一瞬らしくもなく目を白黒させた後、おもむろに雑誌を目元に引き上げ熱視線を遮ろうとしたが、トリッシュがそれを取り上げぴしゃりと卓上に叩きつける。 「おい、今いいトコなんだ!」 抗議もものかは、据わった視線を相棒に縫い付けたまま 「ダンテの意見は?」 トリッシュは尋ねたが、どうやら半分人間のクセに(というか半分人間だからなのか)ダンテは悪魔のトリッシュよりも金銭に執着がないらしい。 「貰えるモノは貰う。だろ?」 絶対使い方間違ってるセリフをしゃあしゃあとのたまい、彼は再び雑誌の世界に没入し始めてしまった。 ハア!?とか言い出しそうなトリッシュを尻目に 「じゃあ―――商談成立ね」 にっこり笑って宣言した古なじみが踵を返し、トリッシュがやれやれとでもいいたげな視線を涼しい顔のダンテにぶつけていたその時、ダンテの足に蹴り落とされることなくデスクの端に乗っかっていた電話が、アンティークな外見にふさわしい呼び出し音で鳴りだした。 「“デビルメイクライ”」 歌うように応じたトリッシュは、一拍の後、何故か戸口に向かった足を止めてこちらを見ている昔なじみに眉を上げてから、傍らの相棒に目をやった。 「合言葉アリの客よ。すぐ近く。どうする?」 彼女の表情がなんとも言えずニンマリしているのは何故だろうか、いうまでもない。 ダンテはやおら雑誌をぴしゃっと閉じて机に投げ、立ち上がった。 「決まってる!」 真っ赤なコートの裾を勢いよくはらって、机上に放り出していた白銀と漆黒の銃をかっさらい、長剣を背中に引っ担ぐ。 左手でエボニーをスイングし、右手でアイボリーをくるくる回しながら歩く横顔は鼻歌でも歌いだしそうな薄い笑みを浮かべていて、さっきまでとは大違いだ。 「私も行くわ」 その行く手を塞いだ古なじみが言うと 「好きにしろ。タダ働きだがな」 陽気に両手を広げ、さっきのトリッシュみたいに節回しをつけながら歌ってその脇を戸口へと向かう。 「他に趣味がないのよ。貴方もでしょ?」 背に担いだ物騒なブレード付きのランチャーを揺らして昔なじみが振り向くと、 「まあね」 トリッシュが答え、彼女に肩を並べた。 「行くか」 ダンテが勢いよく扉を蹴破り、三人は景気づけの花火とばかりに銃を乱射するのだった。 「Com’on Babes, Let’s Rock!!」
https://w.atwiki.jp/storyteller/pages/1049.html
デビル メイ クライ 4 (Part1/2) ページ容量上限の都合で2分割されています。 要約 part35-570、part36-395 詳細なストーリー part35-562~569、part36-388~394 以降、2008/05/31~2009/4/3にWikiに直接投稿 悪魔でありながら魔から人間を護った魔剣士スパーダ。 彼を「神」として崇める「魔剣教団」の大祭の日、謎の男(プレイヤーには既知だが正体はスパーダの息子ダンテ)が現れ、演説中の教皇を殺害してしまう。 騎士団長クレドに命じられ、教団騎士ネロ(何故か右腕だけ悪魔パワー保有。でもみんなにはヒミツ)は男を追う。 道中何故か続々現れる巨大な悪魔を片端からブッ倒すものの片っ端から逃げられ(or新手が現れ)微妙に消化不良になりつつも先を急ぐが、途中教団員アグナスにより自ら召還した悪魔から人々を護ることで信仰を集めるという教団の自作自演救世主計画を明かされる。 更に教皇をはじめ教団員の大部分が帰天と称した悪魔との融合を果たしていたのだった。 隙を突かれてピンチになるネロだが、何故か不思議パワー(スパーダの血族なのらしい)で研究材料らしい謎の日本刀(ダンテの兄の形見閻魔刀)を腕に取り込みアグナスの魔の手から脱出。 その後教団本部でクレド(勿論悪魔と融合済)ともバトルになり、悪魔パワーで勝った所をクレドの妹で幼馴染のキリエに見られてしまう。(アグナスがネロを動揺させるために連れて来た) キリエを人質に取られたネロは既に復活していた教皇に挑むが召還された神(という名のでかい石像。勿論こいつも悪魔)の中に「神」完全復活のための礎として閻魔刀(もともと魔界と人間界を分けるための封印の鍵だった)ごと捕らえられてしまう。 ネロを救おうとして返り討ちにあい、虫の息のクレド(妹を利用されたことに憤り裏切った)に頼まれたこともあり、これまでちょこちょこネロに絡んできてたダンテがネロとプレイアブルキャラをバトンタッチ。本格的に事態の収拾へ動き出す。 (つってもネロが逃がした巨大悪魔を片っ端から倒して召還の鍵になってた魔具に戻し、奴らが出てきた魔界の門(魔具が鍵?)を閉じる(壊す)だけ。あとアグナスもついでに倒した) 最大の門を開く鍵になってた閻魔刀を取り返したダンテがそれを「神」体内のネロにパス。 ネロは「神」体内で教皇をブチのめして先に捕らえられてたキリエと共に脱出。 ダンテとネロによって外と内からボコられてボロボロ状態の「神」を、ネロが灼熱ゴッドフィンガーでトドメ刺してエンド。 ダンテはネロに閻魔刀預けて帰った。ネロはキリエとチューしようとするのを悪魔に邪魔されエンドロールでボコりまくる。 裏エンド(エンドロールで規定時間キリエ護りきったら発生) 事務所に帰り雑誌読んでくつろいでるダンテの前で今回の依頼者であるレディと相棒のトリッシュが依頼料の事で険悪に。 辟易としている所で「合言葉」の電話がかかってきて、ダンテ(とトリッシュとレディ)は嬉々として新たな悪魔狩りに向かうのだった。 562 :DMC4:2008/03/04(火) 10 38 08 ID SEvVVZ/50 夕暮れに沈む裏路地を、濃紺のコートの裾を翻してまっしぐらに駆ける影がある。 辺りには家路を急ぐ人影もなく、ただ宵風に吹き散らされた紙くずが寂しげに舞っているばかりだ。 暮れなずむ街並の向こうには、夕日を浴びた聖堂の尖塔が白々と光っていた。 パイプオルガンの荘厳な音色が薄暗い聖堂のうちに満ちていく。 舞台の上にスポットライトが降り注ぎ、修道女を連想させる慎ましげなデザインのドレスに身を包んだ女性を照らし出す。 金の冠に飾られた頭をゆっくりともたげ、満場の聴衆を見渡すと、 女性はいまだあどけなさの残る瞳を祈るように静かに閉じて、大きく一つ息を吸った。 伸びやかな歌声が篝火の下、目深にフードを被った人の群れを俯瞰して流れ出す。 駆けどおしに駆けてきたコートの若者の足が唐突に止まる。 その行く手に異形の者たちが現れて、道一杯に立ち塞がっていたからだった。 怯える事もなく、背を向けることもなく、若者はむしろ射すくめるように悪魔たちを睨みつけると、 銀の髪を流星のように煌めかせ、敵に向かって一直線に駆け出した。 明るい栗色の髪を揺らし、腕に掛けた黒いショールをそよがせて、訥々と、語りかけるように彼女は歌い続ける。 首に引っ掛けたヘッドフォンを構いつけもせず跳び蹴りで数匹をまとめて吹き飛ばし、 同じく数匹を左腕一本でまとめて殴り倒し、振り下ろされた剣を左手で受け止めてそいつごと振り回し、 奪った剣を左手にたずさえて更に次々と敵を屠っていく。 使っているのは左手だけだ。右手は怪我をしているのだろうか、ギプスで固められ、包帯によって吊られていた。 間奏の間、聴席を見渡していた女性が眉をふと曇らせる。 満員の座席の中、彼女の視線の先の席だけが空っぽのままだ。 563 :DMC4:2008/03/04(火) 10 38 35 ID SEvVVZ/50 壁を走り、飛び石渡りに悪魔たちを蹴りつけながら若者は剣を振るう。 曲芸というにはあまりに人間離れした動きで宙を駆け、地に着くまでに何匹もの悪魔が塵に返った。 「賛美歌」を歌う彼女の背後を巨大な像が見下ろしている。 「神像」であるはずのその石像は、しかし奇妙なことに悪魔のような角を生やしているのだった。 壁に地に、叩きつけられて爆散する敵を省みる事もなくその脇をすり抜け、若者は猛烈な勢いで駆けていく。 その背を見送る裏路地からは異形の影は一掃されて、再び寂然とした静けさだけが横たわっていた。 透き通ったソプラノの余韻が高天井に消え、入れ替わりに穏やかな拍手が聖堂を満たした。 一旦はそれに笑顔で応えたものの、すぐに再び気遣わしげな表情に戻ってしまった彼女は 辺りを見回し、とある一角に目を留めた所で再び眉を開く。 そこに居たのは彼女の幼馴染。 肩を背もたれに引っ掛けるような、いささか不遜な態度で席についてはいるが、 彼女の晴れ舞台を見るために随分急いで走ってきてくれたのだろう、 息を切らした様子で気だるそうにこちらを眺めている。 それを証拠に彼女の視線にかち合うと、彼は肩をゆすり上げながら皮肉げな、 にもかかわらずどこか温かみのある微笑を寄越し、 そこではじめて彼女の頬に気恥ずかしげながらも嬉しげな、花のような笑みが浮かんだのだった。 沈みかけた夕日は更に熟し、尖塔を赤々と染めている。 冷たさを増した宵風に、その残照よりもなお赤い、血の色をしたコートを翻す影がある。 煤けたビルの立ち並ぶ裏通り。 そのうちの一つの屋上に陣取って、彼は泰然と聖堂を眺めている。 落日を跳ね返して輝く髪は銀、背には不釣合いなほどに長大な、抜き身の剣が光っている……。 564 :DMC4:2008/03/04(火) 10 39 20 ID SEvVVZ/50 「今より2000年前―――魔剣士スパーダは悪魔でありながら、我ら人間のために剣を取ってくださった―――」 彼を迎える盛大な拍手が収まると、白を基調にした豪奢な僧衣に身を包み、 同じく豪奢な赤みがかった金の飾りのついた白い僧帽を戴いた老齢の男はしわがれた、 けれども朗々とした声で語りだした。 悪魔スパーダを讃える言葉、けれどもそれはこの場においてなんら異常なものではない。 老僧の背後に佇む巨像が悪魔の角を生やしているのもむべなるかな、 聖堂を埋めている人々が崇めているのは他でもない、この像の元となった魔剣士スパーダ、 2000年前、人の情に目覚めて魔帝の蹂躙と戦い、人間を救った悪魔なのだった。 満座の信者たちは一心に、長々と続く老僧の説教に耳を傾けている ……たった一人、遅刻してこの場に現れたあの若者を除いては。 背もたれに腕を引っ掛けた、でかい態度はそのままで、あっちを見たりこっちを見たり、 片胡坐を組んだ足をその心情を表すかのようにふらふらと苛立たしげに揺らしてみたり溜息を吐いたり。 コートの腕に教団のシンボルを赤く縫い取ってある所からすれば、 彼もこの教団で何らかの役についている者には違いなかろうに、 あるいはそれが見間違いではないのかと思えてくるほどの不信心ぶりである。 聖堂の壁際に居並ぶ、恐らく聖騎士達だろう、腰に剣を携えた一団の先頭に立つ、 あごひげをたくわえた壮年の男……恐らく彼らの中の最上位にある者なのだろう、 彼だけがフードを被っておらず、暗い栗色の総髪をむき出しにしている……が苦虫を噛み潰した 白眼を寄越したが、若者はそれに気づいているのやら居ないのやら、 挙句の果てにはヘッドフォンから盛大に音漏れをさせながら足を組み替え、 迷惑顔の隣席の信者を睨み返して目を逸らさせたりする始末だ。 が、だからといってまさか尊師の説教の最中に怒鳴り散らして注意するわけにもいくまい。 壮年の男は自らに「自分は何も見なかった」とでも言い聞かせるかのように、 険しい顔を前方に振り向け、老僧の説教へと意識を戻した。 565 :DMC4:2008/03/04(火) 10 44 36 ID /KKUBqvh0 そんな若者の所へ歩み寄ってくる者がいる。 儀式用の冠とショールを脱いだ、あの歌姫役の女性だ。 しかしその姿に気づくや、先刻彼女に向けた笑みはどこへやら、 若者はしかめっ面のままむっつりとそっぽを向いてしまった。 ご丁寧にさっきまでは首筋に引っ掛けていただけだったヘッドフォンを ボリュームを上げさえして耳元に押し当て「何も聞きませんよ」と言わんばかりだ。 彼女は戸惑って視線を落とす。 と、その目の先、彼の隣、ちょうど彼女が座れるくらいに空いた端の座席の上に、奇妙なものを発見した。 青いリボンで飾られた、細長い青い小箱だ。 彼の態度の理由……目を合わさないのではなくて、合わせられない……に気づいた彼女は ぱっと顔を輝かせ、彼からのプレゼントを大事そうに胸に抱いて、 それで更に横を……もうほとんど真横を向いてしまった彼の傍らに、そっと腰を下ろす。 すると、それをちらりと尻目にした若者は、彼女のドレスを汚さないためだろうか、 さりげなく、組んでいた足を床に戻した。 説教は正に最高潮を迎えていた。 「どんな困難が我らを襲おうとも、神が必ず救ってくださると信じて、祈るのだ……」 呼びかけ、彼らの作法なのだろう、独特な形に手を組んで頭を垂れた老僧に倣い、 信者たちが次々と同じく手を組み頭を垂れる。 穏やかなパイプオルガンが神聖な雰囲気をいや増し、例の若者もこの時ばかりは ……と思いきや案の定、気味の悪い物でも見るように片眉を上げて周囲に首をめぐらすと、 忌々しげな息を吐いてヘッドフォンを頭から引っぺがし、やおらむくりと立ち上がった。 「ネロ……どうしたの?」 驚いた女性が顔を上げ、囁き声で問いかけてくるが、 ネロと呼ばれた若者はその問いを押し戻すように顎を突き出して「帰るのさ」と囁き返す。 「お祈りが……」 こちらはまっとうに信心深いらしい女性が早口で引きとめようとしたが、うんざりと目を閉じたネロは 「眠たくなるだけだ」 不信心者全開ないらえもそこそこに、さっさと席を立ち、歩き出してしまった。 ちらりと説教台のほうに目をやったものの、仕方なく女性もその後を追う。 が、彼はほんの数歩を歩いただけで立ち止まってしまった。 気遣わしげな女性の視線を背に受けて、しかしネロはギプスで吊った己の右手を当惑した風に見下ろしている。 それもそのはず、その背に隠れて彼女からは見えないが、まるで「何かに反応するかのように」 包帯の内側からじわりじわりと青い光が脈打ちながら漏れ出していたのだった。 彼は続いてその「何か」に糸で引かれたかのように視線を移動させ、はっとして背後を振り仰いだ。 その背後、説教台の、ちょうど真上を。 566 :DMC4:2008/03/04(火) 10 48 32 ID /KKUBqvh0 できの悪い雨さながらに、大小まばらに砕かれたステンドグラスが降り注いだ。 深紅のコートを翼のごとくひらめかせ、何者かが飛び降りてくる。 常人ならば重傷必至の高さだというのに躊躇いも戸惑いもない動作。 重い着地音、しかし彼は自らが常人でないことをその着地によって証明した。 すべてがゆっくりと動く時の中、ゆるゆると男が頭を上げて、 銀髪の隙間から銀に近い青の目が相手を睨む。 驚きと恐怖と困惑と、老僧はそれを表情にするくらいしか出来ない。 後は僅かに身を引けただけ、その彼に向かって……男が一瞬で銃を突きつけ、引鉄を引いた。 何の躊躇いもなく、戸惑いもなかった。 轟音、マズルフラッシュ。薬莢が跳ね、澄んだ音を立てる。 騎士団長が息を呑む。 今更のように信者たちが祈りから覚め、顔を上げる。 男が説教台の上に立ち上がり、こちらを向こうとしていた。 無表情にすがめた目、色の薄い、感情の感じ取れない、目。 その肌には何かを投げつけられたように赤い色が……いや、違う。投げつけたのは男自身だ。 水溜りに石を投げつければ投げ付けた者が水を浴びるのは当然のこと。 男がしたのはそういうことだ。 老僧という、血と肉の水溜りに、銃弾という名の石を投げつけ、結果、男の顔にはベッタリと、 血糊という名の泥水が張り付いていた。 血まみれの顔を、男が僅かに歪める。笑ったようには、とても見えない顔だった。 だが、周囲の人間にはそれだけで十分な効果があった。 転がるがごとく、そして実際に何人もが転びながら悲鳴を上げ、逃げ出す。 「教皇!」 一喝するように叫ぶや、騎士団長が剣を抜く。 彼の声に弾かれて、騎士たちが次々と、流れるように剣を抜いた。 パニックの奔流の中で、ただネロだけが突き立てられた杭さながらに動かなかった。 怯える幼馴染を背後に、訝しげな視線を男とギプスの間に往復させている。 殺到してくる騎士達を男は首を傾けて見守っていたが、 彼らが間合いの内に入るが早いか出し抜けに背の大剣に手を掛け、襲い掛かった。 挨拶代わりの説教台からの跳び蹴りを皮切りに、剣闘劇の幕が開く。 567 :DMC4:2008/03/04(火) 10 51 26 ID /KKUBqvh0 何らの比喩もない、それは正に、劇というのに相応しかった。 不意を突こうと突くまいと、騎士たちの行動は抵抗の真似事でしかなく、 まるで示し合わせた台本でもあるかのように虐殺されることしかできなかったのだ。 ただ驚くだけで殺された、先刻の教皇とほんの少しの違いもあったかどうか。 前から加えた攻撃が体ごと弾き飛ばされるのは当然のこと、 後ろから斬りかかった剣ですら男はあっさりと受け止めて、 蹴飛ばす先にはちゃっかりと巻き添えを見込んでいる。 男に蹴倒された騎士の胸から、潰れるような苦鳴とともに血がしぶくのを見て、 ここでネロがついに行動を起こした。 だがそれは騎士たちに対する加勢ではない。それは彼にとってごくごく自然な決断、自明の理だった。 当然の事、説教の最中に「眠くなるから帰る」などという男がそれと天秤に掛けられて、 教団への愛だの忠誠心だのの方を取るわけは無いのだ。 「それ」つまりは、悪魔を蹴倒してでもその歌を聴きに、そしてプレゼントを贈りに来る相手。 要するに今現在彼の背後で震えている幼馴染。 彼女の指に自らのそれを絡め、ネロはその手を引いて走り出した。 急に引っ張られたせいで彼女の指から小箱が零れ落ち、逃げ惑う信者たちの一人に踏み潰される。 取りに戻ろうと身を捻るが、ネロがそれを腕で押し止め、 彼女は後ろ髪を引かれる様子ながらもやむなく彼に背を押されて出口へ向かった。 「くそ……!」 部下たちの築いた刃の盾の影。倒れている教皇の枕元に跪いた騎士団長の喉から絶望の呻きが漏れる。 男は難なく扱ってはいたが、あれだけの大口径の銃で真正面から頭部を撃たれては、 どんな名医でも手のつけようがない。 彼が呻吟する間にも、男は彼の部下たちを次々と屠っていく。 剣圧によろめいた肩を捕まえて腹に剣を突き立て、引き抜くのも面倒だといわんばかり、 そいつをハンマー代わりに前後の敵を叩き潰し、仕上げにぐるんと、 それこそ悪趣味なハンマー投げそこのけに一回転させて なぎ払った周囲の敵ごと天井近くまで吹き飛ばす。 こうまで子ども扱いにあしらえるのなら、相手が煩い小蝿程度にしか見えぬだろうに、 彼はこの場をさっさと逃げ出して、その相手をする手間を惜しむようなことはしなかった。 一匹たりとも逃がさんとでも言うつもりか、まるで見せ付けるかのようにわざわざ残酷なやり方で 男は騎士達をしらみ潰しに鏖殺していく。 一発の銃声から始まった狂乱は爆発的に膨れ上がったが、悲鳴の主達が或いは命からがらに逃げ去り、 或いはその命ごと簒奪者に握り潰されて消え去るに従って収束していった。 残っているのは逃げおおせた者達の絶叫の余韻と、僅かな逃げ損ないの立てる上擦った靴音のみ。 護衛者たちが根こそぎ平らげられたのにも気づかない騎士団長の背後に、 相手をなくして退屈したのか、大剣の峰でトントンと首筋を叩きながら男が現れた。 ああ、まだ肝心のが一人残っていたか。 そんな顔で刀を下げると、動かぬ教皇の躯を未だ抱きかかえて呆然としている無防備な背中に近づいていく。 568 :DMC4:2008/03/04(火) 10 55 56 ID /KKUBqvh0 ネロに導かれ、出口へ向かっていた女性がそれに気がついた。 脱出する直前振り返ったのは、どうしてもその安否が気になったからだろう。何故なら彼は――― 「クレド兄さん!」 全体重を掛けてネロの手を振り払い、走り寄る。 「キリエ!」 慌てた様子でネロが手を伸ばすが、間に合わない。 その細腕で何が出来るというのか、それでも彼女は兄を救おうと必死で走ったが、 その努力がかなう事はなかった。 倒れていた聖堂騎士の一人が、最後の力を振り絞って男の背後から斬りかかったのだ。 当然の如く騎士はあっさりと返り討ちに合い、吹き飛ばされた彼にキリエはまともにぶつかってしまった。 手ひどく床に全身を打ち付けて、しかしなおも起き上がろうと上げた懸命に顔にうっすらと影が差す。 今更ながら感じる痛みと恐怖に震えながら見上げると、男がこちらを見下ろしている。 剣を向けてはいないものの、その、無表情なまなざし。 それだけでキリエは竦みあがり、悲鳴を上げることさえままならない。 けれど、彼女が男に突き殺されるようなことにはならなかった。 傍らから上がった獰猛な雄たけびに、ハッと上げた男の顔。 その正中線ド真ん中にネロは一足飛びに駆け寄ったダッシュの勢いを殺さぬまま、渾身のドロップキックを食らわせる。 それはごくごく当然の結果、まったく判りきった自明の理だった……彼にとっては。 自分が属していた組織が壊滅の危機にあってさえ、まったく構いつけようとせずに さっさと連れて逃げようとした相手が、天秤の向こう側に乗っかってしまったのだ。 どっちを……つまり逃げるか戦うか……を選ぶかは、いや、選ぶまでもない、 彼の天秤はどちらの皿にキリエという錘が乗るか次第であるのだから、とっくに決定された事項だった。 569 :DMC4:2008/03/04(火) 10 56 50 ID /KKUBqvh0 着地した途端に銃を抜き、引鉄を引く。 ワンアクションで二発の弾が発射され、吹っ飛んだ男の心臓を正確に狙ったが、 相手は寸での所で長剣を翻し、二発とも叩き落した。 そのままスパーダ像の頭部に剣を刺し、それを足がかりに着地した男は、 しかし再びその柄を抜いて前方に突き出した。 それで飛び掛ってきたネロの蹴りを受け止めるためだった。 次の瞬間、スパーダ像はなお深く額を剣で穿たれ、 男とネロはそれぞれがそれぞれの銃を抜いて両肘の上に別れて睨み合っていた。 ……男はそれぞれにピアノのエンブレムをつけた銀と黒の二色の二丁拳銃を。 ネロは青い薔薇の意匠を施した二連筒の銃を。 「ネロ!」 ようやっと立ち上がりながら、キリエが悲鳴じみた声を上げた。 「キリエ!」 何も言わせないと拒絶するように、ネロが厳しい声を今にも泣きそうな彼女の言葉尻におっ被せる。 その声色を読み取ったかのごとく、クレドが駆け寄ろうとするキリエを背中で押しとどめた。 「クレドと逃げろ!」 その間にも、男は値踏みするかのような視線を睨み上げる騎士団長と、 この新たな跳ねっ返りの敵に交互に向けている。 「応援を呼ぶ!死ぬなよ!」 このさっきまでの状況を見ていれば死ぬまいと思っていれば死なずに済むとは到底思えず、 従ってそれは無茶な注文にしか聞こえないのだが、 剣を掲げたクレドのその叫びは、或いは彼のネロに対する信頼の証かもしれなかった。 教皇を担ぎ上げた生き残りの騎士達と、クレドに押し出されるように駆けていったキリエの姿が見えなくなると、 「期待せずに待つさ」 ネロは呟き、頭を一つぶるんと振って、ヘッドフォンを放り捨てた。 388 :DMC4:2008/03/09(日) 08 49 46 ID 2qo49zkV0 書き手&まとめ人のみなさんおっつーです まだ埋まってないみたいなので埋めいっときます。ノベライズでごめんね(´A`)ノシ 季節はずれの蝉に似た、耳障りな喚きが虚空に消えるのを待つこともなく、ネロは出し抜けに発砲した。 眉間に迫った弾丸をふっ、と身を沈めて難なくかわした相手へ即座に銃口を下げて更に一発。 だが砕かれた石像の欠片が跳ねたのみ、男は猛禽のように両腕を広げ、とうに宙へと逃れている。 気付くやそれを追って跳躍したネロは、両足をあぎとのごとく大きく広げ、がっちりと敵を捕まえた。 向けてきた左腕を右脚で挟んで黒銃の矛先を避け、間髪入れずに伸ばされた右腕を 左足で絡め取って銀銃の火線を逸らさせる。 相手の胸板の上に胡坐をかいたような姿勢から今度はこちらの番とばかりにネロのブルーローズが火を噴いたが、 男は喉を反らして鼻差でかわし、固められた腕を逆手に取って、それを支点に巴投げのようにネロを投げ飛ばした。 が、「うわっ」と一旦は驚きの声を上げたものの、それで引き下がるようなネロではない。 投げの反動で広がった男のコートの裾を引っつかみ、生じた遠心力を上乗せして男を投げ返す。 きりもみ状に身を捻り、つい数刻前と同じようにスパーダ像の頭部に着地した男が、数刻前と同じようにはっと顔を上げる。 ロケット弾の勢いでネロが男の頭上に落下してこようとしていた。 しかし、その攻撃もまた男に逆手に取られることとなる。 ひょいと身を引くと同時に彼は再び宙へ飛んだ。ネロが跳ね飛ばした彼の剣を捕らえるためだ。 衝撃に澄んだ音をたてて鳴く獲物を手にするや、それを振りかぶって稲妻のごとく落ちかかる。 仰ぎ見て、ネロは咄嗟に銃を盾にするが、それで受け止めきれる衝撃ではない。 前のめりに足を踏み外し、スパーダ像とそれが杖にした巨大な魔剣の両面に激しく総身を打ちつけながら落ちていく。 伸ばした足と腰を突っかい棒に、背中全体をブレーキにして何とか像の脛辺りで落下を食い止め、 腹いせまがいに頭上に向かって発砲するが、勿論そんな闇雲な攻撃が効果を生む訳も無く、 男はあっさりそれをかわした。 すると像の頭上から魔剣の柄尻に組んだ拳へと、止まり木の間を渡るように ふわりと移動した相手を見たネロの喉から、遠吠えにも似た叫びが漏れる。 一旦腰を落として肩を沈み込ませ、壁に押し付けて彼は全力で「伸び」をする。 何たる怪力か、次の瞬間には魔剣を模した鉄塊が甲高い悲鳴を上げ、支えきれずに像の拳が轟音を立てて砕けた。 巨大な刀の先端で長剣を肩に担ぎ、悠然と待ち受ける男を目がけ、ネロは傾いていく刃の坂を駆け上がる。 けれどもネロが眼前に迫っても何故か男はもう銃を抜かなかった。 だからと言って剣を構えることもない。相変わらず何の苦もなく男が鼻先に放たれた銃弾を避け、 続く銃底での攻撃も避けて、二人はお互いの靴底を蹴りつけて左右に跳んだ。 耳を聾するような響きと共に、モニュメントの剣が観客席へともんどりうってダイブする。 着地したネロは男に銃を向けたが、照星の向こうの相手はやはりのんびりと剣を担いだままで、 殺気らしい殺気も見せない。 「余裕たっぷりだな」 そう言われて薄い笑いさえ浮かべた男に、ネロは低く吐き捨てた。 「ムカつく野郎だ」 389 :DMC4:2008/03/09(日) 08 52 15 ID 2qo49zkV0 ブルーローズの弾倉をスイングアウトして排莢したネロは、リローダーを放り投げ、 身を翻しながら宙に踊った六発の弾丸すべてを拾い、再装填する。 隙を極力殺すためのアクションだった筈だが、銃口を向けた先から標的の姿が消えていた。 構えを解く訳にもいかず、手をとりあぐねてそのまま僅かに乱れた呼吸を抑えつけつつ 気配を窺っていると、後ろからこつりこつりと靴音が響く。 挑発のつもりか、あるいは本気でそう感じているのか。 物珍しげな素振りで男が聖堂の装飾を見回していた。 「銃だけじゃ無理か……」 呟き、ブルーローズをくるりと回して仕舞い込むと、ネロは背後の床に刺さった長剣を蹴りつけた。 男の犠牲となった教団騎士のいずれかが残したものだろう、回転して落ちてきたそいつを掴み、 叩きつけるようにしてもう一度足元に突き刺すと、剣柄に仕込まれたグリップを捻る。 すると長剣はバイクのエキゾースト音そっくりの唸りをあげ、赤い光を発しながら身震いをした。 推進力を与えられたことにより破壊力を増す、教団特製の機械仕掛けの剣だ。 「その剣、飾りじゃないんだろ?」 こちらは掛け値なしの挑発に、振り向いた男は今はじめて気づいたかのように 「ん、これか?」とでもいうような視線を肩から下ろした長剣 ……剣の背に角を持った髑髏の飾りが刻まれている……に向けると、 おもむろにその剣先をこつんと床に当て、くいくいっ、と小さくひねって見せた。 大仰な挑発よりさりげないおちょくりの方が腹が立つ、 それを実証するかのような怒り心頭に発した雄叫びを上げて、ネロはまっしぐらに駆け出して行った。 けれど、怒りに任せた攻撃は長くは続かなかった。 加えて元より片手が封じられた状態で全力が発揮できる訳がなかったのだ。 ネロに合わせてくれたつもりか、男もまたほとんど片手のみで剣を振るってはいたが、 それにしたって元々体格差があり、バランス移動の点でも水を開けられている。 一合、一合、剣を合わせるごとに力の差が開く。 とうとう受けきれなくなり、背後に飛んで勢いを逃がそうとしたが、追いつかれて更に高い位置からの斬撃に襲われる。 これは何とか受けたものの膝をつき、必死に顔を上げたそこには既に、大きく剣を振りかぶった相手の姿があった。 辛うじてこれも受けたが最早その場しのぎにしかならなかった。 よろめき、たたらを踏んでついには圧倒的な力でもって剣を跳ね飛ばされてしまう。 きりり、と大剣を取り回して脇に引き付け、男はあくまで冷酷に、とどめの一撃を繰り出した。 390 :DMC4:2008/03/09(日) 08 56 53 ID 2qo49zkV0 無慈悲な刺突は、あやまたず丸腰の相手に迫ったが、 ここで一体何の悪足掻きか、ネロはその喉元を切り裂かんとする切先の前にギプスに包まれた右腕を突き出した。 カツッ、と硬い音がする。 だがそれはギプスの音ではない。 そんなものは何の意味もなく男の剣に突き通され、続いて生じた 周囲の座席全てが吹っ飛ぶような衝撃波によって跡形もなく消え去っている。 「……どういう仕掛けになってんだ?」 これまで終始無言を貫いていた男が事ここに至って初めて興味深げな声を漏らした。 「喋れるのかよ……」 荒い息を吐きながら、ネロは盾にした右腕からゆっくりと顔を上げる。 露になったその腕には、押し付けられた剣先を受け止めている事以上に異様な点があった。 まるで堅固な鎧さながらの赤と青の甲殻に覆われていて、殻の隙間からは眩いばかりの光が溢れ出している。 あのギプスは傷口を庇う為ではなく、この人ならぬ異形の右腕を隠すためのものだったのだ。 「だが、種明かしは―――してやれないな!」 小さな稲光すら発している右手の感覚を確かめるかのようにごくりと一度開閉させ、ネロは勢いよく腕を振り払った。 それだけで壁際にまで飛ばされた男は、 「まさかお前も……」 けれど何故か楽しげに鼻で笑って振り返ったが、その言葉を途中で途切れさせる。 本当にどういう仕掛けなのか、腕から生じた巨大なオーラの手で巨大な剣を掴んだネロが、 馬鹿力に物を言わせて……というレベルで済むのかどうか……それを投げつけようとしていた。 次の瞬間、必殺を期して飛来した鉄の固まりを男がすいっと上体を逸らすだけでかわし、 おかげで背後のスパーダ像の片膝に大穴が開いた。 惨状をかえりみて、しかしさすがに呆れ顔で再度振り向いた相手に見せ付けるように ネロはパンパンと掌の埃を払い、軽く肩を回した。「人が来る前に終わらせてやる!」 391 :DMC4:2008/03/09(日) 08 59 08 ID 2qo49zkV0 ばちんと小さくスパークが走り、男が彼の剣を受け止めたネロの右手に目をやった。 が、何をする間もなくネロが身を捻り、男は空に円を描いて投げ飛ばされる。 散乱していた長椅子が男の尻を受け止めて、背後の他の椅子達を掃除しながら滑っていったが、 それが山になって勢いが消えると、何事もなかったかのように椅子に座って脚を組み、 片肘をその上に乗っけてこちらをニヤニヤと眺めやる男の姿がある。 「まだやるか?」 欠伸さえ漏らしそうな様子で背もたれに寄っかかると、 「来いよ、遊んでやる」 床に突いていた剣を持ち上げ、肩で息をするネロをちょいと指して見せた。 「タフだな……」 毒づきつつ男に背を向け、床に突き立っていた剣を抜いて、そいつでとんと肩を叩いたネロの目に剣呑な光が宿る。 「じゃあ―――」 言いかけて、みなまで言わずに出し抜けに振り向くや、傍らの長椅子を男に向かって蹴りつける。 無論そんなフェイントが通じる訳もない。 男はそれを踏み台にして、スプリットした椅子の山を尻目に高々と跳ね、 だが、そこには鏡合わせに跳躍したネロがいる。 空中で一合、着地してすたすた数歩を歩き、振り返った男は更ににやりと唇の端を吊り上げた。 新たに組みあがった椅子の山、その頂上に剣を担いで腰掛けて、危ういバランスを取りながらネロが言う。 「徹底的に叩くまでの事だ」 「そりゃ楽しみだ」 出来るものならやってみろ、そう言わんばかりに男は腕が広げ、 ネロは親指で鼻の頭を弾いて鼻を鳴らすと足元を蹴って飛び降りた。 雄叫びと共に、渾身の力で持って叩きつけられたネロの拳を、男は剣をかざして受け止めたが、 異形の腕が与えた力か、両腕で支えているにも関わらず、あっという間に押し負けて弾き飛ばされる。 吹き飛びながらもそちらへ顔を振り向けたのは見事としか言いようがないが、 相手を殴り飛ばすのと同時に人知を越えた速さでダッシュして追いついてきたネロが その足を引っつかんで引き寄せ、逆の手で剣を持った右手を捕まえた。 とっさに左手で顔をかばったけれど、庇い切れずに強烈なストレートを顔面に食らい、 巻き添えを食らった石の床が背中で粉々に砕ける。 跳ね飛んだ男の剣がきりきりと空を舞い、床に突き立った。 ネロはそのまま男の髪を掴んで馬乗りになり、狂犬のような連打をその顔に見舞わせる。 何の考えあってのことか、男はされるがまま相手の攻撃を受け続けたが、 投げ出された腕が衝撃に跳ねるつど、赤い稲妻を孕んで姿を変える。 それは形こそ違うものの、ネロと同じく人の姿をしていない……。 392 :DMC4:2008/03/09(日) 09 06 00 ID 2qo49zkV0 が、ネロはそれに気づかない。殴るだけ殴ると、その手で頭を掴んで床の上を引き回し、思い切りよくブン投げた。 スパーダ像に叩きつけられた相手が落下を始めるより早く、 追い討ちに投げつけられた男の剣がその胸板を突き通し、男は標本のように石像の上に縫いとめられる。 剣を投げつけた姿勢のままで喘ぎながら見守っているネロの耳に浅い溜息のような残鳴を残し、 男はがくりと首を垂れ、動かなくなった。 反動でぶらぶら揺れる死体の腕をしばらく睨みつけていたネロは、やがて上がった息を抑えつつ、 散々手こずらされた相手に忌々しげに背中を向けたが、やれやれと肩を回すのもものかは 「やるな……」 低く響いた声にぎくりとして背後を振り返ることとなった。 凝然と見守る瞳の前で、死んだはずの男がゆっくりと顔を上げる。 「ちょっとお前の力を―――」 囁くように言いながら肘で石像の壁を押し、「甘く見てた」押し出すように吐き捨てて、 自らを縫いとめた剣をそこから引き抜く。 戒めを解き、すとんと像の足元に着地した男に 「人間じゃない……」 ネロが低い声で呟くと、男は自嘲じみた息を漏らし、 「お互いサマだろ。お前も―――」 おもむろに胸から生えた愛剣を両の手で挟み、力をこめた。 「俺も―――」 像から脱出した時よりも大量の血がしぶいたが、痛がる素振りも見せずに更にぐい、ぐいと前に向かって力をかける。 そうしてとうとう引っこ抜いた剣の先でかつんと床を叩いた男は、 けれどやはり多少はダメージがあったのか、息を弾ませながら凄みを増した笑みを刷き、何故か周囲を見渡して…… 「―――こいつらも」 妙な言葉を口にした。 393 :DMC4:2008/03/09(日) 09 08 29 ID 2qo49zkV0 眉を寄せ、そちらにやったネロの視線が、とある聖堂騎士の死体の上に止まる。 転がった兜の脇に横たわる死体……その皮膚は黒く干からび、突き出した乱杭歯を持ち、 見開いた目は異様な光を宿していて……どう見ても人間には見えない。 「お前は少し違うみたいだがな」 投げかけられた声に慌てて振り向くがそこに男の姿はなく、 顔を上げ、ステンドグラスが割れた天窓の枠に腰掛けているのを発見する。 「何の事だ?」 イラつきも露に突きつけた指を 「そのうち分かるさ」 と、はぐらかし、足を振って反動をつけると男は立ち上がった。 「俺は……仕事があるんでね」 腰を軽く払って埃を落とし、去ろうとするのに 「おい!」叫んでネロは発砲するが、当然弾丸が跳ね上げた土埃の向こうに男は居ない ……と思いきや、ひょいと天窓の端っこから顔を覗かせる。 「アバヨ、坊や」 わざわざそれだけを言いに戻ってきたのか、最後まで舐めた態度で指を振ると、今度こそ男は姿を消した。 それと前後して、今更現れた応援の騎士たちがばたばたと聖堂に駆け込んでくる。 先刻の「人が来る前に―――」という言葉通り、それは彼だけの秘密なのだろう。 安否を問うつもりか、こちらに駆け寄ってきた騎士から庇う風にしてネロは右手を押さえ、 脳裏で男の言葉を反芻しているかのようにもう一度、誰もいない天窓を睨みつけるのだった。 394 :DMC4:2008/03/09(日) 09 11 58 ID 2qo49zkV0 あちこちに散らばる瓦礫、前面が削り取られ、価値のないがらくたと化したスパーダ像…… 廃墟同然になった聖堂を苦い顔で見回し、クレドが歩いていく。 教壇の紋章が刻まれた、彼女の身長ほどもある何かのケースを、 余程重いのだろう、うんうん言いつつ体全体を使い、キリエが一生懸命運んでいる。 歩み寄ってきたネロがその肩に手を置き、 「持ってきたのか」 荷物を受け取りながら優しく尋ねかけた。右手は肘まで捲り上げていたコートの袖を下ろし、目立たないようにしている。 「兄さんに頼まれたから……」 キリエのいらえにクレドはちらりと背後を見やるものの、結局振り返ることはせずに観察に専念している。 「助かるよ。これで仕事が楽になる」 左手一本でネロは勢い良くケースをひっくり返すと床に寝かせ、蓋を開いて何やらごそごそやりだした。 キリエは少しの間、それを見ていたが、ふと辺りを見渡し……何かを見つけたらしい、とある一角に向かって歩いていく。 床できらりと光るもの……踏み潰されるのをそのままに逃げざるを得なかった、あの青い小箱の中身だ。 眉をひそめて座り込み、両手に取ったそれが無傷のままだと気づいたキリエの頬にうれしげな笑みが浮かぶ。 珊瑚色の細長い石に絡んだ一対の金の羽、そしてその上にもう一対、広げた金の羽があしらわれたペンダントだ。 「フォルトゥナ城か……」 膝を突いて、ネロは「それ」を床に突き立てる。 「目撃者がいる」「殺人鬼が観光名所めぐりとはね」 応えたクレドに愉快そうに返し、グリップを捻って唸り声を上げさせた。 赤いグリップ、いばらの意匠が施された赤い増幅器。特別に強化されたネロだけの剣、「レッドクイーン」だ。 「真剣にやれ!」 掣肘する物がなくなって、当然クレドは怒鳴り声も荒々しくネロを叱りつけた。 しかし蛙の面に何とやら、ネロは剣を担いで得意げな目線を寄越すだけだったが、 「逃がすなよ」 クレドはそれを更に押さえつけるような低声で念を押す。 「分かってるさ」と、すくめたその肩に「無理をしないようにね」気遣わしげな声がかけられた。 「それが仕事なんだ」 やや厳しくした顔で振り返ったネロは、僅かな驚きと共に目を見張った。 はにかんで逸らし、でもその後にまっすぐ見上げてくるキリエの目。 その胸元には混乱の中に無くした筈だったあのペンダントが光っている。 それで彼の表情は和らいだが、すぐに取り繕うようにまじめくさった顔になり、 けれど幾分落とした声色で「非常事態だしな」と付け加えた。 それでも心配そうな様子のキリエの脇を、 「私は本部に戻る」 足早に通り過ぎながらそう言い置いたクレドの姿が出口へと消える前。 不気味な地鳴りが辺りに響き、思わず動きを止めた一同の上に、細かな砂が降ってきた。 聖堂を出たネロたちは助けを呼ぶ声に足を止めた。 クレドが剣を抜き、ネロはキリエを背後に庇う。 見守る三対の瞳の前に、噴水の影からフード姿の男がふらふらとよろめきながら姿を現した。 が、数歩も行かずに崩れ落ちる背後に悪魔が現れ、鎌の手を振り上げる。 それ以上見ていられず思わずネロの背に顔を埋めてしまうキリエ。 必死で手を伸ばすがその背に突き刺さった刃が容赦なく犠牲者を引き寄せ、 次の瞬間彼は死体となって無造作に放り投げられた。 それを皮切りに、とうに逃げ出していたはずの信者たちが悲鳴とともに 噴水の向こうから次々と、湧き出すように現れる。 彼らを追い立てるのは悪魔の群れ。 門の上から、通路の奥から、刃の腕を振るうたび次々と血煙が上がった。 「ヤツの仕業か」 「……そうかもしれん」 唸るかの如きネロの声に低く応じて、クレドが用心深く後ずさる。 しゃくりあげるように呑む息を背中に聴き、ちらりと振り返ってそこにつらそうに目を伏せるキリエを見とめたネロは 「クレド。キリエを頼む」 唇を引き結んで前に出た。 「ここは俺が」 背中に手をやり、レッドクイーンの剣柄を捻る。 赤く光り、震える剣を携えて、彼はだっとばかりに飛び出した。 たちまち何匹もの悪魔がその剣閃の下で無に還る。 住民は本部に避難させる、何かあればお前も、と逃げ惑う信者達を導きながらクレドが叫んだ。 兄に促され、キリエもまた信者を連れてその場を離れようとしたが、 広場を埋めたむくろの中に立ちすくみ、泣きじゃくる子供を見て足を止める。 彼女とほぼ時を同じくして無力な獲物に目を留める悪魔達。 ためらいは無かった。彼女は駆け出し、生ける盾となって飛びかかる刃の下に身をさらす。 少年を抱きしめ、硬く目を閉じた彼女の上にしかし悪魔達の攻撃が届くことは無かった。 「行け!早く!」 一陣の剣風だけで敵を吹き飛ばしたネロが、叱責するような厳しい声をキリエの背に投げる。 その声に背を押され、少年を庇いつつ小走りに駆けて行くキリエを、 ネロは僅かに微笑んで見送っていたが、くるりと悪魔達を振り返るとその笑みは、まったく違うものへと質を変えた。 「焦るなよ……」 不敵に笑いながら呟いて、コートの袖をまくり上げ、隠されていた右腕をあらわにする。 戦いのゴングとばかり、手始めに彼の背後にいた悪魔が魔の右腕に引っつかまれ、 そのままぐるんぐるんと振り回されて、軌線上の敵を巻き込んで吹っ飛ばしたすえに門の要石に叩きつけられた。 きょとんと見上げる悪魔の上に崩れた石材がなだれを打って落ちかかり、逃げ去った人間達の元へ続く道を塞ぐ。 地面に叩きつけられる一匹の悪魔、その衝撃で別の二匹までがもろともに天高く舞った。 彼らが地上に落ちる前、背中の剣を抜いたネロはそれに地面で火花を上げさせ、次いで凶悪な螺旋を描いて振りいた。 一匹、二匹は両断されたが三匹目からは刃に引っかかり、しかしまったく構いつけずになおも数匹を巻き込んで、 レッドクイーンのスロットルを捻る。 高まる力のままに輝きを増し、刃は巻き込んだ全ての悪魔をひき潰して奔馬のようにいなないた。 コートの裾を翻して滑走したネロは、その勢いを止める事無く大剣を振るい続けた。 敵を突き刺し、アクセルを開く。 獲物を断ち割りしな石畳を穿って赤い満月を描いた剣、それを担いだネロの頭上を 飛びかかった悪魔の影が覆ったが、彼は入れ違いに飛び上がって斬激を避けると、 背後の別の一匹の上に着地して、その背中を貫き通しざまに再びスロットルを捻った。 行き場を探して荒れ狂う剣の力が推進力となり、悪魔をボードにしたスケーターは その仲間を猛烈な勢いで撥ねつつ土煙を上げて滑り出す。 噴水広場を通り抜けると靴底でブレーキを掛け、スピンした勢いを借りてそこに居た敵を引き抜いた剣で打ち上げる。 二匹の悪魔にブチ当たられた衝撃で、上がっていた格子が落ちてその下に居た間抜けな一匹を押し潰し、 残ったもう一つの道も塞がれた。 背に剣を担ぎ、掲げた悪魔の右腕を開いて閉じて、ネロは低く鼻を鳴らす。 「お仕置きの時間だ」 「アレから悪魔が湧いてるのか」 呟く視線の先にはちょっとしたビルほどもある奇妙な石の板、 廃棄された採石場の奥に屹立するそれを眺めていたネロを、その時不気味な地鳴りが襲う。 震源は……目前の崖上にそびえ立つ、巨大な石版。 その表面にぽつぽつと朱に輝く光がともった。見守るうちに光点はその数を増し、光同士がじわじわと繋がる。 光はその内部に生じた熱によるもの、恐らく只の石ではあるまい、 その石版の表面をふつふつと、辺りの空気が歪むほどに焼き溶かし……次の瞬間噴出した爆炎とともに 馬鹿でかい何かが飛び出して、放置され、廃墟となった飯場の真ん中で地響きを立てた。 竜に似た四足獣の下半身に獣人の上半身をくっつけたバケモノが一つ雄叫びを上げただけで、 周囲に熱風が走り、かつて作業員達の宿舎だった物だろうか、立ち並んだ空き家が次々と火を吹き、燃え上がった。 「久しぶりの人間界よ……」 ごろごろとした声で言いながら化物はこちらへ向かってのしのしと歩みを進めたが、 立ち上る熱気に鼻先をはたはた仰いでいたネロもまた、迫る巨体に向かって恐れ気もなく歩き始める。 そのまま両者はお互いの事を気にかける様子もなく歩み続け……すれ違った。 直後、ネロが愛剣を抜いてかつんと地面に打ち付けるや、刃を寝かせて横薙ぎに払い抜く。 途端一陣の飄風が生じ、瞬く間に炎を吹き散らした。 「面白い真似をする」 歩みを止めた化物が、暫くの間をおいてゆっくりと振り向く。 「熱いのは苦手なもんでね」 しれっとして答えたネロに向かい、地面を鳴らして歩み寄りつつ 「二千年前の人間界には―――貴様のような者はおらなんだ」 化物は感嘆したらしき声を投げたが 「長生きな爺さんだ」 続いて返った恐れを知らぬ減らず口に激高し、 「黙れ!」 と喚くが速いか、灼熱に輝くその剣をネロめがけて突き降ろした。 ……が、生意気な虫けらを両断しようとしたその刺突は、ネロの剣の切っ先によって食い止められ、微動だにしない。 どころか次の瞬間、ぐらぐらと煮え立つ剣は弾き返され、化物は大きく腕を泳がせることとなった。 怒りのためか、屈辱か。 「思い知れ!このべリアルの力!我こそは炎獄の覇者ぞ!」 薄く笑って剣を収めたネロに向かい、化物が割鐘の響くような雄たけびで名乗りを上げると、 その背にまとった炎が翼のように一際激しく吹き上がった。 弾き飛ばされ、地面を削って着地したべリアルが驚きの声を上げる。 「その腕!人間ではないのか!」 「俺に聞くな。こっちも迷惑してんだ」 掲げた腕を返し返しに眺めつつ、勝者にしては苦い声でネロがぼやいた。 「ヤツ以外にもこのような者が……」 それにも増して苦い声で唸るべリアルに 「誰の事だ?」 ネロは腕から目を上げ尋ねたが、相手は答えず、 「力を蓄えねばならぬ!」 一声叫ぶとダメージのためか薄暗く明度を落としていた全身の炎を再び燃え立たせ、 次の瞬間には火炎の竜巻と化して舞い上がった。 殺到する熱気に咄嗟に顔を覆ったネロがハッとして振り向き「おい!」と声をかけたが、 「炎獄の覇者」は崖の上のバカでかいモノリスに激突するように吸い込まれ、 現れたときと同じく唐突に逃げ去ってしまった。 残されたネロは忌々しげに息をつくと、飯場が残らず崩れ落ち、 燃え残った熾火がちらちらと瞬くのみの荒地と化した周囲を見渡すのだった。 廃坑を抜けると岩だらけの山道には横殴りの雪が吹き付けていた。 白く染まった道を抜ける頃には雪は小降りになり、満月の下、天を突く巨城の威容がネロを迎える。 崖にかかった巨大な橋を渡りかけたその時、つんざくような叫びがネロの耳を打ち、城壁の上から何かが飛び出してきた。一瞬でブルーローズを取り出し、ぴたりと狙いをつけたネロはしかし、「……あん?」怪訝そうな唸りとともに首をかしげて銃口を上げる。 宙に舞っているのは「スケアクロウ」、道化に似た低級の悪魔。 だがその腰をがっちりと足で挟み込み、共に天高く飛ぶ人影がある。 大鳥のように優雅に腕を広げた姿ともあいまって、それはまるでペアのバレエダンサーのようだった。 が、人影は直ぐにくるりと身を丸め、両者はくるくると回転しながら地上に向かってまっしぐらに落ちてくる。 垂直落下に移った所で人影が悪魔の両手両足を逆様に固め、雪煙を跳ね上げて橋上の鉄格子に叩きつけた。 煙の幕が晴れた向こうに見えたのは、浅黒い肌をもつエキゾチックな風貌の美女である。 その周囲に次々と、何匹もの魔族が降ってくるが、彼女はいまだ扇情的な体勢で悪魔の上に馬乗りになったままだ。 と、正面の奴がその腕についた刃を振りかぶるや、美女はベンチ代わりにしていた悪魔を盾にかえ、 ふわりと背後に飛び上がる。 仲間の手にかかった哀れな悪魔を置き去りに、バック宙を繰り返しながら 次々と振り下ろされる無数の刃をいともやすやすと避けていき、最後に逆立ちのまま大開脚をして (超ミニスカに超スリットが入ったエロエロコスチュームなのだが、 素晴らしく都合よく伸びるミラクル布地のおかげで股間は見えない) 股の上に振り下ろされた凶刃をハイヒールではっしと白刃取りし、捻り倒すと 太腿まであるロングブーツの中から両刃の短刀を引き抜いて突き刺し、跳ね上がり、蹴り倒し、 悪魔達を次々と切り裂いていく。 レースのついたスリットのドアップ&下着がチラ見える色っぽいドロップキックをぶちかました背後で エモノを振りかぶった敵に気付いた美女は、すかさず片足を前に残したまま後ろ蹴りを放ったが、 二匹の悪魔の間に長い足で橋をかけた彼女に向かって悪魔の群れが一斉に飛び掛った。 しかし美女はあらあら、とでも言うような低い声を漏らしただけで、 次の瞬間には風車のように回転する両足が宙に浮いた敵たちを一匹残らずなぎ払っていた。 一匹を足蹴に、もう一匹に踵落としを見舞いつつ地上に降りた所に柳腰を両断するかのような横薙ぎの一撃、 けれども彼女はハスキーな笑い声さえ上げながら仰向けに反り返り、その鼻先を通り過ぎる刃は 大きく開いた白い教団服の襟元から覗く豊かな胸を魅力的に揺らしはしても傷一つさえつけることなく、 銀のボブヘアには一筋の乱れさえない。 武器を振り切った相手が向き直るより早く、美女は右手の短刀を背中越しに投げ上げて左手に持ち替え、 無防備な胴体に剣閃の往復を受けた悪魔はずだ袋でできた体中のあちこちから黒い霧を噴出して爆散した。 最後の一匹の喉首を切り裂いた姿勢を保ったまま、薄く笑う美女の背後に影が飛ぶ。 見逃していた「本当の最後の一匹」、だが彼女がそちらに顔を振り向けたまま何をするまでもなく、 雄叫びは銃声とともに即座に悲鳴に変わり、悪魔は汚らしい液体をブチまけて消え去った。 美女がゆっくりと姿勢を起こす。 視線の向こうでは薄い白煙を上げるブルーローズを掲げ、ネロがかすかに唇を歪めている。 けれどその暗い笑みは向き直った美女の「ありがとう」という声を受けるとたちまちの内になりを潜めた。 銃を持ったままの左手で鼻先をこすり、 モデルのように腰をくねらせる蠱惑的な足取りで歩み寄ってくる彼女に胡乱げな目を投げる。 「見ない顔だな。教団の人間か?」 「新入りなの。グロリアよ」 美女は言って腕を差し出し、ウインクしたが勿論ネロがその手を愛想よく握るなんて事はなく、 彼は無言のままふいっ、と顔を背けてしまった。 けれど彼女は特に気分を害した様子も無く、 「貴方はネロね。噂どおり」 どころか寧ろ面白がっている風に背けた顔を覗き込むように回り込んだ。 「悪い噂だろ」 と、ネロがそれに更にそっぽを向くと、「扱いにくい はみだし者 」 またまたその先に回りこむ。 「それで?悪魔はどこから?」 イライラとなおも背を向けたネロが話を逸らすつもりかそう尋ねると、 「さあ……殺してもキリがないのは確かね」 きりり、きりりとかすかな音を立てながら片手の先で弄んでいたナイフを畳み、グロリアはひょいとしゃがみこんだ。 気配に振り返ったネロが見下ろすと、わざとのように足を大きく開いてブーツの中に武器をしまい、 股の付け根をするりと撫でる彼女の指の、妙にしなやかな動きが眼に入る。 今度は決まり悪そうに目を逸らしたネロに艶然と微笑んでグロリアは立ち上がった。 「調査は任せるよ。俺は別任務だから」 言って歩き出したネロに「私は他の場所に援護に行くの」 そう返し、どういうつもりかグロリアは彼の背中をじっと見たまましゃなりしゃなりと後ずさっていった。 そうして何気ないしぐさでひょいと足を振りあげ、振り下ろす。 再び動き出そうとしていた悪魔が無慈悲に踏みにじるヒールの下でびくりともがき、断末魔代わりの黒い息を吐き出した。 「貴方に神のご加護を」 そうしてしなを作るようにして笑うと、グロリアは橋の向こうに去っていく。 首だけ振り向けてそれを見ていたネロは白い息とともに皮肉な呟きを吐き捨てた。 「 神 だとさ……」 壁一面に書架が並んだ図書室。 机の上ばかりか手すりの上にまで棚から取り出された本が積み上げられ、溢れた何冊かが床の上に散乱している。 「殺人犯がお勉強か……?」 銃の筒先でページを捲りつつひとりごちていたネロは、背後の気配に険しい顔で素早く銃口を振り向けたが、 予想に違い、そこに居たのは教団員だろうか、白い鎧を纏った騎士だった。 「危うく撃つところだ」 銃を携帯している人間の背後に無言で立つという、うかつな行動に厳しい声を投げたものの、 相手は答えず、ただ何かを窺うようなしぐさを見せた。 兜の奥の視線から異形の右腕を隠し、銃をしまって彼に背を向けたネロは気付かない。 「悪魔どもを追ってきたのか?」 その質問に答えるかのように相手がバイザーの上にしるされた紋章の上に無機質な緑光を瞬かせたのを。 「無口だな」 いまだ口を開かぬ相手がゆっくりと歩み寄ってくるのを肩越しに見やり 「……嫌いなタイプだ」 誰だかにむけて毒づくと、ネロは再び(今度はちゃんと手を使って)書物のページを捲りだす。 その背中に向けて、白い騎士は静かに槍を掲げると、ばねが弾けるように突き刺した。 「冗談だろ?」 ランプの光を受けて鈍く輝く穂先を本の間に挟みこみ、ネロは騎士を睨みつけたが あいにくと相手は冗談で済ます気はないらしく、続く攻撃から身を躱す間に地球儀が弾け、 書籍を満載した机が真っ二つになる。 「本気でヤる気か?来いよ!」 雑すぎる紙吹雪を浴びながらネロは抜き放ったレッドクイーンを唸らせる。 羽根のように紙切れを撒き散らして白騎士は槍を取り回し、緑の「瞳」を輝かせた。 槍を取り落とし、崩れ落ちた鎧の頭部から兜が外れて転がっていく。 爪先にぶつかって止まったそれにしゃがみこみ、ネロは騎士の「死体」に目を向けた。 「空っぽ、か……」 呟くや、無数の光がその内部から飛び出して、鎧ごと跡形も無く消え去った。 掴んだ兜に目を落とすとこれもまた白光の粒子を残して無に変わる。 「……鎧が取り憑かれた?」 手を払って立ち上がり、ネロは低く溜息をついた。 「嫌な予感がする……」 フォルトゥナ城の中庭は奔流のような猛吹雪に包まれていた。 温暖だった街中の様子からするとかなり異様だが、それにも増して異様な光景が目の前で繰り広げられていた。 紫の光を割れ目から漏らす巨大な石の板が鎮座した大荒れの雪舞台、 その上を淫猥な笑みを響かせながらふわりふわりと宙に舞うのは二人の乙女。 燐光を放つ裸身を絡ませてはこちらに向かって手招きを繰り返していた。 「吹雪は奴らのせいか……」 けれども呟いたネロの目に惑わされた様子はこれっぽっちもない。 が、「二匹の女怪」に彼が飛び掛って幾らもしないうち。 吹雪に濁る闇の中から異様な重量を持った「何か」が飛び出してきて、バックリ開いた大口の中にネロを飲み込もうとする。 「それが本体かよ……」 大きく飛びさがって丸呑みを逃れたネロが苦笑して突きつける指の先で、 「クソッタレがッ!殺し損なうとはのう!」 ずらりと鋭い牙の並んだ口をぱくぱくさせつつ白い化物が赤く光る目を細めた。 背中にしょった氷塊の中からは長い触角が二本突き出ていて、 その先端には女が二人……いや、女の姿をした疑似餌が二つ、くっついている。 「まいったな……カエルは苦手だ」 辟易とした声を上げたネロに 「ボケがッ!誰がカエルじゃと!?」 サイズは兎も角、姿はどう見ても少々ファンタジーがかったヒキガエルにしか見えない化物……バエルが怒鳴りつけると、 吹き付ける風と一緒におぞましい色をした粘液が大口の中から飛び出して、 「早く片付けないと気分悪いな……」 珍しく弱りきった表情でネロは体のあちこちにへばりついた汚れをはたき落とした。 それに更に怒ったバエルは 「ブチ殺してやる、小僧ッ!」 喉の袋をいっぱいに膨らまして以前に倍する大声でわめき、ネロは耳を塞いでよろめいた。 前にも増して大量の粘液がばら撒かれ、吹雪が異様な色になる。 うんざりと唸ってネロは小さく首を振った。 吹っ飛ばされたバエルが、最後の力か飛ばしてきた触角をネロががっちりと掴み取る。 背負うようにして投げつけるとバエルは吊り上げられて半円を描き、反対側の地面に叩きつけられた。 そのまま雄叫びも荒々しくぐるんぐるんと振り回している途中で音を立てて触角が千切れ、 仰向けのままバエルは地面の上を滑っていった。 足首を掴まれた「女」が光になって右手に吸い込まれるのを眺めているネロに 未練がましくバエルが呪詛の言葉を投げる。 「こんなガキに……クソッ!畜生!勝ったと思って……」「思っちゃ悪いかよ」 光を残した右手を握り締め、ネロはひっくりかえったバエルを睨みつけた。 「オレの兄弟たちがカタキを……」 皆まで言わせず、ネロが宙へと飛び上がる。 悪魔の右腕が巨大なオーラの影を引いてバエルの眉間を殴りつけ、 バカでかいカエルはぎゅるぎゅると回転しながら再度ブッ飛ばされて壁にぶつかり、 雪煙を巻き上げて地面に落ちると動かなくなった。 「やれやれ、バッチィな……」 嫌悪の色も露に思いっきりバタバタと手を振っていたネロの動きがふと止まる。 「待てよ。 兄弟 だって?」 不吉な予感に目をやった先には無数の足音。 モノリスに浮かんだ光の中、何匹もの「兄弟達」が紫色に輝く通路を列をなしてやってくるのが見えた。 「マジかよ……カエルはもうたくさんだ!」 叫ぶやネロは、脱兎の勢いで駆け出した。 だらしなくたるんだバエルの腹をトランポリン代わりに飛び上がり、 今まさに 扉 の縁に足をかけようとしていた奴の鼻っ柱に一撃を叩き込む。 キューで突かれたビリヤードの玉さながらに連鎖してブッ飛ぶのを尻目に台座の脇に着地すると、 しつらえられた紋章の上に手をかざした。 スイッチが作動し、石版に灯る光が消える。 「悪いね、閉店だ」 悠然と言ってネロは片眉を上げた。 城の大広間、シャンデリアの上。 壁にかかった教皇の肖像画を見ていたネロはにやりと唇の端を吊り上げる。 次の瞬間、背中の大剣を抜き放って吊り具を一刀両断、補助の鎖だけになったシャンデリアは 絵姿に向かって振り子のように落ちかかり、壁を壊して絵の教皇を引き裂いた。 不信心者の罰当たりな行動は結果として彼に活路を開くこととなる。 絵の裏側には隠された道があり、そこには今までとがらりと雰囲気を変えた工場然とした施設が広がっていたのである。 王侯貴族のそれにも似た、豪奢な調度に囲まれた薄暗い部屋、その中央。 石の天蓋の下の石造りの祭壇……医療用のベッドのように枕の部分が斜めに高くなっているそこに、 教皇の死体が横たえられている。 クレドはその脇に立って無言で首を垂れているが、何故か先刻見せていた悲嘆と狼狽の色はまるでない。 あたかも何かを待っているかのような……と、「それ」は突然やってきた。死体の目がかっとばかりに開かれる。 漆黒の中に炯炯と光る赤い瞳孔、びくりと一つ大きく身体を跳ねさせたのを皮切りに、死体はびくびくともがき始めた。 歯を噛み鳴らし、首を振り、寝台をかきむしる。 クレドはハッとして顔を上げ、固唾を呑んで見守ってはいるものの、 やはり待っていたのはこれなのか、驚いた様子はなかった。 苦悶の末にひとつ雄叫びを上げるような吐息をついて、死体だったはずの教皇は寝台の上に脱力した身体を横たえた。 暫しの後、開いた目からは異様な光は消え去っていて、頬に浮かんでいた赤黒い血管も見えなくなっている。 「お目覚めで」 かけられた静かな声に 「クレドか……」 低い声で教皇が応じた。 「ダンテに関しては―――現在、私の部下が追跡中です」 「奴め…… 帰天 しておらねば命を落としておったわ」 口調だけを聞けばただの弱々しげな老人とそれを気遣う忠実な部下の会話。 だが内容からすればとてもそうとは思えないその会話に背後から割って入るものがあった。 「……教皇様!これはご機嫌うるわしく……」 クリップボードに止められた書類になにやら書き込みながら近づいてきた片眼鏡の男は、 老人の「目覚め」に気付くと恭しげに言いつつ寝台の脇に立とうとしたが、 それをクレドに肩で押しとめられて、厚い唇をひん曲げた。 「ネロとかいう小僧の件だが……」 筋肉質なガタイの癖に背を丸めた歩き方で枕元の方に回り込もうとするのを、 さり気なくクレドが更に妨げて寝台の上に手を置き 「何か問題でも?」 にこりともせずに尋ねるので 「馬鹿が!私の研究施設を、み、み―――み、見られたらどうする気だ!」 激した男はどもりながら喚き散らした。 「最優先はダンテの捕縛だ」 返すクレドは男の方を殆ど見もしない。 「貴様は、こ、こ、こ……!」「クレド」 なおも喚こうとした男の言葉を教皇が遮り 「なんなりと」クレドは即座にそれに応じた。 完全に両者に蔑ろにされた形だが、男は口を噤むしかない。 「皆を集めてくれ。安心させてやらねばなるまい」「御意」 一礼してクレドが身を翻す。 教皇の配下二人は非友好的な視線を交し合った後、一方は不愉快そうに襟元を寛げながら大股に部屋を出て行き、 もう一方は歯を剥き出してそれを見送ると何事か手元の紙に書き付けた。 「城の中」にしては奇妙な部屋にネロは足を踏み入れていた。 円周を描く壁の一面にはガラス窓があるが、それ以外は 床の中心に設えられたジェネレーターらしきものを中心にした、一つの装置のようだ。 辺りを見回しながら中ほどまで歩を進めたネロの腕が、急にその光を増す。 視線を上げるとガラスの向こうに続きの部屋があり、しゅうしゅうと蒸気を噴き出す設備が居並ぶ中に、 更におかしな物がある……青い光の中に浮かんだ、折れた日本刀。 どういう訳か、この腕はあの刀に反応しているようだった。 刀を睨み、光る右手を握り締めたネロの目に、ガラスの向こうの人影が映った。 「おや……来てしまったか。予測が当たったな」 「あんたは?」 スピーカー越しに語りかけてくるのに鼻を鳴らして問いを投げると、 姿勢の悪い巨漢はひとまとめにした長髪を揺らして慇懃に腰を折った。 「私の名はアグナス。仕事柄、人にはし、し、し―――知られていないがね」 けれどもネロがふてぶてしい態度でぶらぶらと歩きつつ 「教団の人間が、こんな場所で何してる?」 尋ねた途端、 「 こんな場所 ?口を慎め!」 アグナスは紳士の仮面をかなぐり捨てて指を突きつけた。 例によって例のごとく、それを受けたネロは彼の豹変をただ鼻で笑っただけだったが。 いかにも神経質そうな足取りでいらいらと歩き回りつつ、アグナスは手にしたクリップボードにペンを走らせた。 「噂通り……ナマイキな小僧だ。やはり、し、し、死んでもらうか」 その言葉尻を取って「ナマイキ」そのものの仕草でネロが顎を突き出す。 「どういう理屈だ?生意気だと、し、し、死刑?」 口真似に低く鼻を鳴らしてアグナスはペンを持った手をちょいと振った。 するとたちまち「装置」が稼動を開始する。 壁にあいたスリットが音を立て、剣の翼をもった化物を次々と吐き出し始めたのだ。 「驚いた」低く囁いて部屋中を飛び交う魔物に目を配り、ネロは背中の剣に手をやった。「悪魔とはね」 「恨むならクレドを恨め。貴様にダンテのツ、追跡を、命じた奴が悪いのだ」 「ダンテ?あの男の事か?」 のべつ幕なしに滑空しては切りかかって来る悪魔達を身を屈め、反らし、跳ね避けては弾き返して、 ぶつぶつと呟き続けるアグナスに唸り声を上げ、 「この場所は何だ?」 ネロは刀でぐるりを指したが 「答える必要はない。お前はここで、し、し―――死ぬのだ」 アグナスはいかつい顔にいやらしい笑みを浮かべてまた何やら書き付けている。 「死ぬかよ……!」 ネロは吐き捨て、鼻の先をこすって顎を反らした。 ガラスが砕かれ、アグナスが無様に床を転がる。 「ソ、ソ、ソレは悪魔の力!どうして!?」 レッドクイーンを肩にずかずかと近づいてくるネロから尻餅をついたまま必死で後ずさったが、 ようやく立ち上がった鼻先に剣を突きつけられて悲鳴を上げる。 「お互い様だろ?答えろ。ここで何をしてる」 しかし、ごくりと唾を呑んだ後、 「スバラシイ……!」 彼は恍惚と呟いた。 言われてつい自分の右手を見下ろしたネロが視線も戻さぬうちに 「サイコーだ!」 目玉を貼り付けるような中腰でさかさか擦り寄られて思わずずざっと飛びのく。 「人の話を聞けよ!」 横殴りにした刀身を小指を立てた両手で挟み取り 「知りたいなら―――教えてあげよう」 相手が引っぺがそうとしているのにびくともさせぬままでアグナスは早口に囁いた。 彼はぱっとすぐに手を放したけれど、 「数年前から私は悪魔を研究中だ」 ネロはなおも数歩を後ずさり、しつこく付いてくる彼から右腕を隠すように半身立ちになってその目の前に剣をつきたて、 それでようやくアグナスは足を止めた。 辟易とした様子のネロにアグナスは嬉々として語り続ける。 「悪魔の力を我らが物とし―――世界を楽園へと変えるために。教皇から直々に命じられてね」 「バカげてる。その教皇も死んで台無しだしな」 再度剣を突きつけてネロはアグナスをさがらせつつそう断じたが、彼は両の人差し指を立ててうっとりと首を振った。 「ああ……。教皇なら 天使 となり、復活されたよ」「 天使 ?」 唐突に出てきた馬鹿げた単語に低く笑い声を漏らすネロ。 「そしてモチロン……この私も 天使 だ」 それにアグナスは三流役者さながらの芝居がかった礼をとり、顔を上げた。 彼もまた笑っている……先ほどまでとは違う、妙な笑みだ。 眉を寄せたネロが振り向いたが、遅かった。 宙を駆けてきた悪魔……図書室に現れた白い騎士に串刺しにされ、 つい数時間前の因果応報の如く壁に縫いとめられてしまう。 槍は直ぐに抜かれたが、地面に落ちるいとまさえ許されず津波のように他の二体が押し寄せた。 「これは研究成果のひとつでね」 両手を槍で戒められ、ぐったりと頭を垂れるネロに向かって得意げなアグナスが 背後に浮かぶ羽根を持った騎士たちを見上げ、語りかける。 「見たまえ!この白く輝く美しい鎧を!どれほどの苦労があった事か。 ただ一つの鎧を動かすため―――無数の悪魔を捕らえ続けた。魔界から悪魔を召喚してね」 「 召喚 ?あの門はお前が……」 大げさな身振り手振りを交えて独演会を繰り広げているアグナスに、荒い息の下からネロが怒りに震える声を叩きつける。 「イエス!地獄門だ!オリジナルを元に私が設計した。出力には強力な魔具を使用―――動作良好だ」 アグナスは我が意を得たりとばかり鼻高々に頷いたけれど、 「分かるように喋れ……」 ネロは力なく呟いて首を振るだけだ。 語り甲斐のない聴衆にアグナスは歯を剥いたが、笑み交じりの息を漏らし、手を伸ばす。 無言の下知に答え、即座に先の鳥型の悪魔が滑るように空を飛んできて、一振りの剣に姿を変えると彼の手の中に納まった。 「ゆっくりと眠りたまえ」 一度貫かれた腹をもう一度深々と突き刺され、ネロは激痛に大きく跳ねて喉を逆流してきた血を吐き出した。 「私の次の研究材料は君に決めた。入念に調べるとしよう。特にその腕をね」 待ちきれないように指をわきわきさせながら告げたマッドサイエンティストそのものの台詞を わざわざ顔を上げて小さく笑ってから、「断る」ネロは口の中の血を相手の顔に吐きかけた。 その行為は当然の報復を誘い、アグナスは剣が刺さったままのネロの腹に殊更にその切っ先を捻り込んでから引っこ抜き、 「ツ、ツ、ツ―――連れて行け……!」 逆上の証左であるかのような声色で一語一語区切りながら命令を投げる。 視界一杯に迫ってくる白騎士たちの姿を最後に、ネロの意識は闇に落ちた。 ブラックアウトした世界の中で、叫び声が響いている。 逃げろと叫ぶ、彼の声。キリエの悲鳴は彼の名を呼んでいる。彼もまたキリエの名を叫んでいた。 喉が裂けそうな絶叫。それなのに、耳の奥底では鼓動の音が妙にゆっくり脈打っているのだった。 見開いた彼の目は真紅に染まっていた。 沸き起こる力の波動が地鳴りを起こし、右腕の光は全身を覆って噴き出して、 その源泉たる掌は眩いほどに輝きを増している。 弱弱しく浅かった呼吸は、手負いの獣のように荒く、激しい物に変わり、 それに呼応するように固定装置の光の中に浮き上がった刀が勝手に動き始めていた。 掌を大きく開いて上向かせる。 殺到する騎士たちはいまだ彼の元に辿り着いていない。 あの記憶は、瞬き一つの間しかない、文字通りほんの一瞬のものだったのだ。 二つに折れた刀が繋がるや否や回転しながらひとりでに飛んできて、開いた手の中に納まった。 次の一息で烈風が弾け、三体の騎士が吹き飛んだ。 纏めて飛ばされたアグナスは隣室の天井に激突したが、 地面に落ちてきた姿は既に語ったとおり人間ではなかった……ならば「天使」か、と言えばそれもまた素直に頷きかねるものである。 片方だけが赤い複眼、天使の輪……のように見えなくもない、金色の触角。 何に最も近いかと言ってしまえば人型をした蛾の化物だ。 一瞬にして砕け散った騎士たちの羽吹雪、ひらひらと舞い落ちるその向こうによろめきながら立ち尽くす人影がある。 魔の右手に携えた刀、紫の陽炎に包まれたそれを見て、もとアグナスの化物がくぐもった声を震わせた。 「なぜ……私にも修復できなかったのに!」 「あの日から俺の腕はこうなった」 悲鳴じみた疑問を構いつけもしない荒い息は異形の響きを帯びている。 「魂が叫ぶ。力を……! もっと力を……!」 背中には噴き出した魔の気が形作ったものだろうか、青く輝く光が、捻じ曲がった角を持つ異様な影を落としている。 「ナニ!?」 「悪魔に魂を売ったっていい。どうなろうと」 紅蓮の色に光る両目は果たして目の前の敵をはっきり捕らえているのかどうか。 「キリエを守れるなら……!」 兎も角酔漢じみたふらついた動作で下から上に振りぬいた剣閃はしかしとてつもない衝撃波を生み、 生み出されたかまいたちはアグナスの側を掠め、壁にぶつかるといきなり跳ね上がって天井に大穴を明けた。 炯炯と目を輝かせた彼と、炎に縁取られた天井の大穴と。 元アグナス……アンジェロアグナスはおたおたと見比べていたが、やがて 「あり得ない事だ……! アリエナイッ!」 喚くや、背中の甲羅?から甲虫じみた四枚羽を引き出して、大穴の向こうに飛び去っていった。 その様子を彼は荒い呼吸のままじっと見つめていたが、やがてかすかに咳き込むと俯き、目を閉じた。 異色のオーラを放っていた日本刀がそれで右手の中に吸い込まれ、背中の異形が消え去った。 途端スイッチが切れたように彼は膝から崩れ落ち、地面にがくりとへたり込む。 じんわりと残っていた両目の赤光も消え、それでも放心したようになっていたネロは、 次の一呼吸でハッとして、散々に切り裂かれた筈の傷口に手をやった……が、何も変わった様子はない……最初からそんなものは無かったかのように、切り裂かれる前と何も変わっていない。 胸元に押し当てた左手を凝視して息を呑み、輝く右腕をまじまじと見て、ネロは軽く膝小僧を打って笑い出した。 低い笑いはしかし直ぐに消え、唸り声にも似た溜息に変わる。 「本部に戻るか……アグナスの話―――クレドも知ってるはずだ」 まだバランスが危うい感じでゆっくりと立ち上がり、 激闘の余韻が色濃いかすかに割れた声でネロは押し出すように一人ごちた。 フォルトゥナ城の裏手にかかる機械仕掛けの巨大な橋、滝をせき止めることで姿を現すそれを渡り、滝の中の洞窟を抜けたときには夜が明けていた。 「森か……」 落ちる木漏れ日を浴び、響き渡る鳥の声を聞きながら歩みを進めたネロは、 崖の上から眼下の光景を見下ろす。そこに広がる緑は山一つ越えてきたというだけでは説明できない 異様さを持っていた。 「なんだこりゃ?」 それを代弁するかのような溜息交じりの呆れ声を耳にして、ネロは腰に手をやりつつ 慌てて後ろを振り向いた。けれど照星の先には風に揺れる草木があるばかり、 その更に背後で芝居がかった仕草で肩を竦める人影がある。 「“門”の影響か……」 相変わらず気配をつかませない、赤いコートの男は向けられた銃口にもやはりそ知らぬ顔で 一面の大森林を眺めやって鼻を鳴らした。 男の言葉通り、鬱蒼と茂る木々は中緯度地域のものではない。 ヤシやソテツのような、熱帯特有の植物だ。 「悪いな、後で遊んでやるよ」 くるりとネロを振り返り、片手を広げてそう言うと、男はトンと地を蹴った。 その背を受け止めるものは吹き上げる谷風以外何もないというのに、 心地よさげにさえしながら空に大の字になり、赤いコートをはためかせて小石のように落ちていく。 「何が目的だ……」 それでも崖っぷちに駆け寄って銃を向けたがやがて諦め、武器を腰に収めて低く呟いたネロもまた、 「迷いの森」へと足を踏み入れた。 「なぜ教えなかった!」 教皇への状況報告を終えて円卓の一隅に腰を下ろしたクレドを、 ずかずかと入室してきたアグナスが鼻息荒く問い詰める。 教皇の前である事をたしなめられても、その勢いは止まらない。何せ…… 「あの小僧は、あ、あ―――悪魔だぞ!」 それを馬鹿な、とあっさり切って捨てるクレド。 「知らぬフリか?貴様の部下だ!」 さりげなく逸らした視線の先に回り込まれ、クレドの眉間のシワがいつにも増して深くなる。 「閻魔刀を復活させた!貴様の!貴様の責任だぞ!こ、こ、この……!」「クレド」 片眼鏡の鎖を跳ね上げて尚も言い募ろうとしたアグナスを静かな声がさえぎった。 「何なりと」即座に背筋を伸ばして向き直ったクレドと対照的に、アグナスがおたおたと彼と教皇を結ぶ線上から身を引く。 「その小僧を捕らえよ」 人差し指を軽く立て、向けられた下知に「お望みならば」忠実な騎士は従うかと見えたが、 忠実とは言いがたいが部下であり、そして家族とも言える青年の身柄を差しだす事に 或いは逡巡があったのかも知れない。 「しかしダンテが……」「ダンテは、私が」 珍しく言い訳めいた事を口にした彼の言葉尻を肉感的な声がせき止める。 「頼まれてくれるか?」 「喜んで」 わざとのように豊かな胸を見せ付ける前屈みの姿勢で座っていた椅子から立ち上がったグロリアは 数歩進んだ所でこちらを振り返ると、「ご息災で何よりですわ」優雅な一礼をよこし、歩み去っていった。 「よろしいので?」クレドが尋ねると穏やかに教皇は応える。 「あの女が魔剣をもたらし―――神の完成に貢献したのは事実」 しかしそれでもクレドは懸念が晴れない様子だ。 その通り、円柱の影では彼曰くの「得体の知れぬ女」がいまだ彼らの様子を窺っていたが、 やがて立ち聞きをしていたにしては大胆な足取りでその場を立ち去った。 「問題があっても対処できる。素性の予想もついておるからな」 それを知ってか知らずか、薄い笑いを浮かべてそう談じた教皇は、円卓の上に置かれたクレドの手に自らの手を被せ、軽く叩いた。 「では……クレドよ。ネロと閻魔刀はお前に任せる」 「仰せのままに……」 ひと時の間、物思わしげに俯いたが直ぐにクレドは顔を上げると命令を実行するべく 大股に部屋を出て行った。 クレドが立ち去るが早いか、その背を睨みつけていたアグナスがゆっくりと教皇の耳元に顔を近づける。 「ネロはクレドの妹と親しいようです。うわ言で何度も名前を……」 ひそやかな囁きを受け、教皇は無言で片眉を跳ね上げた。 森の中、谷の上にかけられた橋を渡るネロに、巨大な蛇とも龍とも付かぬ生き物が襲い掛かる。 宙を泳ぐ大蛇は鉄板の橋を軽々と破壊しながら逃げるネロの背中に迫ったが、 すんでの所で橋を渡り終えた彼が渓谷へと続く細道に飛び込むと、天高く舞い上がって何処へともなく姿を消した。 密林の再奥部は苔むした奇妙な石柱に囲まれた広場になっており、入り口の丁度対面には割れ目から緑の光が覗く巨大な石版が聳え立っている。 放つ光の色こそ違えど、その機能は恐らく依然見たものと同じだろう。 石版を睨みつけながら広場の中ほどまで足を進めたネロの背後で、唐突に土煙と、木々のさんざめきが沸き起こり、密生した木立を割ってあの巨大な蛇が襲い掛かってくる。 咄嗟に身を避けたネロが椰子の木にも似た蛇の鱗を掴むと、大蛇は天に向けて跳ね上がった後急降下して、身をくねらせつつ猛烈な速さで樹間を縫って泳ぎだした。 振り落とそうとしてか時折茂みの中にまともに突っ込むのに耐えながら蛇の体を殴りつけるが, 一向に効果がない。通り過ぎる木の幹に顔を殴られ、あわや落下するかという刹那、 猫さながらに身を捻って蛇鱗を掴みなおし、危機を免れたネロは息をつく間もなく蛇の背に沿って 駆け出した。最初こそ少しふらついたものの、直ぐに体勢を立て直し、ハイスピードで迫ってくる枝々を次々飛び越え、文字通り蛇行しながら宙を行く蛇体をぐんぐん駆け上っていく。 急カーブを切ろうとした蛇が身を捩じらせて、丁度頭の前に来たその背に飛び移ると、ネロは大ジャンプして鎌首をもたげた横顔を殴りつけようとしたが、宙を飛来した「何か」が彼にぶつかり、叩き落とした。 「わらわの子を受け入れよ!」 女の声が叫んで、落下していく彼に向かい、更に数発が蛇の鱗の間からマシンガンの弾のように飛び出し、追いすがる。 落ちながら、それでもネロがブルーローズを掲げ、殺到する「わらわの子」 ……巨大なホオズキのような朱色の木の実……を撃ち割ると、地面を削って着地した彼の頭上で絶叫が響き、蛇の頭がばっくりと四つに割れた。 グロテスクな花にも見える赤い切り口の中央から雌しべのようにその身を生やしているのは、 長い触角を持った爬虫類めいた容貌の女だ。 「わらわの子を!貴様!」 叫ぶや、一直線に突っ込んできた女大蛇をかわし、ネロはツタに覆われた石の門柱の上に飛び乗った。 「ハタ迷惑な子造りだな」 勢い余って地面に大穴を開ける衝撃もなんのその、怒り心頭の様子で長い尾を打ち振る女怪……エキドナを更に激高させる言葉を投げる。 「侮辱する気か、小僧め!八つ裂きにしてくれる!」 当然の如く更に怒り狂ったエキドナはわめきたててネロをひと呑みにするべく飛び掛かり、彼は彼女を迎い撃つべく、木の葉を散らして門柱から飛び降りた。 緑光を放つ石版を背に、ネロは無言で腕を組み、荒れ果てた遺跡に立つ土埃を眺めている。 彼に敗れた女怪がその中から飛び出して脱兎の勢いで脇をすり抜け、石版の中に逃げ込もうとしたが、 「逃げる気かよ!」やおら閃いた悪魔の腕が蛇身の尾をがっちりと捕まえてそれを阻んだ。 「人間如きに……なんたる恥辱!」 金切り声で歯噛みして、エキドナはぎゅりぎゅりと身をよじり、たまらずネロは手を放してしまう。 燐光の飛沫を放って女悪魔は石版の中に消え、「逃げるなら出てくるなよ」ぼやいたネロは 地面に落ちた彼女の置き土産……彼女の「子」である赤い木の実を拾い上げる。 「おまけにポイ捨てか?」 石版に向かって突きつけた魔の腕がまたしても勝手にそれを取り込んで、ネロは低く溜息をついて身を翻した。 ジャングルを抜けると同時に魔力の影響も抜けたのか、騎士団の本拠地である海上に突き立った白亜の塔に続く道を行くネロに向かって吹き降ろす風には、黒ずんだ枯葉が踊っている。 白い柱が見下ろす長い階段を上りきり、円状の広場に差し掛かったところでふと足を止める。 奥の入り口からこちらに向かってクレドが大股に歩を進めていた。 いつもどおりの苦い顔。なのにネロはなぜだか我知らず拳を握り締めている。 「……怒ってるのか?」 右手を隠すように体勢を変えて、冗談めかして笑いかけてみる。 相手は無言のまま、返事もしない。目の前までやってきたところで小さく息を吐き、笑みを引っ込めたネロは強い口調で問いかける。 「教えてくれよ。教団の目的は?ダンテの正体は?」 返ってきたのは「お前が知る必要はない!」それにも増して激しい声と―――叩きつけられた抜き身の剣だった。 視線は完全に逸れていたが、鞘鳴りの音が彼に危機を知らせた。 だが相手は騎士団長を名乗るほどの男である。 兜割りに振り下ろされた一撃目は反射で避けられても、飛びのいた無防備な姿勢では即座に刃を寝かせた横薙ぎの二激目は躱せない。そして、次の瞬間。 血しぶきの代わりに火花が走り、肉が裂ける音の代わりに甲高く硬い音が響く。 剣を弾き返されてよろめき、「悪魔に憑かれたか……」憎憎しげに唸るクレドを睨み返しながら、 それでもネロは彼の前から異形の右腕をコートの背に隠した。 「あんたを傷付けたくない。キリエが悲しむ」 その名を口にするときだけ僅かに目を伏せるネロの、張り詰めた囁きに 「“傷付ける”?甘く見られたものだな」 息だけで笑ったクレドは向けていた剣を下ろす。 目を閉じて腕を開き、雄叫びと共に大きく一つ身じろぎをするとその体から金色の光が湧き出して 「あんたも……」ネロは愕然と呟いた。 赤く光る目、猛禽のような鈎爪をそなえた足。頭上に不完全な輪を描く一対の角。 宙に浮かんだクレドは片翼の羽根を広げ、盾と化したもう片翼をかざして誇らしげに叫ぶ。 「神に選ばれし者のみが―――人を超え、生まれ変わるのだ。天使としてな!」 「違う……それは、悪魔だ」 見上げるネロが一歩二歩と踏み出して、低い声を震わせた。 「騎士長として―――貴様を捕らえる。教皇の御為に!」 家族同然に暮らした者の声も最早届かないのか、一方的にそう断じて剣を突きつけてくる「悪魔」……アンジェロクレドを見つめるネロの顔が一瞬だけ悲しげに曇った。 最後の力を振り絞り、盾の片翼をかざして突っ込んできたクレドをネロは悪魔の腕で受け止める。 裂帛の気合と共に渾身の力をこめて振り払うと、吹き飛ばされたクレドが石畳の上に転がった。 悪魔の右腕がまた眩い光を放っている。 それを確かめようと腕をもたげかけたネロの耳朶を「まだだ!」荒い息の下から叫ぶ声が打って、彼ははっとしてそちらに目をやった。 肩を波打たせて這いつくばっていたクレドが立ち上がろうとしていた。 が、白い羽と鱗に覆われていたその体は人間の物に戻っている。 先刻の右腕の輝きは、クレドが宿した「帰天」の力を吸い取ったものだったらしい。 「まだ終わっていない!」 叫ぶやクレドは剣を振り上げ、駆け出すと、ネロに向かって振り下ろした。 しかし、しょせんは人間の力、しかも先刻までの戦いで疲れきった体である。 あっさりと受け止められてクレドは再び吹き飛ばされ、地面に大の字になった。 陰鬱な表情で右手を眺め、小さく首を振ってネロはゆっくりとクレドの元に歩み寄る。 「強い……」力尽きたクレドには上がった息を弾ませながら肘だけで後ずさることしか出来ない。 あぎとのように開かれた異形の腕、それをなすすべも無く睨むだけのクレドとネロの距離がしだいに縮まり、そして……唐突に、悲鳴が響いた。 弾かれたようにネロは背後を振り返る。 どうあってもここにいるはずのない人間。誰よりも、何よりもこの場にいて欲しくない人間がそこにいた。 「キリエ……」 キリエの視線が落ちる。驚きと悲しみに満ちた目が悪魔の右手を見つめている。 慌ててネロはそれを背中に隠した。 キリエの視線がネロの背後に移る。咎めるような視線を追って振り向くと、彼女の兄が立ち上がることさえできず満身創痍で呻いている。 「これは……違うんだ……」 息を詰まらせながらする言い訳は、何一つ効をなさないようだった。 「なぜ、こんな事を……」 胸の前に組んだ両手を握り締め、キリエは何度も首を振りながらネロから後ずさっていく。 まるで……まるで、彼が悪魔にでも変わったみたいに。 握り締めた彼女の両手は、彼があげたばかりのペンダントを包んでいるのに。 思い余って駈け寄ろうとしたとき、誰かが擦り寄るようにしてキリエの脇に寄り添った。 「私が言ったとおりだろう?」 アグナスは鼻で笑うと、射殺しそうな目で睨むネロを悪魔が変じた剣で指し、 「ネロは悪魔だ」キリエの耳元に顔を寄せて囁いた。 「クソ―――」 逆鱗に触れる真似をしたのは誰なのか。 悟った彼は声を荒げて掴みかかろうとしたが、アグナスは彼に剣を突きつけたままキリエの背中に隠れ、 「ネロ……」泣き出しそうなキリエの声が文字通り彼に対する盾になる。 「安心しろ。殺しはしない」 相変わらずその耳元で囁きつつキリエの肩に小指を立てた手を置いて「……今はな」アグナスはネロに向けていた剣を手元にひきつけた。 突然向けられた刃に息を呑むキリエを見て、ネロは奥歯を噛み締める。 ありありと殺気立った様子にアグナスが今更ながらの疑問を投げた。 「それにしても―――そんなにこの女が大事か?」 「彼女は関係ない!放せ!」「アグナス!」 「この女が大事」なのはネロだけではない。 やっとの事で立ち上がったクレドが足を引きずりながらやって来て 「何のつもりだ!これは私が賜った任務、下がれ」 当然の抗議を投げたが、アグナスは今までの溜飲を晴らすつもりか錦の御旗とばかりその言葉尻に 「これは教皇の御命令なのだ。貴様の妹を利用せよ、とね」 とおっかぶせた。 クレドが唖然として目を見開き、ネロは怒りに体を震わせる。 「何!?」 駆け寄ろうとしたクレドの腕をとっさにネロが掴んで止めたが、遅かった。 眩い光と衝撃波が放たれ、弾き飛ばされたクレドは床を滑り、 何とか耐えたネロが覆った腕を顔の前からのけた時、そこにアグナスはいなかった。 羽音に振り仰ぐと既に悪魔に身を変じたアンジェロアグナスが気を失ったキリエの襟首を掴んで中天に浮かんでいる。 「女を助けたいなら追って来い。急がねば命の保障はせんよ」 そう言い捨てて高笑いすると、アグナスは毒々しい燐粉を振りまいて飛び去った。 「教皇が―――キリエを……?」 ぼんやりと呟く声を背後に聞いてネロはコートの裾を翻して振り返った。 「奴はどこへ……本部か!?」 愕然と座り込んでいるクレドを引っ掴んで引きずり起し、噛みつかんばかりにして問いかける。 「たぶんな」 よろよろと起き上がり、クレドはふらつきながら後ずさる。 「ネロ。勝負は預ける。真相を確かめねば」 弱弱しい光が明滅して、クレドもまた悪魔に変わり、白い羽根を散らして飛んでいく。 その行先を見上げるネロの右の拳は、いつしか硬く握り締められていた。
https://w.atwiki.jp/lee-matome/pages/48.html
確反 技名 コマンド 判定 ガード後 確反 備考 閃光烈拳 LP,LP,RP 上・上・中 -17F 膝 鬼哭連拳 LP,RP,RP 上・上・上 -12F ワンツーミドル、ウィップ 鬼風門 LP,RP,RK 上・上・中 -10F ワンツーミドル 裏拳二段 RP,RP 上・上 -13F ワンツーミドル 走魔輪廻 6RK,LK -16 踵切り 3RK,RK 中・中 -15F STF、膝 骸打ち 2LP 中CS -10F ワンツーミドル 皿砕き 2LK 下 -14F ヒルブ、インフィニティ 紫雲二段蹴り 2WK 下・中JS -15F 膝 腓骨抜き 1RP 下CS -11F インフィニティ 蛇毒気掌 4LP,RP 上・中 -12F ワンツーM、ウィップ 闇浮蹴 4LK 中JS -16F 輪廻 8RK 中JS -20? インバーテッド 牛頭旋風3発目 66LK,LP,RK 中・上・下 -15F 膝、ヒルブ 羅刹門・壱3発目 46RP,LP,RP 中・中・中 -13F ワンツー、ウィップ、フロント 1~2発止め -12F 羅刹門・弐 46RP,LP,3RP 中・中・中 -11F ワンツー、ウィップ 追い突き WsRP 中 -12F ワンツー、ウィップ 踵落とし WsRK,RK 中・中 -15F STF、アシッド 風神拳 6n23RP 上 -10F ワンツーミドル 雷神拳中段脚2発目 6n23LP,LK 中・中 -14F ダブシグ レボツバで割り込み 雷神拳中段脚2発目 6n23LP,RK 中・下 -20F 小サマー 奈落1発目 6n23RK 下 -23? 小サマー、大JRK 奈落2発目 6n23RK,LP 下・中 -15F 膝 等活閃空 6n23LK 下 -18F 膝、ヒルブ デビル側の確反 技名 コマンド 判定 ガード後 確反 備考 レボツバ2発目 RP,RP 上・中 -13F 蛇毒気掌、しゃがぱん ダブシグ2発目 6RP,LP 中・中 -12F 蛇毒気掌 シルバーロー~HMS 2LK,RK 下 -17F 追い突き パンプ 1LK 下 -12F 踵 コンパス 1WK 下 -15F 追い突き インパルスショット 66LK 中 -12F 蛇毒気掌 小サマー しゃがみ中9RK 中 -19F 紫雲 シルバーニー 9RK 中 -12F 蛇毒気掌 ヒールブースター 立ち途中RP,LK 中・中 -14F 蛇毒気掌、最風 スキャッター HMS中RP 中 -13F 踵 シープ HMS中RK 下 -22F 追い突き インバーテッド1発目 6nRK 中 -12F 蛇毒気掌 インバーテッド2発目 6nRK,LK 中 -13F 蛇毒気掌 生ロー 1RK 下 -13F 踵 ブレイジングキック 2_3RK 中 -18F ? 立ち 発生 技名 コマンド ダメージ 判定 ヒット後 10F 閃光烈拳 LP,LP,RP 7,6,12 上・上・上 ダウン 裏拳二段 RP,RP 10,20 上・上 -2 11F 膝鋼 6RK 12 中 +4 12F 蛇毒気掌 4LP,RP 10,22 上・中 ダウン 13F 踵切り 3RK,RK 10,16 中・中 -4 14F 最速風神拳 6n23RP 23 上 浮き 15F 紫雲二段蹴り 2WK 5,20 中・中 浮き 風神拳 6n23RP 23 上 浮き 共通 発生 技名 コマンド ダメージ 判定 ヒット後 16F 胴抜き 66RP 24 中 ダウン 18F 飛魂蹴 9RK 21 中 ダウン 20F 斬首刀 7RP 22 上 ダウン デビルツイスター 横移動中RP 30 中 浮き 23F 遅ライ 小J中RK 25 中 浮き しゃがみ 発生 技名 コマンド ダメージ 判定 ヒット後 10F シットジャブ しゃがみ中LP 5 特中 +6 11F 踵落とし 立ち途中RK,RK 13,18 中・中 -4 14F 追い突き 立ち途中RP 15 中 浮き まとめ 282. エレガントな名無しさん 2008/10/15(水) 00 52 30 ID wIc585jQ0 [] デビルも含めた三島とやる時は、まず自分より5〜6段以上 適正段位が高い相手とやるつもりで集中。 正直リーと三島じゃそれぐらいダメージ効率に差があるから。 クロスレボツバ二発止めに確反入れてこないor安いなら、 ガンガン打っておk。奈落にはしゃがステない。 当然だが、奈落はガードしたらサマーから最大コンボで。 中距離ではエジスラも使える。デビル相手なら浮かないから。 三島戦の基本は左横移動。デビルの基本はそれプラスBDしゃがみ。 横移動を羅刹門で潰してくるようなら、素直に立ちガして 三発目を右横→浮かせ。最速で出し切るようになったらぼっ立ちでいい。 で、攻め手に困って羅刹→奈落とか図々しいことやり始めたらクロスレボツバの出番。 胴抜きは主に中距離で打ちたくなる技だから、そこは割り切って立ちガ。 完全に読んだら右横でかわして浮かせればいいが、その距離は奈落を先端でくらうから注意な。 壁まで押し込まれたら、リスクからしておそらくほとんどのデビルが 鬼鐘楼7の奈落2、BDが1ぐらいで択ってくるはず。 おそれず立ちガして、なんとか切り抜けるべし。 閃光二発止めはガードしたら-1なので下手に暴れない。暴れるならしゃがPがおすすめ。 とまあ後手後手な対策しかないが、なんとか少ないチャンスをモノにして 運んで息の根を止めてあげてくれ。 その対策は違くね?って人もいると思うが、一応赤段なので参考程度にはしてほしい。 頑張れ。 メモ コメント 名前